Winny開発者の控訴審、検察側・弁護側双方が証人尋問


大阪高等裁判所

 ファイル共有ソフト「Winny」を開発・公開したことが著作権法違反の幇助にあたるとして罪に問われている金子勇氏の控訴審第2回公判が11日、大阪高等裁判所で開かれた。

 この裁判は、2003年11月に著作権法違反で逮捕されたWinnyユーザー2人について、Winnyを開発した金子氏がその幇助の罪にあたるとされ、起訴されたもの。一審の京都地裁は2006年12月、金子氏に対して罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を下したが、弁護側は無罪を訴え、検察側は量刑が軽すぎるとして、それぞれ控訴していた。

 今回の公判では、検察側・弁護側双方の証人尋問が行われた。検察側の証人としては、京都府警ハイテク犯罪対策室の木村公也氏と、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の中川文憲氏が出廷した。

 京都府警の木村氏は、事件の正犯として有罪となったWinnyユーザーに対して京都府警が行った捜査について証言。弁護側は、京都府警が行ったダウンロード実験と実際にPCを見分した際では、利用しているポート番号が異なっているなどの点を指摘していた。これに対して木村氏は、同ユーザーはポート番号を変えたことはないと証言しているが、実際にはポート番号を変更していたものと思われ、PC内にWinnyの古い設定ファイルが残されているなどの痕跡も見られたとした。

 ACCSの中川氏は、ACCSが著作権団体などと共同で実施したファイル共有の利用実態調査や被害額の推定について証言。中川氏は、2006年に実施した同様の調査と、同じく2006年に実施したファイル交換ソフトによる被害額の推定について、調査結果や調査の方法についての説明を行った。一審判決では、ACCSなどが2004年に実施したファイル交換ソフト利用実態調査が引用されており、弁護側ではこの調査は統計的に不十分なものだと指摘している。

 弁護側の証人としては、インターネットイニシアティブ(IIJ)のネットワークサービス本部長でドリームボート取締役の木村和人氏と、慶應義塾大学経済学部准教授の田中辰雄氏が出廷した。

 IIJの木村氏は、Winnyの技術的価値について証言。Winnyの技術はドリームボートの配信システム「Skeedcast」で用いられており、実際に多数のユーザーが参加して稼働していたWinnyは技術的に価値のあるものと説明。現在ではYouTubeやニコニコ動画などの動画共有サービスがあるが、これらのサービスにも著作権法違反となる事例がある一方で、ユーザー自身が作成した動画の配信や、著作権者による公式の動画配信など有意義な使われ方もしており、Winnyにもそうしたビジネスの可能性はあったとした。

 このほか弁護側は木村氏に対して、事件当時に著作権保護機能を有したファイル共有ソフトは存在しなかったことや、著作権侵害を防止する技術の開発は難しいこと、匿名技術は違法行為を助長するものではなくプライバシーを守る技術と考えられることなどを確認した。また、弁護側は木村氏に対して、ISPの立場から京都府警が行った捜査についての意見を求めようとしたが、検察側は今回の証人尋問の趣旨を外れていると異議を申し立て、裁判官が異議を認めたためこの点についての質問は行われなかった。検察側は、WinnyとSkeedcastは異なるものであること、ドリームボートは金子氏が技術顧問を務めており、弁護団の弁護士も役員を務めていることなどを確認した。

 慶應義塾大学の田中氏は、WinnyとCD・DVDの売り上げの関係について調査した研究内容を説明。Winnyネットワークに流れているファイルの全数調査からは、120万ファイルのうちCD・DVDなどの市販ソフトと見られるものは約4割程度しか無かったと説明。残りのファイルについては、著作権者から許諾を得ているか不明なものや、ファイルの断片のようなもので、Winnyに対する調査前の印象からは「意外な結果だった」と語った。

 一方で、ACCSなどが行った調査については、ダウンロードしたファイル名を自由回答形式で尋ねており、例として映画のタイトル名を挙げているなど、回答にはバイアスがかかっており、調査として妥当なものとは思えないと指摘。Winnyによる著作権侵害の損害額が100億円相当とする試算についても、試算はソフトの推定ダウンロード数に平均単価を掛け合わせたもので、実際にはダウンロードユーザーがすべてソフトを購入することはなく、損害額としては適切ではないと説明。研究では、宣伝効果によりむしろ売り上げが増えていることも確認できたとした。

 この証言に対して検察側は、田中氏の調査結果はソフトとして市販されているものを基準としており、ソフト化される前のテレビ番組などが含まれていないと指摘し、田中氏はそうしたファイルの割合は数%程度だったと記憶していると答えた。

 次回公判は7月16日、検察側・弁護側双方の弁論が行われる予定。


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(三柳 英樹)

2009/6/12 12:00