グーグル村上名誉会長「拡張し続けるクラウドを低消費電力技術が支える」


 幕張メッセで開催されているInterop Tokyo 2010で9日、グーグル株式会社 名誉会長の村上憲郎氏が「クラウド、巨大データセンタ、そして、スマートグリッド」と題して基調講演を行った。

無料で提供するビジネス

グーグル 名誉会長の村上憲郎氏

 村上氏は、あらためてGoogleのサービスとビジネスについて紹介するところから話を始めた。Googleのミッションステートメントは「世界中の情報を整理して、世界中の人がアクセスできて、使えるようにすること」。最近ではさまざまなサービスが提供されており、「検索の枠をこえているのではないか」と見られることも多い。しかし、村上氏は「われわれはそう考えていない」と、Gmailを例に挙げて説明。Gmailはメールを後から検索できることが肝であり、情報にたどりつけるようにする検索技術だと語った。

 もうひとつのミッションステートメントは「それを無料で提供すること」。「課金しやすいサービスを考えるのではなく、ベストなサービスを提供する」のが目的だという。そのための収入は広告のみで、総収入の97%が広告収入という数字も語られた。この無料モデルは、この後で語られる電力への取り組みにも関連する。

 なお、村上氏は「よく誤解されている」こととして、「Googleはコンテンツを無償で公開しようとしている」という声を紹介。「Googleはコンテンツを所有しない」と語り、「ユーザーにコンテンツのある場所を差し示すだけ。その先が有料であるか無料であることは、コンテンツの自由。Googleがいうことではない」と説明した。

Googleが悩んできたことがクラウドに結実

 続いて村上氏は、Googleのスケーラブルなサーバー構成について紹介し、自社の歴史がそのままクラウドに向かっていたことを語った。なお、「クラウドコンピューティング」という言葉は米Google CEOのエリック・シュミットが使い始めた言葉である。

 よく知られているように、Googleはセルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏がStanford大学での研究成果をもとに創設した。サービス開始時点から、サーバーは手作りで製作して運用している。

 村上氏はこれを「象徴的なスタートライン」だと語る。Googleでは現在にいたるまで、サーバーをメーカーから購入せずすべて独自のマシンで運用している。現在では、サーバーのハードウェアメーカーとしても片手に入るぐらいの規模だという。「サーバーを買うのはサステイナブルではない」という考えによるもので、こうしたスケーラビリティとサステイナビリティが、クラウドにつながっている、と解説した。

起業前の研究室1998年の創設時。ワークステーションが1台置かれている
ボードが詰め込まれた初期の手作りサーバーGoogleのクラウドコンピューティングサービス

 現在、企業などに向けたアプリケーションとしてGoogle Appsが提供され、「最大の顧客はGoogle自身」というほど社内で使い込まれているという。また、独自のWebアプリケーションを動かすインフラとしてGoogle App Engineが提供され、「成功するほどインフラ拡張のミスマッチになる」というWebサービスの問題点に対応している。これらは「Googleが初期に悩んだことが結実したもの」だと村上氏は語った。

電力削減から、低廉な電力供給へ

 ユーザーがクラウドを享受するにつれて、提供側には難しい問題も出てくる。例えば、YouTubeでは平均して1分あたり24時間分の動画がアップロードされ続けているという。そのため、大量のデータを収納するためのデータセンターを無限に作り続けなくてはならないことになる。しかも、サービスは無料または安価で提供している。

 この問題へのひとつの取り組みとして、村上氏はコンテナ型(ウェアハウス型)データセンターを紹介した。標準的な貨物コンテナにサーバーを詰み込み、そのコンテナを広い空間に詰み重ねる。これはハードウェアコストだけでなく、電力消費の低減(Efficient Computing)が目的とされている。

 総電力消費をコンピュータの電力消費で割ったPUE(Power Usage Effectiveness)指数には、冷却の問題などから、日本のデータセンターで2.0程度だと村上氏は言う。それに対して、Googleのデータセンターでは1.2を切るものも出てきており、ベルギーのデータセンターでは約1.1に達したことが解説された。

YouTubeのアップロード量の増大現在のデータセンター
PUE削減への取り組みベルギーのデータセンター

 電力コストの削減としては、電力自体を低廉に供給することにも取り組んでいることも紹介された。マウンテンビューにあるGoogleのオフィス棟では、屋上に太陽光発電パネルを敷きつめ、オフィスの電力の1/3を賄っているという。さらに、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーについて、自社だけでなく、世の中に対して「Clean Energy 2030」という提言も発表している。

 これらをふまえて村上氏は、再生可能エネルギーは小口発電であることが多いため、それらを集積するための新しい電力分配網、つまりスマートグリッド(賢い電力網)が必要だと主張した。村上氏によると、スマートグリッドとは「電力網と情報網が論理的に束ねられたもの」となる。

 村上氏は、スマートグリッドのインフラにより、人と人とのコミュニケーションの時代から、Internet of Things(人と物、物と物とのコミュニケーション)に発展するとビジョンを語った。具体例として挙げられたのが、今年発表されたGoogle PowerMeterだ。リアルタイムに電力消費量をモニターする「スマートメーター」で、iGoogle上に表示したり、twitterに警告を送ったりできる。

オフィス棟の太陽光発電パネル。オフィスの電力の1/3を賄うGoogle PowerMeter

「黒船として日本のインフラに貢献したい」

 村上氏は最後に、日本の法制度について危機感を示した。現在の日本の法では、コンテナデータセンターを設置しようとしても、建築法や消防法、労働基準法などに抵触して設置できないという。また、Google PowerMeterのようなスマートメーターも設置できず、「このままいくと日本のスマートメーターはガラパゴス化する」と警鐘を鳴らした。

 そして、「Googleはよく黒船と呼ばれる」ことを引き合いに出し、日本のインフラをよりよくするためにGoogleも貢献していきたい、として講演を締めた。


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(高橋 正和)

2010/6/9 16:30