非出会い系サイトの性犯罪悪用を防止、青少年保護の取り組み提言


報告書をとりまとめた「安心ネットづくり促進協議会」の「コミュニティサイト検証作業部会」

 インターネット関連企業や携帯電話事業者、保護者団体、消費者団体、教育関係者、学識経験者などで構成する「安心ネットづくり促進協議会」は29日、「子どもを護るために」と題した報告書を公表した。

 出会い系ではないコミュニティサイトの利用が発端となった青少年の性犯罪被害が発生していることを受け、そうしたトラブルから青少年を保護するために事業者が行っている取り組みを整理するとともに、今後の課題や対策の方向性を示し、業界を超えた取り組みと協力を求めている。

被害者像は、リテラシーの低い初心者

 報告書ではまず、青少年がコミュニティサイトで性犯罪被害に遭うケースについて、加害者像・被害者像を説明している。

加害者像と被害者像の構図(報告書「子どもを護るために」より)

 加害者像としては大きく2つあり、「網羅的な検索やメールの送信を通じて青少年と出会う者/青少年をだまして児童ポルノを作成する者」と「ネットの特性に着目し青少年相手に性交渉を行おうとする者」だ。後者は、ネットの利便性に乗じてついつい犯罪行為に走ってしまう層であり、監視を厳しくすることで抑制できるという。一方、前者は確信犯的であるため、こうした悪用を許さない仕組みが必要となる。

 被害者像については、「コミュニティサイト初心者など、対応能力が比較的低い青少年」を挙げている。報告書の検討段階ではもう1つ、インターネットや携帯電話についてよく理解した上で、青少年側から積極的に援助交際を持ちかける、いわばITリテラシーが高いタイプも存在することが指摘されたが、議論が不十分な段階でこれを報告書に盛り込むことで、犯罪の要因を子ども側に転嫁しかねないとして、今回は被害者像として含めることを見送った。

 したがって報告書では、リテラシーの低い青少年が上記のような加害者から狙われるのを防ぐための取り組みが焦点となっている。ただし、リテラシーの低い青少年におけるパッシブな被害よりも深刻だとの指摘もあり、今後の調査・検討が求められそうだ。

悪意ある大人が青少年にコンタクトできない仕組みを

 SNSなどのコミュニティサイトにおける取り組みの現状としては、大手事業者ではすでに匿名書き込みの禁止や利用規約による悪用禁止といった対策がとられ、被害拡大を防いでいるとする一方で、不適切な書き込みの削除や監視などには今後も引き続き強化が必要だという。

事業者における現状の取り組み(報告書「子どもを護るために」より)

 また、こうした「事後監視」の取り組みとは対照的に、「事前の対策」については多くの事業者で改善の余地があると指摘。大人のユーザーが青少年ユーザーを検索したり、メッセージを送信することの禁止、利用者の年齢やスキルレベルに応じたゾーニング機能など、悪意のある大人が青少年にコンタクトをとれないようにする機能面の制御などが重要だとしている。

 また、リテラシーの低い青少年が安全にコミュニティサイトを利用するためには、フィルタリングも有用だとして、携帯電話事業者などに対して、フィルタリングの加入促進や解除率の低減に向けた取り組みを求めている。

 今後の課題としては、正確な年齢認証のためにコミュニティサイト運営事業者が携帯電話事業者の持つ加入者情報の提供を受けることや、コミュニティサイト内での個人間メッセージ(ミニメール)を監視することの必要性についても指摘し、個人情報や通信の秘密など法制度との兼ね合いから調整を図っていくことが必要としている。

 さらに、大手事業者で対策が進むことで、犯罪者が、対策の緩い中小事業者のコミュニティサイトに移行することも想定されるため、適正な運用・監視についてのノウハウなどを共有していく必要性も挙げている。

 また、第三者審査機関であるモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の認定サイトでも、5件の福祉犯罪が発生したことが警視庁の調査でわかっているという。適切な管理がなされているとして認定を受けた健全サイトでなぜ犯罪が起きたのか、具体的な情報を警察から提供してもらい、原因の分析を進めることが必要だとした。

Twitterなど、従来の監視体制では対応できないとの声も

 報告書は、「安心ネットづくり促進協議会」の下に設置された「コミュニティサイト検証作業部会」がとりまとめた。

「コミュニティサイト検証作業部会」の主査を務めた千葉大学教育学部准教授の藤川大祐氏

 同部会には、ミクシィやグリー、ディー・エヌ・エー、楽天、ドワンゴ、魔法のiらんどといったコミュニティサイト運営事業者をはじめ、ガイアックスやイー・ガーディアンなどサイト監視の受託事業者、携帯電話事業者5社、通信業界団体、第三者審査機関など幅広いメンバーが参加し、7月末から議論してきた。

 10月28日には最終回となる第6回会合が行われ、主査を務めた千葉大学教育学部准教授の藤川大祐氏が、とりまとめた報告書の内容を説明した上で、「何となくリテラシーという言葉を使っているが、特にどのような能力があればコミュニティサイトを安全に利用できるのか、あまり議論がなされていない」と指摘。リアル社会にも通ずる危機回避能力として、利用者に何を求めていくかを引き続き考えていく必要性を訴えた。

 また、出席したSNS事業者からは、短いメッセージをやりとりする、より即時性のあるコミュニケーションが出てきていることを踏まえ、従来の事後監視だけでは不十分であり、年齢認証の重要性が増していると改めて指摘する声も挙がった。会合では、Twitterに代表されるような新しいメディアへの監視体制について、今後の検討課題とすることも確認された。


関連情報


(永沢 茂)

2009/10/29 18:03