大陸系検索エンジンはまとめサービスに向かう? バイドゥ井上俊一社長に聞く


バイドゥ株式会社の井上俊一代表取締役社長

 バイドゥ株式会社が7月末、国内で提供を開始したコミュニケーションサービス「てぃえば」。まだベータ版という位置付けだが、10月19日にはさらにモバイル版も開始している。このサービスは、さまざまなキーワードごとに開設された“部屋”の中で、ユーザーが立てたトピックに対してテキストや静止画、動画を投稿し合って共有するというもので、一種の掲示板の集約サービスと言える。

 検索サイトという先入観があると、このサービスの仕組みを理解しにくいかもしれないが、検索エンジン企業が提供する集約系のサービスといえば、ネイバージャパン株式会社が提供する「NAVERまとめ」が多くの利用者を集め、人気だ。BaiduとNAVER、彼ら大陸系検索エンジン企業がこうした集約系のサービスに取り組む背景などを含め、「てぃえば」のコンセプトについてバイドゥの井上俊一代表取締役社長に聞いた。

――サービス名称の「てぃえば」とは、どういう意味?

 「てぃえば」は、漢字で書くと「貼バ」(バは、口偏に巴)。「貼」は、「貼る」「post(投稿)」の意味。「バ」は、「~しましょう」「let's」といった誘いかけを表す接尾語。さまざまなキーワードごとに1つずつ部屋があって、そこで関連する情報を投稿しましょうということ。

 例えば、ある有名人に対して1つの部屋ができて、その人についての情報は、そこに集約するような管理・運用体制をとっている。同じような話題がいろいろな場所に分散してしまう従来型の掲示板とは異なり、キーワードごとに集約されているのが特徴。自分が興味のあるキーワードの部屋に参加してコミュニケーションできるプラットフォームとして、Baidu.comでは2005年から提供している。

 Baiduの強みは、「検索」「コミュニケーション」「広告プラットフォーム」という3つの柱を自前で開発・保有している技術力にある。日本では過去2年間、検索のみにフォーカスしてきたが、その成果が表れてきた。次は日本でもコミュニケーションの柱を育てていきたいという大きな思いがあり、Baiduのコミュニケーションサービスの中でもコアな「てぃえば」を展開することにした。

「てぃえば」トップページPhotoshopの部屋の例

――検索エンジン企業が、なぜコミュニケーションサービスを手がけるのか?

 Baiduのミッションは、「To Provide The Best Way For People To Find Information(人々が情報を発見する最良の方法を提供すること)」。それは、検索かもしれないし、検索ではないかもしれない。

 ウェブ検索というのは、当たり前のことだが、ウェブページになったものしか対象にできない。求めている情報がウェブページになっているかどうかの保証はどこにもない。ウェブページをいくらインデックスしても、ウェブページにその情報が出ていなければ、どんなにいい検索エンジンでもヒットしない。いわゆるロボット型検索エンジンを手がけていると、検索がBest Wayにならない場合もあることを素直に認めざるを得ない。

「てぃえば」モバイル版

――Baiduにとって、「てぃえば」はソーシャルメディアの位置付け?

 検索の切り口がキーワードであるのに対し、ソーシャルメディアの切り口は“人”であり、人と人のつながり。それぞれよさがあるが、その人から何の情報が来るかわからないというデメリットもある。仕事の話かもしれないし、映画の話かもしれない。食べ物の話かもしれない。キーワードを入れないと何も出てこない検索エンジンが完全にプル型のサービスなのに対して、ソーシャルメディアはプッシュ型のサービスと言える。特にTwitterなどは、ランダムにプッシュされてくる。

 一方、「てぃえば」では、キーワードという軸で、人と人がつながる。あるキーワードに関して興味のある人が集まって情報のやりとりをする。自分が興味のある部屋を見ていれば、その分野の新しい情報がプッシュされる状態。すなわち、プッシュ型だがプル型の要素も入っているという、新しい位置付けのサービスになるのではないか。

 Baidu.comではほかにもいろいろコミュニケーションサービスをやっており、Q&Aサービスも盛んだ。中でも「てぃえば」がよく利用されているため、有効なサービスであることが証明されている。人間の中には、自分の持っている知識を誰かに教えたいという欲求がある。ある分野に詳しいユーザーが積極的に情報を提供し、それを共有する場として当初は使われた。一度情報が集まり出すと、それを見る人や質問する人が集まり出し、どんどん情報が蓄積されていった。

――Baidu.comで人気が出た要因をどう分析しているか?

