「光の道構想」への過剰投資を懸念、電力系FTTH事業者6社が説明会


 ケイ・オプティコムなど電力会社系のFTTH事業者6社は22日、都内で合同記者説明会を開催し、総務省主導で議論が進む「光の道構想」について、インフラ整備・運営に携わる立場から意見表明を行った。国内の全世帯にブロードバンドを整備する方向性には賛同しつつも、公的支援前提のインフラ整備機関設立など各論には問題があるとし、より議論を深める必要があると訴えた。

インフラ未構築業者の意見は非現実的?

 今回の会見に参加したのは、ケイ・オプティコム、東北インテリジェント通信、北陸通信ネットワーク、エネルギア・コミュニケーションズ、STNet、九州通信ネットワーク。これら6社は、光ファイバーによるインターネット接続サービスを各地で展開している。

ケイ・オプティコム常務取締役の久保忠敏氏
ケイ・オプティコム経営戦略グループ部長の橘俊郎氏

 会見冒頭では、ケイ・オプティコム常務取締役の久保忠敏氏が参加者を代表して挨拶した。久保氏は「4月20日、『光の道構想』を議論するICTタスクフォースの合同ヒアリングで、(電力会社系)インフラ事業者の総意として意見を述べてきた。しかし10分という限られた時間でのプレゼンだったため、より詳細な解説をさせていただきたい」と、今回の説明会の位置付けを語った。

 その上で「光の道構想そのものは、従来から我々事業者が考える方向性と同じもので大いに貢献したいと考えている。しかしインフラを実際に整備してきた者として、その実現手段には懸念もある」と述べた。

 ケイ・オプティコム経営戦略グループ部長の橘俊郎氏からは、「光の道構想」の概要などが解説された。3月の総務省政務三役会議で表明されたこの構想は、国内全世帯へのブロードバンド整備を2015年までに前倒しで実現するというもの。アクセス網の整備や、ユニバーサルサービス制度の適用、規制の見直しなどを総務省ICTタスクフォースで検討し、5月中旬をめどに基本的な方向性を決定する予定で、NTTの事業分割・再編などが議題に挙がっているとされる。

 4月20日の合同ヒアリングでは、ケイ・オプティコムをはじめ、NTT、KDDI、ソフトバンクなどがそれぞれの立場から意見表明しているが、橘氏は「アクセス網を自前で構築している我々やNTTに対し、アクセス網を持たずに(電話回線を借り受ける形でADSLなどを)事業展開するソフトバンクなどの間で意見が大きく分かれたようだ」と分析する。

 これらアクセス網を持たない事業者側は、NTT東西がすでに保有しているFTTH設備を分離し、国が後押しするアクセス網整備の専門会社に移管、さらに公平な回線貸出をさせるべきと主張。地域単位での計画的工事などによって、サービス低価格化を実現できるとしている。しかし橘氏は、市場的に縮小しつつあるADSLの事業者が、FTTH事業へ容易に参入するための布石とする狙いもあると推測する。

 橘氏は「インフラ構築をしない事業者の主張は確かに耳障り良く、全国規模のインフラ事業者には迫力がある。対して地域系事業者である我々の主張は地味で中央省庁には届きにくいが、永年地に足をつけて、実際にインフラ整備してきた自負もある」と強調。インフラ未保有事業者が合同ビアリングで表明した意見への反論という形で、具体的な問題提起を続けた。

FTTH整備エリアは全国の9割、残り1割は政府補助で

 ケイ・オプティコムら6社が危惧するのは、全世帯へのブロードバンド一斉整備が過剰投資となる懸念だ。各種調査の結果などからも、ブロードバンドを不必要とする世帯は一定数存在するとされる。こういった世帯へ光ファイバーを引き込んでも、インターネット接続契約につながらず、結果的に投資を回収できない恐れがある。


全世帯への一方的なブロードバンド敷設には、コスト面などで問題があると指摘する

 橘氏の説明によると、全国の9割のエリアではFTTHの整備が進んでおり、あとは各家庭への引き込み工事を行うだけの段階になっている。採算性の問題などで整備しきれない残り1割のエリアについてのみ、地方自治体を通じた政府補助などの形で導入を進めるべきだと主張。各家庭への工事については各世帯が選択的に実施するものとし、光ファイバーだけにこだわらず無線などの技術も活用すべきだと補足する。

 また、インフラ会社の経営に国が参画し、「加入電話並み」という料金水準ありきでサービスを一般提供した場合、万一の経営破綻時には公的支援を行う必要も出てくる。国の財政不安が叫ばれる現状も踏まえ、橘氏は「公平な競争環境を維持し、民間事業者同士が設備・サービスの両面で競っていくことが重要だ」と主張する。

 もう1つの懸念は、インフラを他社から借り受ける設備共用型のサービスが常態化すると、企業間競争が損なわれ、新技術の導入が進まなくなるというもの。例えばインフラ整備会社が政府直轄の1社に集約されるような状況では、余剰設備を減らす施策のみが重要視される。低価格化につながる余地はあるものの、新規顧客獲得のために100Mbpsから1Gbpsへ回線速度を上昇させるといった技術革新は確実になくなると橘氏は説明。結果的に消費者にとって不利益な状況になるという。


設備共有型のサービスが一般化すると、事業者間の競争が阻害される懸念もあると主張

 全世帯一斉のブロードバンド整備では、工事面での不安もあるという。2015年までの5年間で残る3600万世帯を整備するために、工事技術者の特需が発生したとしても、整備終了後には失業問題に波及しかねない。地域単位で一斉に工事するとしても、世帯主の立ち会いが発生する以上、スケジュール調整の手間は確実に発生するというのが、インフラ整備業者としての意見だ。

 橘氏は「FTTHの普及スピードをアップさせることはもちろん重要。しかし(合同ヒアリングで主張された一部意見については)地域系のインフラ事業者を淘汰し、結果的に地方経済を衰退させかねない」と発言。「光の道構想」が国民自身に利益をもたらすよう、さらなる検討が必要だと呼びかけた。

さらなる議論を

 「光の道構想」については各社からさまざまな意見が上がっているが、6社による今回の説明会では、「公的支援ありきの独占的インフラ整備専門会社」の設立については明確な反対意見が示された。


説明会で表明された意見の骨子

 冒頭で挨拶を行った久保氏は、「やや感情的な、推測を含めたものではあるが」と補足しながらも、「ADSL事業者(ここではソフトバンクのこと)はメタル(電話)回線並みの月額1400円でFTTHを提供できるようになるというが、全世帯のサービス加入を前提とした理想値」であり、実現には困難が伴うとした。

 月額1400円という価格設定の根拠に、これまで8分岐単位で行われる事業者向け光ファイバー回線貸し出しを1分岐単位にする、現在の回線の敷設費用を30年単位で減価償却するといった案があるが、久保氏は「これでは向こう30年にわたって100Mbpsの回線をお客様が使う計算。技術的にはすでに10Gbpsも可能な状況であり、考えられない」と、FTTHのインフラを持たない事業者が一方的に有利だと説明した。

 また、NTTのFTTH関連部門の分離・独立などによって、より巨大なインフラ専門会社が誕生した場合、NTTの寡占がますます進むと警戒。「事業者間の設備共用によって全体の低価格化が進めば、我々より高い料金にも関わらず圧倒的なシェアを誇るNTTがさらに有利になる」と久保氏は発言。関係者やマスコミの力も借りつつ、公の場での議論を広げてほしいと訴えている。


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(森田 秀一)

2010/4/22 18:15