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はんだ付けから始める小学生向けBASICプログラミング教室、「IchigoJam」活用してKidsVentureが展開
2016年11月25日 13:00
非営利団体のKidsVentureは、各地で毎月、子供たちを対象にプログラミングや電子工作の教室を開催している。その「IchigoJamプログラミング教室」が11月19日、さくらインターネット株式会社を会場として開催された。
IchigoJamはBASIC言語でプログラミングするボード型コンピューターだ。1500円で販売されている「プリント基板キット版」では、抵抗やコンデンサ、端子などの電子部品を自分ではんだ付けして組み立てるようになっている。
IchigoJamプログラミング教室では、このキット版を使い、子供たちが自分たちではんだごてを使ってIchigoJamを組み立て、BASICによるプログラミングを体験するところまでを行なった。対象は小学生で、定員16名。
電子工作からプログラミングまで体験
イベントは半日で行われた。前半がIchigoJamを作る電子工作、後半が自分で作ったIchigoJamによるプログラミング体験だ。
最初教わったのは、“はじめての「はんだづけ」”だ。抵抗の足を曲げて基盤に挿し、はんだごてで温めてはんだを解かし、最後にニッパーで線を切るところまでが、順を追って説明された。絵や言葉だけではなく、実際にはんだ付けをする動画を何度か再生していたところは、今風だ。
はんだ付けの経験のある子供もいるだろうが、初めての子供も多いと思われるため、うまくいくかどうか、見ていて少し心配していた。しかし、組み立てが始まると、みな器用にはんだ付けをしたのには感心した。もちろん、細かい作業で困っている子供には、スタッフが回ってアドバイスを与えていた。
組み立てが終わった子供は、できた順に前に出てモニターやキーボード、電源をつなぎ、動作チェックする。正常に起動するとBASICのプロンプトが表示されるので、「LED1」と入力するとボード上のLEDが点灯する。これも器用なもので、子供たちは次々と一発でクリアしていく。むしろ、特別参加したさくらインターネット社員のほうが失敗していた。
休憩を挟んで、後半はプログラミング体験だ。それぞれの席にキーボードと小型モニターが配られ、自分の作ったIchigoJamを接続して、自分のパソコンとして操作した。
まずはBASICのダイレクトモードで、先ほどと同じようにLEDの点灯や消灯を試した。そして、行番号付きのプログラムとして、1秒ごとに点灯と消灯を無限ループで繰り返す簡単なサンプルを入力し、「RUN」で実行した。中には、声を出して点灯回数を数える子供もいた。全員のプログラムが動いたところで、プログラムの動作を、すごろくのような図で説明した。
プログラムはESCキーで中断して、そこからプログラムを表示する「LIST」や、プログラムを保存する「SAVE」と読み込む「LOAD」、保存されているプログラムを一覧表示する「FILES」といったコマンドが解説され、みなで実際にやってみた。
その上で、変数を使った計算や乱数を学んだあと、両者を使った4行の「じゃんけんゲーム」を入力して動かした。子供たちも面白がり、自分とプログラムとで勝負したり、隣の席の子供と勝負したりといった光景が見られた。
ちなみに小学生でも、アルファベットを認識してキーボードを難なく操作していた。聞くところによると、最近は小学校でキーボードの操作を教えているのだそうだ。
最後に、大きな紙に感想を書いて、1人ずつ前に出て発表した。「むずかしかったこと」としてははんだ付けを挙げる子供のほか、プログラムを挙げた子供など、さまざまな感想が挙がった。「つぎにやりたいこと」としては、自分のゲームを作りたいという声や、ロボットを作りたいという声などが続いた。
発表した後は、1人ずつ終了証書が手渡された。
BASICなら親御さんも質問に答えられる
イベントを開催した、KidsVenture代表の高橋隆行氏(さくらインターネット株式会社)と代表講師の松田(まった)優一氏(株式会社ナチュラルスタイル)に話を聞いた。
――KidsVentureを始めたきっかけを教えてください。
松田氏:
私は福井で、やはり子供たちがプログラミングを学ぶPCN(プログラミングクラブネットワーク)をやっています。2014年春にスタートしました。今では全国にPCNのクラブがあり、ベトナムやシリコンバレーにもできました。
