インタビュー

17年分を無料公開した「インターネット白書ARCHIVES」の狙いを聞く

「『インターネット白書』はやめようとしていたのですが……」

 株式会社インプレスR&Dは2月21日、業界3団体と共同で、過去17年間分の「インターネット白書」のバックナンバーを「インターネット白書ARCHIVES」としてWebサイトで無料公開した。ごく一部の内容を除き紙のコンテンツがPDF化され、専用Webサイトからダウンロードして閲覧できるほか、Webサイト上でキーワードによる全文検索も行える。

 全バックナンバーの無料公開は、2006年5月号をもって休刊した雑誌「インターネットマガジン」でもすでに試みられているが、インターネットの歴史を写す鏡として資料価値の高い「インターネット白書」を公開するにあたっては、どのような理由や経緯があったのだろうか。株式会社インプレスR&D代表取締役社長の井芹昌信氏にお話を伺った。

「インターネット白書ARCHIVES」
http://iwparchives.jp/

「インターネット白書」は2012年でやめようとした

「インターネット白書ARCHIVES」のプロジェクトを主導した株式会社インプレスR&Dの井芹 昌信氏

――最初に、「インターネット白書」のバックナンバーを無料公開することにした経緯を教えていただけますか。

 これは言っていいのかな(笑)。実は、「インターネット白書」をやめようとしたんです。2012年版まで出して次に2013年版というところだったんですが、だんだん売り上げが減ってきていたのと、インターネット自体がいまや十分に普及したので、もうこの辺でお役目が済んだのかな、という思いがあったわけです。

 それを業界内で話したところ、うれしいことに、「インターネット白書」は業界の中で指標として重要だし、ぜひ続けていってほしいという声が上がったんです。結果、一般財団法人インターネット協会(IAjapan)、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の3団体が支援する形で、今後も「インターネット白書」を出せないかという話になりました。

 インプレスR&Dで取り組んでいる「NextPublishing」という電子出版方式を使えばコストも軽減できるし、プリントオンデマンドも使えるので、それなら続けられるだろうと。それが発端なんです。

――発端はバックナンバーを公開するという話ではなかったんですね。

 支援を表明していただいたのは公益法人を中心とする団体です。そうした団体からご支援していただけるなら、また17年間――今年で18年目になりますが――発行を続けてきた「インターネット白書」の活動全体を考えると、本の発行支援だけでなく、社会貢献という観点から、過去のバックナンバーを公開するという形もあるんじゃないかと思いました。

 それで検討した結果、バックナンバーを全部Webで無料公開していくのが社会貢献としては大きいのではないかということになり、プロジェクトがスタートしたんです。それが去年の秋頃ですね。

――無料でネット公開するとなると、著作権の扱いが困難なように思いますが、どう処理されたのでしょうか。

 17年分ある「インターネット白書」に寄稿してもらった著者さんの履歴を調べて、みなさんにお手紙を出し転載の許可を求めました。200人以上もおられたので一大作業でしたが、ほとんどの方に了承していただくことができました。ありがたいことです。

 調査会社のデータについては、Webでもお断りを入れていますが、「来年以降はこうなる」といった予測をしているような部分は、今見るとかえって混乱する可能性があるので、掲載していないものもあります。たとえば“インターネット人口調査”は、本格調査の最後の年である2006年のものだけ載せています。

――意外に手間がかかっているようですが、無料なので1円にもならない、ですよね?

 これらは3団体の支援で成り立っています。Web制作の費用、PDF化の費用、あと日々の運用費用もあります。Web制作と検索システムの開発に2社と、インプレス内部で6人が関わり、4000ページくらいをPDF化して、検索システムを実装したことも考えれば、低コストでできたと思っています。

 Webシステムと合わせて、紙の「インターネット白書」の出版費用も支援していただいたおかげで、今年の「インターネット白書2013-2014」の値段は、印刷版が2800円(電子書籍版が1800円)となっていて、これまでの6800円から大幅に安くすることができました。

 値段を下げたことによって、たとえば、学生の方でも買いやすくなったと思います。これまでもニーズはあったけれど、値段が高くて学生の方にとっては買いにくいところがあったので。

