インタビュー
MVNOサービス事業者に聞く
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新たな市場の開拓を目指すIIJとハイホー
(2013/4/3 11:00)
IIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)といえば、古くからのネットユーザーにとっては高品質なサービスを提供するISPとしての印象が強いかもしれない。そのIIJが、同じくISP事業を行うハイホーを子会社化したのは2007年のこと。以来、同社はキャリアなどが保有している通信網を借りて運用するMVNO(仮想移動体通信事業者)としてモバイル通信にも注力し始め、ISP事業と同時に、SIMカード(以下、SIM)を提供するサービスなどを展開してきた。
SIMカードを挿せるスマートフォンやタブレット、Wi-Fiルーターなどと組み合わせて利用するもので、LTEによる高速通信に対応するだけでなく、低速ながら格安で利用できるプランや端末とセットにしたプランを用意するなど、IIJとハイホーそれぞれで特徴あるサービスを打ち出している。
2013年4月には、IIJの提供するサービス「IIJmio」において通信の高速化やサービスメニューの改定が行われるなど、スマートフォン時代に対応した動きがさらに活発になってきている。とはいえ、IIJとハイホーがそれぞれ独自にモバイル向け通信サービスを提供していることから、各サービスにどういった違いがあるのか気になるところ。自分の使い方に合ったプランを探している人にとっても、各社がどのような考えでサービス展開しているのか知っておきたいのではないだろうか。
今回はIIJ サービス戦略部の小路 麗生氏と、ハイホー セールスマーケティング部の高田 善博氏にお話を伺い、現在提供しているモバイル向け通信サービスの内容や利用状況、今後の計画などについて語っていただいた。
ユーザーは40代のアーリーアダプターとマジョリティ層に分かれる
――IIJとハイホーとで異なるサービスを展開されています。それぞれどういった棲み分けになっているのか教えていただけますか。
小路氏
IIJとハイホーは、確かに競合になっているところもありますが、どちらかというと、「IIJmio」の方がアーリーアダプターでエッジな人向けのもので、ハイホーの方はマジョリティ層に向けて展開しているといった違いがあります。
「IIJmio」では、家電量販店などで取り扱っている「プリペイドパック」のように、新しいサービスをどんどん出していきます。また我々自身で売り出すのではなく、パートナーさんと一緒に、新しいサービスをどんどん出していくという形でやっています。
ハイホーでは、Nexus 7やWi-Fiルーターをセットにしたプランを用意していて、その代わり割安にしていたりとか、商品が届いたら設定すればすぐに使えるという使い勝手の良さを前面に押し出したサービス設計になっています。
――IIJでは、ユーザーがSIMを挿して使っている端末にはどのようなものが多いか把握されていらっしゃいますか。
小路氏
ドコモさんの白ロムのスマートフォンが多いですね。数としてはスマートフォン、タブレット、Wi-Fiルーター、その他の順に多くいらっしゃいます。iPhone 5やiPad miniなどに使われているnanoSIMを取り扱い始めたときは、予想を遥かに超える申し込みがあってびっくりしました。
――ハイホーではどういったタイプのユーザーが多いのでしょう。
高田氏
以前はWi-Fiルーターとともに使われる方が多かったんですけれども、Nexus 7のセットプランを出したところ、ユーザー自身で端末を用意できる層、できない層に分かれていたりとか、どの端末を選べば良いかわからないという方も多くいらっしゃったようで、そういった層にヒットしたのか、今はNexus 7ユーザーが増えました。今後についてはSIMを挿して使える新端末が出てくれば、それに対応してさまざまな端末で使えるように広げていきたいと思っています。
――タブレットとセットで買うユーザーが多いのは意外に感じました。どちらかというとWi-Fiルーターのほうが汎用性高く使えそうに思うのですが。
高田氏
SIM付きのタブレット1台だけを持ち運ぶ方が楽ということのようです。Wi-Fiルーターだとそれを充電して、さらにタブレットも充電する必要があって、でもどちらかのバッテリーが切れるとつながらなくなってしまいます。そういった手間から、端末のみ管理したい方が多いのかなと思います。
――年齢など、具体的なユーザー層を教えていただけますか。
小路氏
IIJをご利用のユーザは30~40代の男性になります。女性はほとんどいらっしゃらないですね。理想としては、女子高生が「やっぱりIIJのSIMだよね」くらい言ってほしいんですけど、そもそも「SIMって何?」という状況ですから(笑)。クチコミを期待して、カリスマ主婦が何かSIMについてしゃべってくれるようになると、よりユーザー層が広がってくるかなと。
高田氏
