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“児童ポルノ=ブロッキング対象”ではない? 閲覧可能なままの画像も


 ウェブ上の児童ポルノ画像(動画を含む)の閲覧をISPが強制的に遮断する“ブロッキング”が、日本において大手ISPなどで4月に導入されてから半年あまり。先週11月10日にはその運用状況が公表され、11月1日現在、19サイト(ドメイン)を遮断していることが明らかになった。

 しかし、児童ポルノ画像の存在は確認していながら、遮断されないままとなっているものもあるのが現実だという。より広範囲なブロッキングが必要との考えがある一方で、ブロッキングという手段について、検閲につながりかねない危険性もはらんでいるとして、慎重な運用を呼び掛ける声もある。

警察庁側が提供した児童ポルノのURLは5401件/410ドメイン

 ブロッキングする児童ポルノ画像およびドメインを判定した上で、そのアドレスリストを作成し、ISPなどに提供している一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)がとりまとめた統計データによると、11月1日付のアドレスリストには、ブロッキング対象の児童ポルノ画像のURLとして170件が登録されている。

 ただし、現在導入されている「DNSブロッキング(DNSポイズニング)」という方式では、これら個別のURL単位でのブロッキングができない。それが含まれるドメインを丸ごと遮断してしまう運用となっており、そうしてブロッキング対象となっているドメインが19サイトというわけだ。

 ICSAでは、アドレスリストに含める児童ポルノのURLについて、ネット上の違法情報の通報窓口である「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」および警察庁から情報提供を受け、その中から独自のガイドラインに基づいてブロッキング対象とするアドレスを決めている(ガイドラインで規定された判定基準については、本記事末でリンクしているICSAのサイト、または2011年3月29日付の本誌関連記事を参照されたい)。

 ICSAでは今回、受領したURL情報の処理状況も公表した。URL情報の出所の内訳は公表していないが、IHCが多くを占め、警察庁は少数とみられる(本記事では、便宜的にまとめて「警察庁側」と表記する)。

児童ポルノアドレス処理状況(11月10日に行われた報道関係者向け説明会の資料より)

 これによると、警察庁側から受領した情報は、4月1日から11月1日までの累計で5401URL(410ドメイン)。ここから、重複しているものや、受領時点ですでにウェブ上から削除されていることがICSAによって確認されたもの、一度はブロッキング対象とされたが、その後、削除が確認されたものを差し引くと、1049URL(229ドメイン)になる。この数字がすなわち、ウェブ上での存在が確認されているが、ホスティング業者などに削除されずに残っている児童ポルノとして、警察庁側がブロッキングを望んでいる対象になるわけだ。

 しかし、これらがそのままブロッキングされるわけでなない。ICSA側でも児童ポルノに該当するかどうかの判定を独自に行っており、画像が不鮮明なものや、医師などのアドバイザーの判定を仰いだ上で、18歳未満と断定できないものは除外している。その結果、405URL(112ドメイン)に絞り込まれる。この数字が、ICSA側でも児童ポルノと判定したものになる。

 さらに、ここから先は具体的な件数は公表していないが、実際にDNSブロッキングの対象に含めていいかどうかの判定が入る。

 前述のように、現状ではドメイン単位のブロッキングしかできないため、まず、同一ドメイン(ホスト)を全く関係のない複数のユーザーで共有しているサイトは除外される。他のユーザーのコンテンツが巻き添えを食ってブロッキングされてしまう“オーバーブロッキング”の問題を考慮しているためだ。一方、ブロッキングしたい児童ポルノと、巻き添えを食う非児童ポルノのコンテンツの運営者が同一と認められる場合などに限り、このオーバーブロッキングが許容されるという考え方をとっている。

 続いて、DNSブロッキングを適用することが許される「著しい権利侵害」の基準が満たされるかどうか判定される。

 具体的には、ア)児童の権利等を著しく侵害するものであることが明白な画像等が存在するか、イ)児童の権利等を著しく侵害する画像等が相当数存在するか、ウ)児童の権利等を著しく侵害する画像等が相当の割合で存在するか――のいずれかであることが条件。 ア)に示されている「児童の権利等を著しく侵害するものであることが明白な画像等」とは、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)」第2条第3項第1号「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」(いわゆる“1号ポルノ”)に該当する画像などを指す。

