日本でのクラウドの可能性は、IDC事業者らが議論


 秋葉原コンベンションホールで開催中の「Internet Week 2009」で24日、「クラウドの虚像と実像」と題した、クラウドコンピューティングに関するセッションが行われた。

米国型クラウドサービスを日本で展開するのは不利だが、実現可能性はある

さくらインターネットの田中邦裕氏

 セッション前半には、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏が、ホスティングやデータセンター事業を手掛ける立場から、GoogleやAmazonが提供するクラウドサービスと日本企業が提供するクラウドサービスの違いや、日本でも米国型のクラウドサービスが実現するかといったテーマについて講演した。

 田中氏は、集中処理を行っていたメインフレームの時代から、分散処理を行うクライアント・サーバー時代に移行したが、さらに分散したリソースを仮想化技術などにより集合させるクラウド時代に移行しつつあると説明。ユーザー視点からは、ITは目的ではなく手段であるということが明確になり、自社でサーバーを所有するよりも、リソースを利用した分だけ対価を払うという考えが浸透してきた結果、クラウドコンピューティングが注目を集めているとした。

 また、AmazonやGoogleがクラウドサービスを始めた背景には、ピーク時に備えた余剰のサーバーリソースを販売することで、ハードウェアの利用効率が向上できるというメリットがあったためだと指摘。一方で、SIerやIDC・ホスティング事業者などがクラウドサービスを提供しようと思っても、クラウド化によって売り上げが減る可能性があり、こうした事業者にとってクラウドはあまりありがたくないものだとした。

AmazonやGoogleにとっては、クラウドを販売することでハードウェアの利用効率が上がるSIerやIDC・ホスティング事業者などにとっては、クラウドは売上減につながりありがたくない

 田中氏は、AmazonやGoogleなどの事業者が提供するサービスを「USクラウド」、日本のSIerなどが提供するサービスを「和製クラウド」と呼び、両者を比較。「和製クラウド」は、特定の企業や団体が専有して利用する「プライベートクラウド」の形態が多く、SIerにとっては既存の商品・サービスの延長線上にあって、クラウドというプロダクトを販売しているものが多いと指摘。料金も高額なものが多いが、サポートやカスタマイズなどはUSクラウドには無いきめ細かさがあるとした。

 こうしたことから、USクラウドと和製クラウドは「どちらが本物のクラウドか」といった議論は不毛で、考え方もターゲットも異なる別のものだと主張。現状では、和製クラウドの方が多くの日本企業のニーズにマッチしているが、今後何らかのパラダイムシフトが起これば、一気に日本でもUSクラウドが主流になる可能性もあるだろうと語った。

「和製クラウド」は従来サービスの延長、サポートはきめ細かい「和製クラウド」と「USクラウド」は考え方もターゲットも異なる

 また、USクラウドは、大量のサーバーを持つコンテンツ事業者が余剰リソースを売るという構造だが、日本のコンテンツ事業者はそこまでの規模ではないと説明。国内ユーザーだけを対象としたコンテンツでは規模が小さいままで、日本のコンテンツ事業者がUSクラウドと同様のサービスを提供するのはスケールメリットの面からは不利だろうとした。

 ただし、日本でクラウドサービスを展開するためのコストを考えた場合には、日本の電気代は米国に比べてもそれほど高いわけではなく、回線代も安いと指摘。また、データセンター事業は人件費の割合は低く、東京以外であれば土地代も高くないため、日本でもUSクラウドと対抗できるサービスを実現できる可能性はあると語った。

日本のコンテンツ事業者はスケールが小さいため、コンテンツ事業者発のクラウドはあまり期待できない電気代や回線代などコスト面では実現可能性も

クラウドは目的ではなく手段、クラウドに適したサービスで使うことが重要

ビーコンエヌシーの國武功一氏
NTTコミュニケーションズの林雅之氏
ライブドアの伊勢幸一氏

 セッション後半のパネルディスカッションには、さくらインターネットの田中氏と、ライブドアの伊勢幸一氏、ビーコンエヌシーの國武功一氏、NTTコミュニケーションズの林 雅之氏がパネリストとして登壇。日本のクラウドコンピューティングサービスの可能性について議論が交わされた。

 AmazonやGoogleのようなクラウドサービスが日本で登場する可能性について、田中氏は「ハードウェアはある程度チープなものを使って、それを仮想化技術で抽象化する。そのためには、ハードウェアと運用コストをどこまで安くできるかが鍵になる」とした。國武氏は、「コンシューマー向けのホスティングを提供しているような事業者であれば、同じ規格の古いサーバーを活用しようといったこともできるかもしれないが、エンタープライズ向けのシステムは顧客ごとにカスタマイズされているので再利用が難しい」と語った。

 林氏は、北海道の石狩市で進められているグリーンデータセンター構想を紹介。この構想では、雪を冷房に利用することでデータセンターの電力を大幅に低減できるといったメリットがあり、海外のサービスに対抗していくにはこうした取り組みも必要になるだろうとした。

 伊勢氏は、「クラウドサービスをやってみようというアイデアはあるが、作る人と運用できる人がいないのでできないというパターンが結構多い」という状況を説明。日本でクラウドサービスを実現する上では、システムの開発力不足が一番の問題ではないかと主張した。

 日本企業がクラウドを利用する際のポイントについて、國武氏は「ソフトウェアでもパッケージを使うという文化が日本には無く、クラウドに対しても従来のセキュリティポリシーをそのまま適用しようとしたがるといった傾向があるため、日本企業にUS型のクラウドが浸透するのは敷居が高いかなと思う」とコメント。田中氏は「クラウドはあくまでも目的ではなく手段だということを明確にして、きちんとクラウドの利点を活かせる形にインテグレーターが誘導できるかが重要。日本の企業は独自仕様を入れたりカスタマイズをしたがるので、その部分をどこまで排除できるかもポイントになるだろう」とした。

 伊勢氏は「アプリケーションプロバイダーから見れば、ハードウェアは見えなくても構わないという状況になってきており、仮想マシン単位でレンタルの対象になれば普及のきっかけになるのでは」と語った。

 林氏は、単にクラウドを展開するだけでは日本は価格面では厳しく、コンテンツやサービスとの組み合わせが重要だとして、「たとえばオンラインゲームのようなものや、アジアをターゲットにしたサービス」をクラウドで稼働させることが必要になるのではないかと指摘。伊勢氏も「オンラインゲームはクラウドとの相性はすごくいい」と、この意見に賛同。「オンラインゲームの多くは開始当初に最もリソースが必要で、そこからユーザーは減っていき、最初の設備は無駄になる。ここに仮想化技術を使うことで、古いゲームのリソースを減らしつつ、新しいゲームにリソースを割り当てるといったことが可能になる。こうしたマッチングをうまく見いだすことが重要だ」と語った。


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(三柳 英樹)

2009/11/25 06:00