――今年出た「インターネット白書」も、1年後にはアーカイブに移すんでしょうか。

 次の「インターネット白書」が出ると、1年前のものはだいたい販売寿命が終わることになるので、アーカイブしてきたいと思っています。バックナンバーの販売もゼロではないと思いますが、紙版へのプロモーション効果もあるでしょうし、Webの利便性を考えるとそのほうがいいと思っています。

――とはいえ、インプレスグループは私企業ですから、いつか会社がなくなってしまう可能性もゼロではありませんよね。そういう意味では、公共資産であれば、国会図書館で公開してもらうような手もあったのでは。

 「インターネットマガジン」のバンクナンバーは国会図書館からリンクされているんですよ。でも確かに、これはインプレスR&Dだけで管理しているので、会社がなくなったらどうなるのかという問題はあります。そのため、今回の「インターネット白書ARCHIVES」は、3団体と我々で「インターネット白書委員会」という組織を作って、そこで管理する形にしているんです。将来、うちの会社がもしなくなったとしても、あるいはもしどこか1団体が抜けたとしても、「インターネット白書ARCHIVES」は残れると思います。そこは今回、工夫したポイントなんです。

インターネットの歴史からビジネスのヒントを

――「インターネット白書ARCHIVES」という形で無料公開した目的はどこにあるのでしょう。

 日本でインターネットが生まれたのが約20年前。インプレス的には、「インターネットマガジン」を発売したのが1994年、「INTERNET Watch」は1996年2月に創刊しています。「インターネット白書」も、1996年版から出ている。インターネットをテーマとした媒体は、1994年から1996年にかけていろいろ立ち上げたんですが、先に上げた3つは日刊誌と月刊誌と年間誌なわけです。

 当初から、インターネットは技術的にも進歩するだろうし、世の中にインターネットができたことで産業的、経済的、社会的な変化が次々に生まれるであろうというのもだいたいわかっていました。その3つの媒体でずっとインターネットのことを報じていくことを考えていたわけです。実際、その通りのことをやってきたと思っています。「インターネットマガジン」は2006年に役目を終えて休刊になりましたが。

 そんな中で、今の人たちは、たとえばブログ、SNS、スマートフォンとか、そういうところからぽんとインターネットに入ってくるじゃないですか。かつては、インターネットはすごい、国境を越える、地球の裏側まですぐにメールが届くとか、その仕組みはTCP/IPでどうだとか、そういう話をいっぱいしていたわけだけれど、そんなことは今は一般の人の間では全く話題に上らないですよね。

 どういうメカニズムで、どういう思想で作られ、インターネットにはどういう期待があったのか、といったことは、いまの若い人たちの中では意識されなくなっていると思うんです。インターネットは空気のように、あるいは水道やガスのようにあって当たり前のインフラとなっていますから。もちろん、今の人も昔のことから知らなければいけないということはないですが、知りたいと思う人、知っておかなければいけない人は一定数いて、たとえばネット業界の人は当然知らなければいけない。

 ベンチャー企業でこれからネットビジネスを始めようとしている人たちも、過去にどういうネットビジネスがあって、その結末がどうだったのかということを知っておいた方がいい。ところが、そういうことを今調べようとした時に、ネット検索すれば出てくるものもありますが、おそらく断片的にしか出てこないはずです。それを全部拾い集めて構成し直すには、ネット検索だけでは不十分ではないかと思うんです。

 そういう思いがあって、インターネットマガジンは社会貢献だと思って自前の費用で何年か前に全バックナンバーを公開しました。Watchシリーズもバックナンバー検索で過去のニュースを調べられるようになっていますよね。意外とみんな知らないかもしれないけれども(笑)。

「インターネット白書 2000」から、当時の通信速度/接続方法。通信速度は56〜64kbpsが主流で、接続方法はモデムによるダイヤルアップが約5割を占めていた

――公開されたバックナンバーは、ネットビジネスに携わる人や、もしかしたら他のメディアにとっても、便利で貴重な情報源として使っていただいているかもしれませんね。

 今回「インターネット白書ARCHIVES」ができたことで、インプレスグループがやってきたインターネットの記録、記事を、一般の方が全部無料で見られるようになったんです。関連リンクもあって、インターネットマガジンとINTERNET Watchの過去記事も合わせて見られるようにしています。