ハイホーは、自宅で固定回線を引いて使ってらっしゃる方がセカンド回線に使うというパターンで、40代を中心に、30~50代の方が多いですね。
ただ、今のビジネスモデルだと、クチコミなどからさらに広げるのは難しいな、というのがハイホー側の見解です。ようやく少しだけマス化が進んできて、よくわからないけれどタブレットを使ってみたいという層にNexus 7が広がり始めたところです。そういう若年層とか女性層に向けた展開を考えてはいるんですけれども、そういった形で展開するときには、商品を買ったその日にスイッチを入れればすぐに使えるよう、インターフェースそのものを工夫しないと厳しいですね。我々のNexus 7のセットプランもそうですが、添付のマニュアルを見ながらAPNの設定などが必要になっていて、若年層や女性層でそれを理解できるユーザーというのはごく一部ですから。
PC黎明期にあったような、メーカー製PCにインストールされていたランチャーアプリケーションのようなものをタブレットにプリインストールしないといけないんじゃないかとか、そういう議論もしています。たとえば“これをこうやったらできますよ”というこちらから提示した確実と思われる唯一の手順を踏んで、それでもし失敗してしまうと、手立てを失って、使うのをやめて嫌いになってしまうんですよ。それを我々はコンシューマービジネスでさんざん味わってきているので、そのハードルを乗り越えられる端末なり、サービスなりを作ってから出さないと、本当のマス向けのサービスはできないと考えています。
「IIJmio」で、4月からデータ通信料金の翌月繰り越しを開始
――4月からサービスメニューを改定して新たな料金施策も開始するとのことですが、IIJとしては現状、ユーザーからどのあたりが注目されていると思いますか?
小路氏
やはり品質ですね。料金は同じ低速SIMを出されているMVNOさんと比較されがちですが、速度や繋がりやすさ、一定の速度が必ず出て乱高下しないという点で「IIJmio」をしっかりご評価いただいていまして、その結果利用者が増えていっているものと理解しています。
それから、料金については、4月から新たにデータ通信料金の翌月繰り越しというサービスを始めます。これに関しては、他社がやっていなかったというのが一番の理由ですが、キャリアさんでは今月使わなかった通話料を翌月繰り越せる、というのがありますので、そのデータ通信版がほしいよね、というところからスタートしたものになります。繰り越すほどに我々は苦しくなるのですが、翌月分までなら可能な範囲だよね、ということで提供することにしました。
――では、ハイホーのサービスの訴求ポイントは?
高田氏
「IIJmio」はSIMのみ提供する形になっていて、端末を自分で買ったり、頻繁に機種変更したりということができるユーザーが多いと思っているんですけれども、「ハイホー」は端末とのセットプランで我々の回線とともに末永く使っていただくという形が多いんです。
今はモバイルWi-Fiルーターをセットにしているプランと、Nexus 7をセットにしているプランがあるんですが、先ほども申し上げたように、端末を個別に用意することはできないけれども、セットで売っているのであればそれを買って長く使う、というケースが多い。今後も新しい端末を採用したプランを提供できれば、その組み合わせで使っていただけるパターンが増えてくるのかなと思っています。
――ズバリ、今イチ押しのプランは何でしょう。
小路氏
「IIJmio」の一番人気は、最大200kbpsで通信できる「ミニマムスタートプラン」(3月31日までは最大128kbpsの「ミニマムスタート128プラン」と呼称)ですが、おすすめなのは業界で初めて発売した1契約で3枚のSIMを使える「ファミリーシェア」です。
高田氏
ハイホーでは、3月から取り扱っているNexus 7とセットになった「hi-ho LTE typeD with Nexus 7」が一番人気になっています。
――ちなみにライバルというと、それぞれどういった企業になるでしょうか。
小路氏
我々IIJは他のMVNOさんですが、「SIMって何ですか?」という層の人たちですとか、モバイル通信サービスを知らない人にどうリーチしていくか、といった視点に目線に持ってきていまして、コンペティターを意識するよりも、新しいサービス作って、それに食いついてくれる人や、新しい人たちを開拓する、そういったところを考えています。
高田氏
ハイホーとしては、Nexus 7のセットプランなど同じようなサービスを展開しているプロバイダーさんでしょうか。毎月一定量の通信料を使い切ると通信が低速になるという内容であるのに対して、我々は200kbps(2013年3月までは128kbps)ながらその分月額料金が安く、ずっと使えるというサービスですので、ユーザー層としては異なるかもしれませんが、やはり意識はしますね。
――IIJとハイホーの両社とも、サービス展開についてはアグレッシブな印象があるんですが、ユーザーのニーズを拾い上げた結果でしょうか。それともそういった市場を作っていこうという狙いがあるのですか?
