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電子書籍専門媒体の編集長らが2013年の電子書籍市場を総括

マイクロコンテンツ、O2O、セルフパブリッシングなどの新しい流れ

 一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)は20日、電子書籍および電子出版に携わる専門家5名によるパネルディスカッションを開催した。「セルフパブリッシング」「書店におけるO2O」などをキーワードに、2013年の電子書籍市場を振り返った。

パネルディスカッションの模様。左からJEPA理事の井芹氏、hon.jpの落合氏、ダ・ヴィンチ電子ナビの後藤氏、ITmedia eBook USERの西尾氏、OnDeckの福浦氏

2013年に出版された電子書籍は約60万点

 今回のパネルディスカッションは、JEPA主催による電子出版アワードの選考会および表彰式の一環として実施された。参加者は「hon.jp」編集長の落合早苗氏、「ダ・ヴィンチ電子ナビ」編集長の後藤久志氏、「ITmedia eBook USER」編集長の西尾泰三氏、「OnDeck」副編集長の福浦一広氏。司会はJEPA理事の井芹昌信氏(OnDeck編集長)が担当した。

「hon.jp」の落合氏(左)と「ダ・ヴィンチ電子ナビ」の後藤氏

 電子書籍の横断検索サービスを手がけるhon.jpの落合氏からは、2013年の電子書籍発行点数が約60万点となることが紹介された。このうち、ISBNコードが付与された紙製商業出版物の電子版は約11万5000点。結果として、雑誌の電子版や、「ボーンデジタル」と呼ばれる電子出版前提の作品、書籍の一部を切り出して章や記事単位で販売するような「マイクロコンテンツ」が市場を賑わせたことが数値からも裏付けられたという。

 落合氏は「書籍データベースの作成を日々行っている中で、今年は実感としてマイクロコンテンツが目立ったように思う。また、ガラケー向けに販売していた作品を、挿絵などを高精細化させた上でスマートフォン向けに移植する『完全版』『豪華版』はライトノベルやボーイズラブ分野において顕著で、およそ1万点ほどあった」と話す。また、電子書籍の平均価格は2013年12月段階の調査によると562円。最多価格帯は400〜500円だった。

 また、落合氏は2013年を象徴するキーワードとして「O2O(Online to Offline)」を挙げた。三省堂書店とBookLiveが12月19日に発表したばかりの「ヨミCam」のほか、出版取次大手の株式会社トーハンは電子書籍店頭販売サービス「c-shelf」を手がけるなど、電子書籍とリアル書店の連携・融合を目指したサービスが立ち上がってきたからだ。

 紙書籍と電子書籍のO2O事例としては、講談社がBookLiveと協力して実施した「新装版 沈黙の艦隊」での施策があった。これは紙書籍を購入すると、同内容の電子書籍が無料でダウンロードできるという内容。海外では、米Amazon.comが「MatchBook」という制度を導入。紙書籍購入後、それが電子化された場合に格安で購入できる。

 このほかにも、電子書籍の取次業者が大手2強から5社横並びへと変化しつつある情勢、自炊代行や海賊版対策などの著作権関連の諸問題にも動きが出ている点などを2013年のトピックとして挙げた。

 書籍に関するニュースやレビューの掲載で知られるウェブサイト「ダ・ヴィンチ電子ナビ」の後藤氏は、「電子書籍の配信サイトは40ほどあるが、それらのサイトで取り扱われている書籍のラインナップがいよいよ横並びになりつつある。どの電子書籍ストアに行っても、同じものが買えるようになってきた」と話し、いよいよ本当の競争時代に突入していくとの考えを示した。

 電子書籍の価格については「落合さんがさきほど例示した数値を見た限り、『マンガの価格帯に近いな』という印象。日本では値下げキャンペーンが頻繁に行われており、2014年も面白くなっていくだろう」とコメントした。

 また、電子コミックの世界に“ソーシャル系プレイヤー”が参入してきたことにも注目。「LINEマンガ」(メディアドゥと協業)を筆頭に、サイバーエージェントの「読書のお時間です」、DeNAの「マンガボックス」などが相次いでサービスを開始している。

 電子コミックについては、海外展開も積極的に行われている。講談社は米国のアニメ配信サイトである「Crunchyroll」と提携し、国内の連載コミックを海外でも同時配信している。マンガボックスでも閲覧用アプリに言語切り替え機能が備わっている。

独自路線のKADOKAWA&楽天koboの意外(?)な健闘

「ITmedia eBook USER」の西尾氏(左)と「OnDeck」の福浦氏

 「ITmedia eBook USER」の西尾氏は、「2013年はKADOKAWAの取り組みが非常に面白かった。米AmazonのKindleが日本国内でも大きな存在感を見せる中、日本の企業はどう立ち向かっていくかが昨今の課題。その状況にあって、KADOKAWAは巨大出版社でありながら電子書籍ストア(BOOK☆WALKER)を自ら運営するというかなり珍しい立ち位置をとっている」と述べた。KADOKAWAは10月1日の会社合併に合わせて電子書籍の大幅値引きセールを行い、話題を集めた。

 また、KADOKAWAがEPUBに関する制作仕様書を公表した点についても、西尾氏は大いに評価した。「技術の進化が速いこの時代に、使いやすい仕様を皆に公開したことの意義は非常に大きい」(西尾氏) このほか、BOOK☆WALKERの利用に応じて貯まるポイントを、青空文庫の活動支援のため、「本の未来基金」へ寄付できるようにした点も賞賛していた。