 「インターネット白書ARCHIVES」サイトへ来ていただければ、少なくともインターネットの昔のことについてはおおむね調べることができるし、ニュースも、解説記事も、統計資料もあります。これだけ揃っていれば、昔のことを勉強し直すための歴史のヒントを取り出すことができるだろうと思っています。

 インターネットがどう普及してきたか、どんな技術が登場して、世界を変えたのか。どんなものが発展して、あるいは消えていったか。業界の方々も、若い人たちにそういったことも知識として知ってほしいと考えているところがあって、それが一番やりたかったことです。インターネットというものに関して、インプレスはそういうメディア社であると、我々としてもきちんと訴えておきたいし、みなさんにそういうことを学んでほしいというのが一番の願いですね。

――若い人たちに、というのは大事なポイントですね。若い読者に向けた施策など、将来的に考えていることはありますか。

 「インターネット白書ARCHIVES」のWebサイトはブログみたいな仕組みでできているんですが、白書のコンテンツだけでは、今後は年に1回というペースでしか更新されないことになるんですね。そこで、発行の前に記事をポストしたり、業界に対して問うたり、新しい技術を作り上げたのでそれを知らせる、そういう投稿ができるようなメディアができないかなと考えています。

 インターネットの歴史が見える場の上で、今の問題点を語れば、「昔はこういう風に言っていたけれど、今はこうなっているから今後私はこうしていった方がいいと思う」といった話ができる。オフィシャルな感じがあるWebサイトなので、著名人や知識人が日本のあるべきインターネットの姿を議論し合うのも良さそうです。プロが作るコンテンツの場として、一般ユーザーが投稿するTwitterやSNSなどと緩やかにつながっている、そういったものがあるといいんじゃないかなと。

「インターネット白書2013-2014」はトレンド解説に重点

「インターネット白書2013-2014」

――新しい2013〜2014年版の「インターネット白書」で、これまでの白書と変わったところは。

 実は、今回の「インターネット白書2013-2014」は、これまでやってきた独自調査をほとんどしていないんです。企画して、調査して、原稿を書いて――となると、大きなお金がかかってしまいます。そのため今回は、各団体が持っているデータを提供していただいたり、他の調査会社や企業が公表したデータを引用や転載という形で編集・編成しています。

 今までずっと「インターネット白書」を利用していただいた方からすると、調査項目が少ないとか、グラフの数が少ないといった印象を持たれるかもしれません。今回はそれらに代わって、論説やトレンド解説を重視してボリュームアップさせています。これからは、こちらのほうが重要になるという思いもありました。

――たしかに、冒頭の「10大キーワード」や動向に関する解説は充実していますね。

 表紙には「The Internet for Everything」と書いていて、これはいわゆるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)のことを言っているんですね。“すべてがネットワークにつながる”というのが今年のトレンドであると、メッセージとして出しているわけです。

 冒頭の「10大キーワード」でも最初にIoTが来ています。その他には、たとえば“オープンデータ”ってよく言われますが、実際のところ国はどこまでやっているのか、具体的にどういうものがあるのか。この10大キーワードを読んでいただくだけでも相当ためになるはずと自負しています。

多くの方に活用していただきたい〜図版の商用利用もOK

――ちなみに、「インターネット白書ARCHIVES」の図版やデータをプレゼン資料などで使うことはOKなんでしょうか。

 それは大丈夫です。インターネット白書ARCHIVESの内容を出版するというのはNGですが、当時の回線環境はこうだったといったプレゼンや論文などで使っていただくのは、出典さえ明示していただければまったく問題ありません。商用利用、たとえばビジネスプレゼンで使っていただくのもOKです。

――最後に、読者に向けてメッセージをいただければ。

 特に、インターネットビジネスに携わる若い方、技術者、ベンチャービジネスを手がけている方、あるいは今後インターネットに絡んだビジネスを考えている方に、「インターネット白書ARCHIVES」は利用無料なので、ぜひリファーしていただきたいですね。過去の歴史や、かつての成功・失敗事例などが数多くあります。参考にしていただければ、ビジネスの成功にも早くつながると思います。ともかく無料ですから「まずはちょっと寄って、見ていってちょうだい」という感じですね(笑)。多くの方に知っていただき、ご活用いただければ本当にうれしいです。

(日沼 諭史)