 こうして最終的にDNSブロッキングを適用することが許容されると判定されたものが、11月1日付アドレスリストで170URL(19ドメイン)というわけだ。

 なお、ウェブ上から消えたことが確認されたものについてはアドレスリストから定期的に削除されるため、この件数はあくまでも11月1日時点のものであり、累計値ではないことに注意する必要がある。アドレスリストに含めたURLおよびドメインの累計値はICSAでもまとめていないため、一概には比較できないが、上記の判定フローを見るかぎり、警察庁側がブロッキングを望んでいる児童ポルノからは、かなり絞り込まれていると言えそうだ。

 ICSAでは11月10日、こうした判定フローを含む運用状況の統計データを報道関係者向けの説明会で公開するとともに、その直前に開かれた「児童ポルノ流通防止対策専門委員会」の第6回会合において報告した。この専門委員会はICSAを監督する組織で、通信業界団体・企業や子供の権利保護団体、有識者らで構成される。

 会合にオブザーバーとして出席している警察庁は、アドレスリストに掲載されている19件というドメイン数について、「一見少ないように見えるが、DNSブロッキングの問題を考慮すれば、妥当な数」と理解を示す一方で、前述の1049URL(229ドメイン)のうち、405URL(112ドメイン)しかICSA側で児童ポルノと認めなかった点に不満を示し、「思ったより判断の差が大きい。すり合わせを検討いただきたい」と要望した。

 ICSA事務局はこれに対して、「削除要請とブロッキングの重さは違う。イコールにならなければならないということは、理論上考えられない」と回答。ただし、「どういう差があるのか調査・分析は必要」だとした。

ブロッキング対象のURL、“3号ポルノ”の扱い変更で170件に増加

 ICSAでは今回、警察庁側からの情報受領件数や、アドレスリストに含めたURL件数、ドメイン件数の週ごとの推移についてまとめたグラフも公表している。

アドレスリスト掲載件数推移表(11月10日に行われた報道関係者向け説明会の資料より)

 これによると、4月1日に2205件、4月19日に704件もの情報を受領しているが、これはブロッキング運用開始前の蓄積分があったため。その後は毎週50〜200件あたりを推移しており、10月以降は受領件数は50件以下と減少している。

 ブロッキング対象としてアドレスリストに掲載したURLの件数は、4月19日付で約150件に達し、その後、しだいに増加。6月末から8月上旬にかけては300件を超えており、最も多かった7月19日付では382件あった。しかし8月下旬、これらの画像を掲載していたサイトが一斉に閉鎖されたことを確認、それに伴い多数の該当URLがアドレスリストから削除されたため、8月23日付で75件に急減した。以降は70件台を推移し、11月1日付で再び170件に増加した。

 ICSAによると、11月1日付の増加の理由は、ウェブ上の児童ポルノが増加したり、警察庁側からの受領件数が増加したためではなく、判断基準を“緩和”したためだという。

 DNSブロッキングの適用が許容される「著しい権利侵害」に当たるかどうかの判断が難しいとして判定を保留していた、いわゆる“3号ポルノ”について、児童の権利を著しく侵害するものなどを対象にリストに含めるよう運用を変更したとしている。3号ポルノとは、児童ポルノ禁止法第2条第3項第3号にある「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」のこと。

 なお、アドレスリストに掲載しているドメインの件数については、4月下旬以降ずっと80件台前半で推移していたが、前述の8月下旬の該当サイト閉鎖に伴う該当URL消滅により、ドメイン件数も8月9日付リストの82件から8月23日付で19件に一気に減少した。以降はそのまま19件で推移しており、11月1日付のURL件数増加でも、ドメイン数は19件のままとなっている。

ブロッキングは「さいあくな児童ポルノ」だけに、民間団体が呼び掛け

 このように、ウェブ上で存在を確認した児童ポルノがすべてブロッキングされるわけではないことから、オーバーブロッキング問題だけでなく、逆にブロッキングされるべき児童ポルノがブロッキングされない“アンダーブロッキング”も、当然ながら問題視されている。また、せっかくブロッキングが導入されても意味がないととらえる向きもあるようだ。