小路氏
もちろん両方あります。その一方で、我々はエンジニア集団という側面もありまして、自分たちがこういうサービスがあったらいいよね、という思いから、SIMサービスを作ったという経緯もあります。なので、自分たちの「もっとこういうものがほしい」という思いからサービスを新たに作ったりもしますし、それとは逆に、新しい販路を広げるという意味で、引き合いをいただいたクライアントとどのようにアライアンスを組んでいくか、という話からプランやサービスを広げるという活動もありますね。
音声端末の提供や販路拡大の可能性も探る
――今は音声通話できる端末は取り扱っていませんが、今後そういった端末を提供する予定は?
小路氏
音声通話については、「IIJmio」では難しいかなと思っています。音声通話サービスは(ワンパターンの)音声しかなくて、データ通信でないと差別化が難しいんですね。キャリアと正面対決することになって、しかしキャリアとの差別化は図れない。勝ち残れるのはデータ通信だろうという思いです。050から始まるIP電話であれば、もしかしたら何かできるのかもしれません。
高田氏
ハイホーでは検討はしていますが、音声通話が本当にできるのかどうか、というのが1つ課題なのと、音声端末を扱う際には端末の価格がどうしても高くなってしまうので、そこをどうクリアしていくかが鍵になるのではないかと思っています。Nexus 7でしたらセルラー版でも3万円くらいで買えますが、音声通話可能なスマートフォンになると6~7万円になってきますから。
ですので、ユーザーの負担感を軽くしながら使っていただくにはどうしたらいいのか、というところでサービス設計を考えています。国内メーカーの端末になると値段がどうしても高くなるので、海外端末にも目を向けつつユーザーに提供できるものがあれば検討していきたいですね。
――IIJは法人向けサービスの方面でも強いので、事業所内の通信設備と接続して“050”のIP電話で出先から通話できるようにするというのも市場性はあると思うんですが。
小路氏
IP電話は、今後はもしかしたらあるかもしれない、くらいの感じですね。社内で内線としても使えるスマートフォンを社員に配っている企業もありますので、それに対抗する手段を考えなければなりません。法人向けとして、そういったサービスやソリューションを作っていく可能性はあるかと思います。
――ところで、今国内で入手できる端末のほぼ全てがSIMを1枚しか使えないタイプです。2枚同時に挿せると、用途に応じて使い分けることもできると思うのですが、そういう端末を採用するということはありそうでしょうか?
高田氏
たしかにそうすると使い勝手も良くなるうえにパケット代の節約にもつながりますので、そういう提案ができるといいんですが、現状SIMの2枚挿しが可能な端末は国内では見かけたことがありませんし、データ通信のスタック率が高くなるという話も聞いていますので、課題は多そうですね。
――使用した通信量などをSMSで告知している事業者もありますが、そういったサービスを提供する予定は?
小路氏
そのようなサービスを提供することは可能といえば可能なのですが、実はアラートを必要としているユーザーがそこまでいないみたいなんです。我々のユーザーには、そのあたりをわかって使ってらっしゃるセルフコントロール可能な方が多いようです。
――サービスの販路を広げる計画はあるでしょうか。たとえば空港やコンビニなどでSIMを売るという手段もありそうです。
小路氏
いろいろ手を伸ばそうとはしています。「IIJmio」では「プリペイドパック」を家電量販店などで販売していますが、ああいった形で、住所やクレジットカード情報を登録することなく使えるプリペイド型のものはさらに広げていきたいですね(※開通手続きには発信者番号通知のできる回線が別途必要となる)。販路を広げる際の選択肢の1つとして、空港とか、外国の方が泊まるホテルとか、そういったところで売れたらいいなあ、とは考えています。
――固定回線とのセット売りをされる予定はありますか?
