ニュース
「NTT R&Dフォーラム2014」今日から開催~NTTグループの研究成果を一堂に
8K映像低ロス配信、ドワンゴとの共同研究、東レと共同開発のセンサー生地など
(2014/2/13 06:00)
日本電信電話株式会社(NTT)は、2月13日から14日にかけて、研究開発の成果を披露する「NTT R&Dフォーラム2014」を開催する。NTTおよびNTTドコモ、NTTデータ、さらにシリコンバレーのNTT Innovation Institute(NTT I3)の研究成果が展示されるほか、NTT社長の鵜浦博夫の基調講演をはじめとした講演やワークショップも開かれる。
今年のテーマとしては「Co-Innovation」というキーワードが設定されている。これは、NTTグループ内はもとより、OTT(Over The Top)と呼ばれるようなコンテンツやサービスの事業者などのパートナーなどとも協力してイノベーションを起こすというテーマだ。たとえば、ドワンゴとの共同研究なども展示されている。
ここでは、12日に開かれたプレスツアーの模様をレポートする。
ブラジルから日本に8K映像を低ロスで配信
最もスケールの大きい展示が「国際IP網を用いたスーパーハイビジョン8Kロバスト転送技術だろう。日本から見て地球の裏側であるブラジルのサーバーから360Mbpsで配信される8K映像を、国際IP網を経由して受信するというものだ。NHKやNTTグループ各社、各国の国際学術ネットワークとのCo-Innovationとなる。
このとき、伝送で発生するパケットロスを訂正する技術「LDGM-FEC」により品質を保つというのが技術のキモだ。より長く続く損失を訂正するには、一度に処理するブロックサイズを大きくする必要があるが、それは重い処理となるため一般的にハードウェアで処理する必要がある。そこへLDGM-FECの高効率なアルゴリズムにより、ソフトウェアで処理できるようにしたという。
また、ブラジルから日本へも2つの経路を利用。独自開発した高速なソフトウェアOpenFlowスイッチを使い、SDN技術によって経路を制御しているという。
会場では、受信した8K動画を液晶画面で流しているほか、非圧縮のまま再度IP化して建物内で再配信し、8K動画をホールのスクリーンで上映していた。
大容量動画配信については、NECとの共同開発により2月12日に発表された、4K/60P高精細映像をHEVCでリアルタイム圧縮する装置「VC-8150」についても展示していた。
ドワンゴとのコラボで動画を最適配信
動画関連では、ドワンゴとの共同研究が2件展示されている。いずれも、2月4日に発表された技術だ。
1つ目は「ライブ映像に入り込めるシステムを作ってみた」。360度全天周カメラで撮影したニコファーレの動画を、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)向けに配信する技術だ。ドワンゴのコンテンツとNTTの通信技術のコラボにより、視聴者が見ている部分の動画を優先的に配信しつつ、向きを変えると優先配信する場所を移動する。これにより、データ量の膨大な360度動画を、限られた帯域で配信できるという。
2つ目は、「QoE-centricオペレーション」。動画コンテンツ事業者のドワンゴとキャリアのNTTが協調することで、駅のような電波の混雑した場所からのアクセスには低速回線向けの転送レートで、自宅の高速なアクセスには高速回線向けの転送レートで配信するという技術だ。対応したニコニコ動画アプリを使うことで、場所や回線などの情報を同意のもとでサーバーに伝え、サーバーはキャリアに回線品質情報を「品質API」で問い合わせることで回線状況を判断する。今後フィールドトライアルを予定している。
東レと共同開発したセンサー生地
企業とのコラボとしては、東レと共同開発して1月30日に発表した、機能素材「hitoe」による生体情報計測用ウェアも展示していた。
hitoeはナノファイバー生地に高導電性樹脂を特殊コーティングした“センサー生地”といえるもの。hitoeを一体化したウェアを着用することで、日常生活のさまざまなシーンにおいて心拍数や心電波形などの生体情報を計測できる。
展示では、hitoeによるウェアを着て自転車を漕ぎ続けてみせていたほか、説明員もスーツとシャツの下にウェアを着用していた。
ユーザーの手を“引っ張って”誘導する「ぶるなび」が進化
2007年から公開されている「ぶるなび」は、手に持った装置の中で重りを往復運動させ、往路と復路の加速度に差をもたせることで、あたかも一方向に引っぱられるような錯覚を起こさせる装置だ。これにより、ユーザーの手を“引っ張って”道案内することを目的としている。2011年に公開された「ぶるなび2」は、円盤型にして前後左右の2自由度をもたせることで、2次元で方向を示せるようになった。
