ニュース

リアル書店で突然コミック作品が売れ出した事例も、「LINEマンガ」無料連載がきっかけで

現在はトーハンとも連携して販売促進

「LINEマンガ」4周年

 「LINEマンガ」主催のプレスセミナー「スマートフォン時代におけるマンガ市場の最新動向について」が4月11日に開催された。電子コミックサービスが主催し、リアル書店の取次、マンガ出版社、電子取次と、立場の異なる方々が呉越同舟で登壇するという、興味深いイベントだった。

 セミナーは3部構成で、第1部は「LINEマンガ」最新実績の発表。第2部はトーハンのコミック営業推進室と白泉社の販売宣伝部の方による、トークセッション「マンガアプリサービス登場によるマンガ流通の変化」。第3部は講談社・集英社・小学館と電子取次メディアドゥの方によるトークセッション「出版社が考えるデジタル時代のマンガ戦略」。順にレポートする。

「LINEマンガ」無料連載の総読者数は1300万人、作品購入のタッチポイントに

 まず、LINE株式会社執行役員の森啓氏より、「LINEマンガ」の最新実績が発表された。「LINEマンガ」はスマートフォン向けマンガサービスで、電子コミックの販売や、無料マンガ連載などを行っている。サービス開始は2013年4月9日で、このほど4周年を迎えた。現在、240社以上の出版社と取引し、18万点以上の電子コミックを配信している。無料連載プラットフォームの総読者数は1300万人、総閲覧回数は42億回に及ぶ。

 ユーザー属性は、男女比が4:6。年齢層は10代が27%、20代が35%、30代が25%、40代が13%と、比較的若めだが極端に偏ってはいない。そのため売れる作品も、新作/旧作を問わず、少年向け/少女向け/青年向け/女性向けといった対象年齢層でも、あまり偏りはないという。

認知経路で「スマホマンガアプリ」が44%
「LINEマンガ」閲覧後のアクションで作品購入が39%

 なお、LINEがマクロミルに委託して行った調査によると、新たなマンガ作品を認知する経路として最も多いのは「書店」の49%だが、次に「スマホマンガアプリ」が44%と接近している。また、「LINEマンガ」の無料連載作品を閲覧した後のアクションとして最も多いのは「次の無料更新を待つ」の61%だが、次に多いのは「その作品の電子または紙(新品)の本を購入する」の39%。つまり、無料連載プラットフォームは、作品購入のタッチポイントになっているのだ。

なぜ書店で売れているのかを調べたら「LINEマンガ」無料連載だった

 続いてのセッション「マンガアプリサービス登場によるマンガ流通の変化」では、株式会社トーハンの川村明氏と、株式会社白泉社の小宮山康司氏が登壇。「LINEマンガ」編集チームマネージャーの村田朋良氏とともに、作品購入のタッチポイントの変化について、実例を交えながらトークを行った。

(左から)株式会社トーハンの川村明氏(コミック営業推進室アシスタントマネージャー)、株式会社白泉社の小宮山康司氏(販売宣伝部部長)、「LINEマンガ」編集チームマネージャーの村田朋良氏
ドラマやアニメ放映後と、「LINEマンガ」無料連載後とで、書店での売れ方は似ている

 LINEの村田氏によると、ドラマ化やアニメ化された原作コミックスの1巻は、リアル書店での売上が放映翌日ピークになる。同じように、「LINEマンガ」で無料連載を実施すると、リアル書店での売上が翌日ピークになる。これは、LINEがトーハンと情報交換することによって把握できたことだという。

 トーハンの川村氏は、3年ほど前に小学館『なみだうさぎ』が突然書店で動いた事例を紹介。通常の売れ方なら、1巻より2巻以降のほうが少なくなるが、『なみだうさぎ』は2巻のほうが売れていた。調べてみたらちょうどそのころ「LINEマンガ」で1巻無料配信をやってたことが分かり、それをきっかけにLINEと情報交換して分析するようになったとのこと。

 白泉社の小宮山氏も、2~3年前からきっかけが分からないのに突然売れる作品がいくつか出ていたという。調べてみたらやはり「LINEマンガ」で無料連載をやっていた。リアル書店での販売促進に繋がるなら、できるだけ事前に書店へ情報を流して仕入れの参考にしてもらいたいが、電子の部署は販売促進部とは別の部隊になっており、電子は施策がスピーディーなので残念ながらすべてが拾えるわけではないそうだ。