 2014年に注目のポイントとしては、やはりKADOKAWAが表明している図書館向け電子書籍貸出システムを挙げた。権利面での課題などはあるとしながらも、今後大きな動きを見せていくだろうと西尾氏は展望した。

 電子書籍専門EPUB誌「OnDeck」の福浦氏は、同誌の読者アンケート結果を発表した。「あくまでもアーリーアダプター層の数値ではあるが」と繰り返し強調したが、調査によればKindleストアの利用率は55.2%。2位であるiBookstoreの17.5%を大きく引き離している。

 楽天koboも利用率が伸びているという。2013年4月の調査では7.6%だったが、最新の2013年10月調査では11.9%。「koboは色々な話題を振りまいたが、その成果が出ている。前回調査よりも1.5倍近く利用率が伸びていたのは衝撃的だった」「koboのキャンペーンに合わせてKindleも値下げを実施したことが『ライバル視してもらった』という意味で好影響だったのでは」と福浦氏は話す。

ネット時代の自費出版、「セルフパブリッシング」は新潮流となるか

司会の井芹氏

 4氏による個別プレゼンの後、司会の井芹氏は「皆さんのお話の中で『セルフパブリッシング』がたびたび登場した。個人的にも、社会認知が進んだのは今年だったように思う」と総括を行った。「米国人に話を聞くと、10人中9人は本を出してみたいと言う。一方、日本人は恥ずかしがり屋でそもそも本を出すことに興味がないとも聞くが、はたしてどうだろうか」とパネラーに話題を振った。

 セルフパブリッシングは、いわゆる「自費出版」に近い感覚で、個人が電子書籍を制作・販売するための概念。これが浸透した背景には、「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」が2012年10月に日本国内でもスタートしたことが大きいと考えられる。紙の印刷代は当然不要で、ストアに登録した電子書籍が実際に販売されれば、著者は一定のロイヤリティを得られる。出版のハードルが極めて低いのが特徴だ。

 Amazon以外の事業者でもセルフパブリッシングは行われている。落合氏によると2013年中には3万〜3万5000種類ほどのセルフパブリッシング作品があったという。

多くの関係者がディスカッションに耳を傾けた

 落合氏は「日本人に限定していいかはわからないが、少なくとも日本は『書く』ということが得意な国と言っていいのではないかと思う。ブログの普及率を国別で見た場合、日本は特に高い。紙での自費出版もブームになった。『書きためている』という人は実は多いのでは」と発言。ケータイ小説が一時期人気を集めた背景もあり、環境が整えばセルフパブリッシングは有望との意見を披露した。

 西尾氏も「ブログやメルマガの普及を考えれば、期待は大きい。ただ、セルフパブリッシングで世間の話題になった例はまだまだ少ない。また、セルフパブリッシングならではの商業性(個人による商売)に対し、客側の心構えができていない感もある」と話す。大量の作品群の中で埋没する懸念もある一方、個人単位で執筆から出版までを手がけられる点は魅力だと指摘した。

 後藤氏は、同人誌即売会「コミケット」(コミケ)の隆盛をセルフパブリッシングと結びつけた。「コミケは二次創作中心と言ってしまえばそれまでだが、『お金を出して買ってくれる人がいる』のも事実。儲かる、作家としてやっていける人はいる。例えばイラスト投稿サイトの『pixiv』は、ソーシャルゲームのイラストレーターを探すための場所になっていたりする。」(後藤氏)

 後藤氏によれば、ライトノベル作家を志望すべく、年間で約2万人が作品を投稿しているという。また、作品を応募しないまでも作品を書いている人も相当数いると考えられる。「セルフパブリッシングを始めて、そこから紙の本に展開して読者と広げるというルートもできあがってきた。それを踏まえれば、セルフパブリッシングが広がる素地は大きいだろう」(後藤氏)

 一方、福浦氏は「セルフパブリッシングで成功した個人はたくさんいる。そして、セルフパブリッシングで成功した個人作品を、後から出版社が拾い上げる実例もあるが、はたしてそれがあるべき姿なのか。出版社として、こういった成功モデルを自ら生み出せるようにならなければ、出版社の存在価値がなくなってしまう」とし、編集者が、人気を得たコンテンツを拾うことを仕事にしてしまいかねないことに懸念を表明した。

 井芹氏は、セルフパブリッシングについての結論を短時間で導き出すことはさすがにできないとしながらも、1つの意見として、インターネットとの関連性を指摘する。「インターネットの役割とは、何らかの権利・権力を『組織から個人』へと移行させること。言わば革命だ。この方向性が電子出版にも何らかの影響を与えているのではないか。」(井芹氏)

 マスコミの存在感がインターネットの登場によって変化したように、出版もまた、インターネットによってその立ち位置が変わった。セルフパブリッシングという潮流が生まれるのも同様の流れではないかという指摘だ。

 その上で井芹氏は、出版界における電子化の流れはまだまだ続くだろうと予測。「PCは約30年かかってコモディティ化した。インターネットは一般化してまもなく20年になる。トレンドとしての電子出版は今後10年、20年と続くと考えるのが自然」とし、息の長い取り組みが必要になるとの認識を示した。

(森田 秀一)