高田氏
ニーズが増えてくれば当然考えなければならないと思っています。ただし、新たに固定回線を使いたいというお客様と、新たにSIMを使いたいというお客様がまだ合致していないところがあります。両方同時に、というよりは既に固定回線は持っていて、SIMだけを追加するケースが多いのが現状です。固定回線とモバイルを組み合わせた活用方法をアピールして、既存の会員様や世間一般に広めてニーズを増やしたいですね。
“マルチキャリア”をキーワードにした差別化も
――SIMを実際に使ってみたら自分のいる地域ではつながりにくかったとか、引っ越すなどの理由で違うキャリアの回線に変えたい、というようなニーズもあると思うのですが、そういった臨機応変な回線切り替えはできないものなのでしょうか。
小路氏
それができると理想的ですよね。キャリアにできなくて我々にできることっていうのは、“マルチキャリア”の組み合わせだろうと思っています。ユーザーの都合に合わせて回線を変えられる、ということができれば我々としても非常にメリットが大きいと思うのですが、やりたい思いはあるものの、そのためには課題も多く、なかなか実現できずにいます。
それでも我々のキーワードとして“マルチキャリア”は打ち出したいと思っています。たとえば、料金はちょっと割高になるけれど、キャリア別にラインナップしたルーターをレンタルできるように、といったサービスはあり得るかもしれません。
――M2Mでの利用なども想定した、帯域をさらに絞った安価なプランについてはどうお考えですか。
小路氏
M2Mについては、法人契約という扱いで「IIJmio」とは別でやっています。当然ながら案件規模が大きくコストメリットが働き、SIMあたりのデータ通信量も個人利用のそれとはことなるのでSIM1枚当たりの単価は何百円という話になります。この場合、競合は法人やM2Mを得意とするMVNOさんです。何万回線という中での戦いはすでに始まっていまして、トラフィック量は決まっているのでそれに対して価格付けして提供するという形になっています。
こうしたビジネスは、タクシー無線を3Gにしましょうとか、全く表には出て来ないところで広がりつつあります。M2M的なナローバンド幅の商材は確実にニーズがあるので、IIJグループとしてはさらに広げていきたいですね。
――M2Mとは別に、通信量が多くないものであれば、製品自体に通信料金も含めた形で売る展開もありそうです。たとえば幼児用のおもちゃに通信機能を追加するというような動きはあるのでしょうか。
高田氏
おもちゃなどに通信機器を組み込むという内容の引き合い自体はあるのですが、現実的には、自宅にWi-Fi環境があれば済んでしまうというケースが多くて、そのおもちゃを外に持ち出して通信させるという利用シーンがないんですよね。外にいるからこそ得られる遊び、みたいなものが提案できたりすると、組み込みのニーズは一気に高まると思っているので、時間をかけてやっていかなければならないと考えています。
――課金スキームの方はいかがでしょう。ドコモは物販でキャリア決済の仕組みを利用して自社Webサイトで野菜を売ったりするなど、キャリアの強みを活かした展開もされています。
高田氏
システムを提供している各社の課金プラットフォームに違いがあって、両社で連携を取ろうと思うと、互換性の問題で大きなカスタマイズが必要になってきてしまう、というのが今の課題です。
それと、我々のプロバイダー事業の方で使っている決済システムを利用させてほしいというクライアントからの引き合いも結構あるんですが、思っている以上にネットショッピングに抵抗が多い人が多いのも事実です。ISP事業者としては、バランスを考えながら提供を考えていきたいです。
――最後に、それぞれのサービスで注目してほしいポイントなどがありましたら教えてください。
小路氏
IIJは、公式Twitterでは「検討する」という発言ばかりでなかなか新しいものができないね、という突っ込みをいただくのですが(笑)、そこは真摯に受け止めて、新しいものをちゃんと出していきます。もちろん、アーリーアダプターの人たちに対しても、ニーズに合ったものを今後サービス展開していきます。「IIJmio」では、4月から「ミニマムスタートプラン」の速度が200kbpsに上がりますので、これまで以上に速度を体感していただけます。
高田氏
ハイホーの方では、タブレットとセットになったプランで新機種にも随時対応していきます。端末選びが難しいというユーザーの方には、そういったセットプランでの使いやすさを提案していきたいと思いますので、ご期待いただければと思っています。
――本日はありがとうございました。