 しかし、アンダーブロッキングの運用にならざるを得ないのは、ブロッキングという行為そのものが、通信の秘密を侵害する行為であることが背景にある。ウェブ利用者全員の通信内容をISPが常時監視するという行為は、通常であれば違法となるところだが、児童ポルノの被害者となっている子供の人権保護を尊重し、他にその画像の流通を防止する手段がない場合などに限定することで、違法性が阻却される根拠をなんとか見いだして運用している状況だ。

 そんな中で11月17日には、「安心ネットづくり促進協議会」の「児童ポルノ対策作業部会」が、ブロッキングについての解説サイトを公開した。この作業部会は、ブロッキングの法的側面を議論・検討し、いわばブロッキングを“適法”に行える条件をとりまとめた組織だ。同サイトでは、作業部会がとりまとめた報告書の内容をわかりやすく、広く一般に知ってもらうために開設したという。DNSブロッキングの仕組みや通信の秘密との関係などを説明しているほか、動画も制作してYouTubeで公開している。

安心ネットづくり促進協議会が公開した「ブロッキングによる児童ポルノ対策」サイトの一部。通信の秘密との関係を説明しているページ

 「さいあくな児童ポルノ。止めるのは、これだけ。」と題した3分半の動画では、ある男性が児童ポルノサイトにアクセスしようとすると、どこか離れた場所にいたネズミがこれを検知。電線を伝って男性宅にやってきて、キーボードの操作を邪魔したり、マウスのケーブルを食いちぎったり、電源タップのスイッチを切ったりして閲覧を妨害するという内容。

 一見すると「児童ポルノを閲覧してはいけない」というようなメッセージにとらえてしまうかもしれないが、ネズミには邪悪なるものの意味あいがあり、“検閲”につながる危険性を表現しているという。動画の最後には、「我々は検閲に反対する」という英語のメッセージが表示され、さらに日本語で「ブロッキングは通信の秘密や表現の自由を侵害する規制手法」であり、「やむを得ない場合に限って、許される」と説明している。

安心ネットづくり促進協議会が制作、YouTubeで公開した動画「さいあくな児童ポルノ。止めるのは、これだけ。」

 安心ネットづくり促進協議会はもともと、青少年インターネット有害情報への対策やネットリテラシーの啓発などの活動を民間主導で展開することを目的として、通信業界はじめ、広い分野の民間企業などが参加して発足した組織だ。PTAなどを対象にセミナーなどを開く機会も多く、有害情報対策やネットリテラシーだけでなく、児童ポルノのブロッキングについても話すことがある。

 しかし、通信の秘密との兼ね合いなどはなかなか理解してもらえず、「なぜ、そんな小難しいことを言って、ブロッキングすべきものをしないのか!」といった反応も多いという。そこで、児童ポルノのブロッキングにおける通信の秘密の問題に対して、一般の人にも関心を持ってもらうために、ネット動画を制作して訴えてみることにした。動画で興味を持った人が、新たに開設したサイトに来て詳しい説明を見てほしいとしている。

 作業部会の主査を務める弁護士の森亮二氏によると、ブロッキング導入前は、通信の秘密や表現の自由の観点からマスコミなどの関心も高かったが、いざ始まってしまうと関心が薄れてきたのではないかと指摘。そんな中でブロッキング対象の安易な増加を許せば、やがては他の違法情報や著作権侵害コンテンツなどへの適用にも発展する危険性もありえなくはない。最近のICSAのアドレスリストにおける3号ポルノへのブロッキング適用についても、ブロッキングの当初の趣旨に立ち返ると疑問があるという。

 「実際に動き出すと、これまで以上にイケイケになる。通信の秘密を守るべき立場にあるISPなども、実際にブロッキングを導入している以上、ブロッキングがまずい方向に発展しても、ユーザーの手前、異議を唱えにくくなる。(通信の秘密や表現の自由との兼ね合いが忘れられ)ブロッキングが普通のことに思えてくる懸念がある」とし、これまでの議論の経緯なども含め、ブロッキングの背景を知ってもらうために、今回、動画などを制作して公開したとしている。


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(永沢 茂)

2011/11/17 16:00