 「LINEマンガ」無料連載がリアル書店での販促に繋がることが分かったため、連動フェアも企画されるようになった。「LINE Beacon」を埋め込んだクマの「ブラウン」フィギュアをリアル書店の店頭に置き、位置情報に基づく特典で来店促進を図るような企画も動いている。

「LINE Beacon」を埋め込んだクマの「ブラウン」フィギュア
トーハン×LINEマンガの店頭販売促進策

 トーハンの川村氏は、こういった企画を行う前は、電子書店を競合と捉えるリアル書店が多いだろうと思っていた。ところが、本部への説明も、現場のマンガ担当者への説明も、意外とスムーズだったという。

ストックビジネスでもあるから新刊/既刊にこだわらず売りたい

 続いてのセッション「出版社が考えるデジタル時代のマンガ戦略」では、デジタル事業や販売・宣伝を担当とする、株式会社小学館の飯田剛弘氏、株式会社集英社の鈴木基氏、株式会社講談社の吉村浩氏と、電子取次の株式会社メディアドゥの溝口敦氏が登壇。LINEの森氏、「LINEマンガ」編集チームの原田圭氏とともに、トークを行った。

(左から)株式会社小学館の飯田剛弘氏(デジタル事業局コンテンツ営業室副課長兼マーケティング局コミック宣伝課兼国際メディア事業局国際事業センター)、株式会社集英社の鈴木基氏(デジタル事業部部長代理)、株式会社講談社の吉村浩氏(販売局局次長兼宣伝部長)、株式会社メディアドゥの溝口敦氏(取締役兼事業開発本部長)、LINE株式会社執行役員の森啓氏、「LINEマンガ」編集チームの原田圭氏

 メディアドゥの溝口氏は、LINEとの話を進めていた5年前を述懐。当時は電子vs紙という感覚が世間一般ではまだ強く、トーハンとLINEのトークセッションが行われるなど想像もできなかったとのこと。App Annieの『2016年アプリ市場総括レポート』によると、「LINEマンガ」は世界ランキングの収益部門で8位になっており、バックエンドを支えてきたメディアドゥとしても誇らしいそうだ。

 登壇した出版社はそれぞれ、非常に多くのタイトルを配信している。ところが、スマートフォンの画面は小さいので、1点1点を推すのが難しい。リアル書店はコーナーが確保され平台でユーザーの目に触れるが、電子にはそういうものがない。そこで講談社は、「夏電書」「冬電書」「女子電書」「朝電書」など、1年中キャンペーンをやっているという。我々が行っているのはストックビジネスでもあるので、新刊/既刊にこだわらず売りたいという。

 集英社は、講談社がまだやっていない季節、春と秋に「春マン」「秋マン」キャンペーンを始めた。ダイレクトなユーザーの声が欲しいため、他の出版社に比べると自社アプリに力を入れている。紙の雑誌の売上が落ちている中で、連載が始まったばかりの若い作品が苦しくなっており、無料連載の中でどうやって訴求していけばいいかを相談したいそうだ。

 小学館は、2社の間隙をぬってキャンペーンをやっている。紙の販売はどうしても新刊に依存するが、デジタルコミックはアーカイブビジネスなので、掘り起こしが重要だという。また、雑誌の連載からコミック発売という紙のエコシステムが縮小しつつある中、デジタル発でヒット作を生み出す仕掛けを「マンガワン」などのアプリを通じて行っている。

 LINEの森氏によると、「LINEマンガ」では新刊の販売比率が12%で、残る88%は既刊の売上とのこと。キュレーションやレコメンドはもっと進化できるはずで、そこにはLINEのビッグデータが活用できる。ただ、LINEだけでは実現できないので、出版社、取次、書店とともに今後の戦略を考えていきたいと今後の抱負を語った。

 なお、「LINEマンガ」では現在、記念スタンプの配信や、人気マンガの無料公開、マンガコイン1年分のプレゼントキャンペーンなどの、4周年記念イベントを開催中だ。