イベントレポート
ワイヤレスジャパン2013
軍事用無人飛行機を空中基地局に改造、災害時向け無線システム多数展示
(2013/5/31 19:29)
5月29日~31日に東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2013」では、併催イベントである「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013」において、災害時における通信ネットワーク構築のための技術が多数展示された。
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)では、自身のブースのほか、「信頼できる社会インフラに役立つワイヤレス技術パビリオン」において、多くの研究・開発・実証実験成果を紹介した。
全長が約1.4m、翼長が約2.8mの小型無人飛行機を活用した無線中継システムは、震災で地上の通信網や道路網が破壊されて孤立した地域と、応急的・一時的にネットワークを構築するためのシステムだ。無線中継機を搭載した小型無人飛行機を空中で旋回させ、中継基地局として利用する。孤立地域側の基地局はWi-Fiスポットとなり、住民がスマートフォンなどでインターネットと接続できるようになる。3月に行われた実験では、実効値で最大500kbpsの接続が確認されたという。
NICTによると、使用したのは米AeroVironment製の「Puma-AE」という小型無人飛行機。米国で軍事用として使用されている製品なのだという。災害対策ネットワーク技術の研究目的で日本への特別に輸出を許可してもらい、機体を改造して無線中継機を内蔵した。本来は偵察用のカメラが搭載されるスペースに合わせ、2GHz帯の無線中継機モジュールを制作。飛行時間を確保するために、バッテリーも含めたモジュールの重量を500gに抑えるのに苦労したという。
飛行時間は2~5時間で飛行距離は15km、通信可能時間は1時間半程度。地上基地局とは2km程度離れた状態で運用できるとしており、直線距離で合計4km先の孤立地域までの接続を確保することができる。なお、飛行機のコントロールは地上基地局側からのリモート操作のほか、GPSと連動した自動航行にも対応。設定したエリアで自動旋回したり、バッテリーが切れて墜落する前に自動的にソフトランディングする設定も可能だという。
被災地域でのネットワーク構築技術としては、5月28日に報道発表されたばかりの「メッシュ接続対応コグニティブ無線ルータ」も展示された。
NICTでは従来より、テレビ放送の周波数帯(470~710MHz)のホワイトスペースのうち、干渉のない最適な周波数帯を探して接続を行うコグニティブ無線通信技術を研究・開発しており、IEEE 802.11af Draft 2.0に準拠した無線基地局をすでに発表している。また、これよりも小型の、コグニティブ無線規格としてIEEE 1900.4に準拠した小型のモバイルルータも発表していた。
今回発表されたルータは、コグニティブモバイルルータに、さらにメッシュネットワーク構築機能を追加したものだ。ルータのWAN側はLTE/HSPA/WiMAXに対応しており、その中から最適なシステムを自動選択してインターネットに接続する一方で、近隣のルータ同士がIEEE 802.11a/b/g/nの無線LANにより自動的にメッシュ接続する。これにより、どこか1台がWAN側の接続を確保できていれば、そのメッシュネットワーク内がインターネットと接続され、さらに各ルータがWi-FiアクセスポイントとなってスマートフォンやPCから接続できる仕組み。
NICTによると、電源を入れて配置すればあとは自動的にメッシュ接続が確立されるとしており、被災地にネットワークエンジニアのいない状況でも運用できるようにした。ルータ自体も大きさが90×160×28mm、重さが315gとコンパクトなものになっている。
インターネットだけでなく電話回線が不通になっている状況も想定。インターネット上にIP-PBXゲートウェイを設置することで、ルータにWi-Fi接続したタブレット端末から一般固定電話に発信できるIP電話アプリもデモしていた。
沖電気工業株式会社では、車両アドホックネットワーク技術を活用して、災害時の緊急ネットワーク網を構築する技術を紹介。すでにETC(路車間通信)や一部車種の追突防止機能(車車間通信)で使用されているという5.8GHz帯や、700MHz帯を用い、各車両の車載無線通信システム同士を数珠つなぎにして、被災地でネットワークを構築するというものだ。その一部部分にアンテナなどの「可搬型路側機」を搭載した車両が入ることで、インターネットなど外部とのゲートウェイとして機能する。また、車載システムを搭載した各車両は、それぞれWi-Fiアクセスポイントとしても機能し、スマートフォンなどから接続できる。
災害時専用というわけではないが、日本電気株式会社(NEC)では、免許不要で運用できる60GHz帯無線通信システム「iPASOLINK」シリーズを出展した。見通し可能な2カ所の拠点に対向する専用アンテナを設置することで、企業のビル間などで自前の大容量回線を構築できる。最大通信速度である320Mbpsならば400~600m程度、80Mbpsまで落とせば1000~1500m程度の距離で接続可能という。
NECによると、海外ではすでに140カ国で出荷実績がある。光ファイバー網が発達していない地域で携帯電話基地局のバックボーンなどに活用されているとしており、日本では最近販売を開始したばかり。ただし、日本はすでに光ファイバー網が発達していることもあるため、平常時の専用線のバックアップ回線としての導入や、災害時の臨時回線あるいは被災した光ファイバー経路の迂回回線などの活用を提案していた。
屋外対応のアンテナ一体型無線システム「iPASOLINK SX」と、同じく屋外対応のマルチレイヤースイッチ「iPASOLINK GX」のほか、取り付け金具などを含む標準構成(1対)で、価格は220万円程度。
NECのブースではこのほか、NECマグナスコミュニケーションズ株式会社の高速パケット通信対応のM2M用ルータ「uM200R type-M」を展示。同社によると、従来のM2Mソリューションでは通信システムとしてPHSが多様されていたというが、これを3G接続に変えた製品となる。NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、KDDIの3Gサービスに対応している。LAN側は100BASE-TX/10BASE-T対応の有線LAN、IEEE 802.11b/g/n対応の無線LANのほか、RS-232Cのシリアルポート、GPS機器にも対応するUSBポートなどがある。音声入出力端子も備えており、コールセンターなどとの通話も可能だ。3Gサービスに対応したことで、導入できるシチュエーションがPHSよりも広がり、例えば農地など、従来はPHSでカバーできなかった用途でM2Mを活用できるとしている。