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世界初のPC「Alto」を開発、Charles Thacker氏にチューリング賞


 国際計算機学会(ACM)は9日、2009年A.M.Turing賞(チューリング賞)を、Charles P. Thacker氏(67歳)に授与すると発表した。チューリング賞は、コンピューター界のノーベル賞と認識されている。

 Thacker氏は、世界初の近代的なパーソナルコンピューターである「Alto」の設計・開発・製造に携わったほか、Ethernetの開発にも貢献。タブレットPCのプロトタイプも開発するなど、数多くの業績がある。

 一般的にチューリング賞は、理論的・概念的な研究実績を持つ計算機科学者に対して贈られてきた。Thacker氏のような具体的なコンピューターの設計・開発に対して贈られるのは、1967年度のMaurice Wilkes氏に次いで2度目となる。Wilkes氏は、世界初のプログラム内蔵型コンピューター「EDSAC」の設計・開発によって受賞した。

Microsoftの発表資料ページでは、Xerox PARC時代のCharles Thacker氏の写真のほか、受賞を祝う動画も公開。同氏の業績などを振り返りながら、Microsoft Researchのメンバーらがコメントしている

 Thacker氏は、3つの重要なコンピューター業界研究所の創設に携わった。1971年にはXerox PARCに、1984年にはDECのSystem Research Center、1997年にはMicrosoft Research Cambridgeの創設メンバーとなった。

 Xerox PARCでは、世界初のパーソナルコンピューター「Alto」を設計・開発し、製造にも関与した。それまでのメインフレームコンピューターでは、複数の人がタイムシェアリングシステムによって1台のコンピューターを共有するのが普通だった。そんな時代に、ストレージと計算能力をローカルに備え、当時の技術で最大限小型に仕上げた「Alto」は革命的だった。

 GUIを実現するためのビットマップディスプレイとマウスを備え、そのユーザーインターフェイスによってWYSIWYGによるワードプロセッサーを実現した。このような設計は、現在のパーソナルコンピューターにも受け継がれている。

 「Alto」は商業的に販売されることはなかったが、Xerox PARCの中で多数の研究員のパーソナルコンピューターとして配備され、一部の大学でも利用されていた。

 このようにXerox PARC内に多くのユーザーがいたことから、これを接続するためのネットワークが必要になり、Thacker氏は、Robert Metcalfe氏、David Boggs氏、Butler Lampson氏と共同でEthernetを開発することになった。現在のEthernetは当時のものに比べて数千倍の通信速度があるものの、その設計は現在のLAN技術を支配するまでになっている。

 DECのSystem Research Centerでは、現在のマルチコアプロセッシングのベースとなる「Firefly」マルチプロセッサーワークステーションの設計およびハードウェア開発に携わった。

 1997年には英国に渡り、Microsoft Research Cambridgeの創設を支援。MicrosoftのタブレットPCの初めてのプロトタイプを設計・開発し、MicrosoftのタブレットPCチームに籍を置くことにもなった。

 2005年、Microsoft Researchに戻り、現在はMicrosoftシリコンバレーキャンパスにて、FPGAアレイを使ったマルチコアコンピューティングの実験、マルチコアシステムのためのOS研究に携わっている。

 Thacker氏は、カリフォルニア大学バークレー校で物理学の学士号を取得後、大学院で実験物理学の加速器開発に携わることを夢見ていたが、学費を稼ぐために発明家のもとで仕事を始めたことからコンピューターの世界に入ることになり、結局、博士号を取ることはできなかった。

 Thacker氏の受賞について、ACMのプレジデントであるDame Wendy Hall教授は、「Charles Thackerの貢献は、この分野の歴史の中で最も傑出したコンピューターシステムエンジニアとしての評判を彼自身にもたらすことになった」とコメントしている。

 また、Thacker氏とともにXerox PARCにて研究を行い、自身も1992年にチューリング賞を受賞しているButler Lampson氏は、「チャック(Charlesの愛称)はエンジニアの中のエンジニアだ。彼のスキルはあらゆる分野に広がっている。アナログ回路や電源回路設計、論理回路、プロセッサー、ネットワークアーキテクチャー、システムソフトウェア、言語、そしてCADや電子ブックに至る応用から、ユーザーインターフェイスデザインにまで至っている」と述べ、最大限の賛辞を贈っている。

 Thacker氏はコンピューターシステムとネットワーキングの分野で29件の特許を保有している。また、スイス連邦工科大学の名誉博士号を授与されているほか、ACMフェローであり、米国芸術科学アカデミーと全米工学アカデミーの会員でもある。

 ACMは6月26日、サンフランシスコにおいて授賞晩さん会を開催する予定だ。


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(青木 大我 taiga@scientist.com)

2010/3/10 12:59