 非英語、アジア言語では、こういった手段が重要になってくる。なぜなら、世界全体では英語のウェブコンテンツがいちばん多く、情報が英語でウェブページに掲載されることは高い確率でありえる。英語の情報ならば、ウェブ検索だけでもニーズに応えられる可能性がある。人に聞く前に探し出せる可能性が高いため、英語圏でははやりにくい。

 しかし他の言語の場合、ウェブページをいくらクロールしても検索エンジンでは対応できないかもしれない。検索ではない、何らかのプラットフォームが必要であり、こういったコミュニケーションプラットフォームが重要視される。「To Provide The Best Way For People To Find Information」というミッションを掲げるBaiduとしては、両方提供しなくてはならない。

9月半ばからは有名人の公認マークの表示を開始。なりすましではなく、本人の投稿と分かるようにした

――掲示板文化は日本にもあり、Q&Aも定着している。日本でも「てぃえば」は受け入れられそうか?

 「てぃえば」の考え方じたいがユニークなため、そこをきちんと説明し、理解して使ってもらう段階だと思う。例えば、キーワードは全部並列に扱われる点。ヒエラルキーがあって、大ジャンルから小ジャンルへとたどってキーワードを探していく類のサービスではない。思い付いたキーワードで、その部屋にいきなり入って行くような感覚だ。窓にキーワードを打ち込んで、そのキーワードの部屋があるかないか、なければ作る――という流れにうまくなじんでもらうことが必要で、まだ啓蒙フェイズにある。

 いろいろな使われ方が想定されるが、基本的には何らかの固有名詞――場所でもいいし地名でもいい。スポーツチームでも、本の名前でもいい。何らかを特定できるようなすべてのキーワードに対して部屋があるようなイメージ。キーワードは無限にあり、全国の店舗だけでも軽く何十万件に上る。部屋の数は、最低でも数千万単位になると思う。まだベータ版のため、ページデザインは少々さびしいが、利用者の意見を聞きながら日々改良していくスタンスだ。

――Baiduの3本柱のもう1つ「広告プラットフォーム」について、日本での本格展開は?

 現在、ようやく検索からコミュニケーションへ踏み出したばかり。まずは、このコミュニケーションの柱を太くしてからと考えている。最終的には、ウェブ検索を使ってもらい、そこに検索連動型広告を表示して売り上げに持っていきたい。それ以外の収益モデルもあるのだろうが、今のところ、それ以外で成功している検索エンジンはない。

 ただし、ウェブ検索だけ提供していてはだめで、検索以外の周辺のサービスも含めてよくしていかなければ、ウェブ検索の利用も伸びない。コミュニケーションという柱は重要で、「てぃえば」のほかにも、情報共有の何らかのサービスを追加していく。さらにコミュニケーション以外でも、Baiduのミッションに合えばやっていく。事実、毛色は違うが日本語入力ソフト「Baidu Type」もすでに出している。年内にあといくつかのサービスを公開する予定だ。

――インターネット上で情報を探す手段は、今後も検索が主流なのか?

 ソーシャルメディアがここまで台頭してくると、ソーシャルメディア経由で情報を入手する経路が太くなる。しかし、ソーシャルメディアでできいないことがたくさんある。プッシュされた情報の中で、さらに情報を絞り込んだり、何かを探すということは今は不自由なのではないか。あるいは、ソーシャルメディアと検索をシームレスにつなげるようなサービス。ソーシャルメディアを見ていたら自然に検索結果を見ていたというようなことがもっとできると思う。Twitterなどはリアルタイムなので、ほぼフロー状態。そこで流れる情報をストックして、どう活用するか考えていない。そういった面を、検索で補えるのではないか。

――ありがとうございました。



関連情報


(永沢 茂)

2010/11/1 11:00