今回は2014年の最新作「ぶるなび3」が初公開となった。ぶるなび3は、一気に小型化して指先でつまめるサイズになった。2自由度のタイプも同時開発され、1自由度のタイプよりは大きいが、やはり小型となっている。
会場では応用例として、タブレットにカメラと「ぶるなび」を取り付け、天井のARマーカーで位置を検出しながら、経路を誘導する様子もデモしていた。美術館や博物館での誘導を想定しているという。
ICTカーから音響技術、スマホと雑談する技術、ビッグデータによる渋滞予測まで
1月28日に発表された、大規模災害時に通信を即時回復させるための「ICTカー」も展示されている。総務省の支援を受けて、NTTと東北大学、富士通、NTTコミュニケーションズで共同開発した。
ICTカーは、IP電話交換機(IP-PBX)や無線LANアクセスポイント、被災者情報を収集管理するサーバー、5日分の燃料をもった発電機などをバンタイプの車に搭載したもの。災害などで電話が使えなくなった地域で、スマートフォンをWi-Fi接続して専用アプリをインストールし、半径500m程度のエリアでIP電話を使えるようにする。それぞれのスマートフォンはIP-PBXにより“内線電話”となり、ICTカーから電話網に接続できない間はエリア内の被災者どうしで通話でき、ICTカーが電話網につながる場所であれば外部とも通話できるようになる。内線番号には通常の電話番号を使用し、スマートフォンの機種によっては自動的に番号を登録できるという。
同じく自動車を使ったデモとしては、残響制御技術も展示されていた。音声の残響(エコー)は、音楽では音を豊かにする一方、話し声の聞きとりやすさには悪影響を及ぼす。そこで、直接音と残響音を分離する技術を開発し、話し声には直接音だけを使うことで聞きとりやすくする。また、通常の左右2チャンネルの音声から直接音と残響音を分離し、直接音をフロントスピーカーから、残響音をリアスピーカーから流すことで、コンサートホールのようなサラウンド効果をもたらす。展示では、カーオーディオでサラウンド効果をデモしていた。
音響関連では、「スマート遠隔ミーティング技術」のデモも見られた。2つの技術からなる。
1つ目は「スマホ拡張マイク技術」。テレビ会議に1拠点で2人が参加するときに、それぞれが持っているスマートフォンをマイクとしてクリアな音声を実現する技術で、1月29日に発表されている。このとき、そのままでは1人のスマートフォンにもう1人の声が遅延して入り聞きづらくなるため、複数のマイクの音をリアルタイムに分析して本人の声だけを抽出するところが技術のキモだ。
2つ目は、「LAN2Peerトンネル技術」。テレビ会議中に資料や画面を共有するとき、共有対象のPCと、そこにアクセスする側のテレビ電話アプリがひかり電話上にVPNトンネルを張ることで、一時的に安全に情報を共有できるという。
スマートフォンと声という分野では、スマートフォンを使ってコンピュータと話す「雑談対話エンジン」も展示されている。「しゃべってコンシェル」のようにコンピュータにタスクを依頼するのとも違い、雑談の会話の相手をしてもらうという技術だ。実際に、「底冷えするね」「どこかに行きたいな」「どこへ行きましょうか」といった会話をする様子をデモしていた。
技術的には、まず人間がしゃべった言葉を認識したうえで、機械学習の結果により「欲求」「ポジティブな自己開示」などと性質をラベル付けする。このラベルの流れで対話が流れていくというモデルをもとに処理しているという。知識を求める言葉に対しては、「しゃべってコンシェル」と同じエンジンを使って答える。また、「西日本」といった言葉づかいの属性や、返事のポジティブさやネガティブさなども設定できる。
なお、自動車の中で音声により情報を「ドコモドライブネットインフォ」サービスでは、タスクを依頼するのではない雑談では「雑談対話エンジン」が呼び出されるという。また、「雑談対話エンジン」のAPIも公開されている。
「渋滞予測・信号制御シミュレーション技術Grapon」は、ビッグデータの分散処理技術を渋滞予測に応用するものだ。NTTデータとの共同開発。
自動車1台1台のGPSから位置と移動の情報を収集し、その動きをモニタリングして渋滞を見える化し、さらにそれをもとに信号の青と赤の時間を動的に制御することで渋滞を緩和するという想定のシミュレーションだ。現在のところ、国交省の交通量データからGPSデータを模擬的に生成してシミュレーションしている。
その基礎技術としては、広域にわたる処理をメッシュ状に分割して分散処理する技術が使われている。単に面積で分割するのではなく、交通量の違いによる計算処理の負荷が同じになるようリアルタイムで最適に分割するグラフマイニング技術「Grapon」がキモだ。これによりコンピュータの処理性能を効率よく利用できるため、交通シミュレーションに適用すると、従来手法よりが約3倍の速度になるという。