今、小学生がニンテンドーDSで遊んでいて、中学生になってスマートフォンに変わり、そのまま大人になっていきます。コンピューターを使うだけではなく、プログラミングも知ってもらおうと思って始めました。
あるとき、PCNの創設メンバーの1人である福野泰介さん(Jig.jp)が作ってきたのが「IchigoJam」でした。試しに私の子供に使わせてみたところ、受けがよかったので採用し、今に至ります。
PCNの活動が元になり、高橋さんが福井にいらしたのをきっかけに、2015年春にKidsVentureが始まりました。
高橋氏:
もともと2014年冬に、現在KidsVentureの副代表をしている若狭敏樹さん(ビットスター株式会社)から「子供向けに何かやれないか」と相談されました。ちょうど、Jig.jpの福野さんがさくらインターネットのユーザーだったため、福野さんとIchigoJamを紹介したのがきっかけです。そうして回りから相談を受けているうちに、私が代表ということでKidsVentureが立ち上がりました。
今、KidsVentureを毎月開催しています。一度参加した子供に向けて、次のステップの内容を教えていくというのもできればと思っています。
――見ていて、参加した子供たちが電子工作やコンピューターの操作が上手なのに驚きました。
高橋氏:
最初に教室を始めたときには、電子工作がこんなにちゃんとできるとは思っていませんでした。
松田氏:
私は小学校のときにはんだ付けを親に教わって、自分の子供にも小学生のときに教えました。ちょうどそのぐらいの年齢ではんだ付けを覚えて、例えば兄弟で教えるようになるといいですね。
――教えるにあたって工夫をしているところを教えてください。
高橋氏:
はんだ付けからプログラミングまで、1日でやっているのはほかにない特徴だと思います。
松田氏:
IchigoJamなら1500円なので小学生でもパソコンを1台持てます。小さいのでどこにも持っていけますし、テレビにつなげればどこでも楽しめる。しかも自分で作ったという愛着もあります。
IchigoJamではプログラミング言語としてBASICを使っているところも特徴です。複雑な文法がなく、プロ目線ではなくとっつきやすい。例えば、大文字でプログラムを書くのも、キートップに刻印されているのが大文字なので分かりやすいというのもあります。
高橋氏:
親御さんがコンピューターに詳しくなくても理解しやすいので、子供から質問されて対応しやすいということもありますね。教室で見学しながら熱心にメモを取っていたり。
――子供を参加させた親御さんの目的としては、どのようなものがありますか。
高橋氏:
アンケートを見ると、プログラミングが必修化されるのでというのと、安価に学べるというのと、2つの声が多いようです。そのほかにもいろいろな声があり、電子工作に興味があるからという人もいます。
松田氏:
子供がゲームばかりしているので作るほうを勉強させたい、というお母さんもいました(笑)。将来IT系の仕事についてほしいから、という人もいますね。
高橋氏:
子供は吸収が早いですね。子供のころからプログラミングを学んだ人が、大きくなってIT業界に来るのは楽しみです。KidsVenture出身者が、本当にベンチャーを起業したり。また、IT業界でなくてもプログラミングで学んだ考え方が生かせると思います。
松田氏:
例えば、そろばんの暗算は子供のうちに身に付けていないと、大人になってからでは大変ですよね。プログラミングもそれに近いと思っています
――これからKidsVentureはどのような方向に進もうと思っていますか。
高橋氏:
今はIchigoJamの組み立てとプログラミング入門を教えていますが、次はセンサーロボットも扱っていき、最終的にはIoTにつなげられればと思っています。私が勤めているさくらインターネットでは「さくらのIoTプラットフォーム」β版を出していますが、来年5月ごろにはIchigoJamと組み合せる「IchigoJam IoT」のようなものができればと考えています。それを使って子供がIoTで物作りができれば面白いですね。例えば、夏休みに小学校高学年から中学生ぐらいが泊りがけで集まってIoTの物作りをする、夏休みの自由研究教室とか。
あとは、全国支部をどう作るかを考えています。PCNでプログラミングコンテストを開催しましたが、全国に広げることで同じようにコンテストのようなものもできればと。あるいは一緒にプログラミング甲子園のようなものを開催できれば面白いですね。同年代のライバルがいると励みになりますし、それで毎回レベルが上がっていきそうです。