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「うるう秒」18年ぶりの平日実施──7月1日午前に「8時59分60秒」挿入
存廃論は年内に決着か?
(2015/5/15 17:54)
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は15日、「うるう秒」の実施に関する説明会を開催した。7月1日午前9時00分00秒の直前、特別な1秒を挿入して天文時と協定世界時(UTC)のズレを解消するため、コンピューターシステムなどの運用に影響する可能性があるとして注意を呼び掛けた。また、うるう秒を手軽に体感するための手法についても解説した。
午前8時59分59秒と9時00分00秒の間に「8時59分60秒」を挿入
うるう秒の実施は、時刻を決めるための制度が大きく影響している。NICTによると、地球の自転は1000分の1秒という小さな単位で見ると“ふらつき”がある。大気の動きや潮汐、マントルの影響などさまざまな要因があると言われているが、その結果、「地球の自転1回を1日」とする天文時は不規則に変化してしまい、科学技術の高精度化に対応できなくなっているという。
そこで1967年に、1秒の長さの定義を、それまでの天文学に基づいたものから、原子放射の周波数に基づく量子力学によるものへと改定した。これは、特定の原子が固有で持っている共鳴周波数をカウンターとして用いて時の流れを測る手法だ。現在は、セシウム133のエネルギー状態が遷移する際に放射する電磁波をカウントし、その91億9263万1770回(周期)分を1秒と定めている。
こうした原子時を刻む原子時計は世界に約400台あり、それらが刻む時を加重平均して算出されるのが「国際原子時(TAI)」だ。1秒の定義が改定される前の1958年にスタートしており、以降“規則正しく”時を刻んでいる。
一方で、原子時の一種ではあるが、我々の日常生活が太陽の動きと深くかかわっていることをふまえたのが、日常的に使われる「協定世界時(UTC)」である。VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉計)による地球回転の観測結果に基づく天文時「世界時(UT1)」に近似するよう、うるう秒でTAIに調整を施したものだ。UTCは、1秒の長さはTAIと同じだが、1972年以降に挿入してきたうるう秒および特別調整により、UTCは現時点でTAIから35秒遅れている。
うるう秒の調整はこれまで25回実施されており、2015年7月1日の実施分が26回目となる。当日の午前8時59分59秒と9時00分00秒の間に、「8時59分60秒」が挿入される格好となる。
なお、うるう秒の実施は、1972年から1998年までは1~2年に1回のペースだったが、1999年以降は3年~7年に1回となっている。
うるう秒調整を実施するかどうかは、国際機関であるIERS(国際地球回転・基準系事業)が決定する。実施日は半年前に発表されるのが通例。また、国際標準時の1月1日・7月1日いずれかの直前に実施することが定められている。
TAIとUTCは、パリにあるBIPM(国際度量衡局)において決定しているが、実際に時計装置が存在するわけではない。前述のように複数の電子時計の平均を計算することで、1カ月後に結果が報告されるバーチャルな時計だという。リアルタイムに時刻を供給できるものではない。
そのため世界各国の時刻標準機関では、UTCと高精度で同期した“リアルタイム時計”を維持しており、それぞれの地域でリアルタイムに時刻を供給できるようにしている。
NICTは、世界で約400台あるうちの18台の原子時計を運用し、日本で使われる「日本標準時(JST)」を作り出している機関だ。原子時計群は東京都小金井市にあるNICTの本部施設にあり、その本館エントランス上部の外壁には、日本標準時を表示する大きなデジタル時計が設置されいる。
JSTは、電波時計などに使われる標準電波(JJY)、インターネットなどを通じたNTP(Network Time Protcol)サービスで広く供給されているほか、主に放送局などの業務用途で使われるアナログ電話回線経由の「テレホンJJY」でも供給されている。
うるう秒を体験するには? 平日のうるう秒挿入に懸念も
NICTの電磁波計測研究所で所長を務める山中幸雄氏は「我々は法律に基づいて日本標準時の通報業務を行っている。近年は時刻情報の利用範囲が広がっており、通信や放送といった業種以外に、金融取引などの分野でも使われるようになった。このため、うるう秒の挿入が思わぬ影響を与える可能性もある」と説明。その上で「特に今回は、平日の調整となるが、これは18年ぶり。慎重を期すためにも、広報を徹底していきたい」と述べた。
電磁波計測研究所時空標準研究室室長の花土ゆう子氏からはうるう秒のあらましが解説された後、“うるう秒を実感”するための方法がいくつか示された。まず、一般的な電波時計はうるう秒を即時修正する機能を搭載していない。時計の種類にもよるが、1日1回程度電波を自動受信するため、うるう秒実施後の初回電波受信までは1秒遅れた状態になる。NTPでも同様の現象を確認できる。
また、NICT本館外壁、標準電波送信施設のある福島県田村市および双葉郡川内村のモニュメント、武蔵小金井駅のコンコース内などに設置された時計は「8時59分60秒」を表示できるため、うるう秒の瞬間を視認可能。
一方で、うるう秒の挿入によって何らかの社会的影響はあるのだろうか。花土氏によれば、放送局や電気通信事業者の時計管理システムは特に厳密な管理がなされていることから、これまでに大きなトラブルの報告はないという。
対して、暗号化したタイムスタンプなどを発行する「タイムビジネス」の事業者の中には、うるう秒の前後にサービスを停止するところがある。
この他、各種情報システム全般でもうるう秒対応に注意する必要がある。「例えば、複数の装置がリアルタイムに時刻同期していないと矛盾が出てしまう分散型システムであったり、不連続な時刻情報が入った場合に誤動作するようなシステムでは注意が必要ではないか」(花土氏) 。
なお、報道レベルでは、2012年のうるう秒調整の前後、航空会社のウェブサイトや国内外のSNSでトラブルが発生したことが伝えられている。花土氏も「個人的な意見ではあるが、場合によってはうるう秒調整前後のシステム運用停止も有効かもしれない」と述べた。
うるう秒の存廃論、2015年11月に決着なるか?
うるう秒を巡っては、その存廃が1999年から15年以上に渡って議論されている。特に近年は、時刻調整を必要とするPCなどの機器が急増。その調整作業が膨大になってきていること、うるう秒によるシステムトラブルが現実に発生していることなどを理由に、廃止を求める意見が日本をはじめとした各国から挙がっているという。
国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)でのうるう秒議論に参加している岩間司氏(電磁波計測研究所時空標準研究室研究マネージャー)からは、最新の状況が報告された。
2015年3~4月の会合の段階では、4つの案が検討されているという。A案は「UTCへのうるう秒調整を廃止し、新たな連続時系を導入する」、B案が「現行UTCの定義を維持しつつ、新たに(うるう秒調整を廃止した)連続時系を導入し、2つの時系列を共存させる」、C案が「現行UTCの定義を変更しない」、D案は「研究の結論が出ていないため、現行UTCの定義を変更しない」となっている。
このうちA案を支持しているのが米国、フランス、オーストラリア、韓国、中国、日本。B案は英国、C案はロシア、D案はアラブ6カ国が支持する。タイおよびドイツの動向は不明。
最終的にどの案が支持されるかは、予断を許さない状況という。岩間氏は「一見するとA案支持国が多いように見えるが、これらはITU-Rでの議論に継続的に参加してきた国々。だが、アラブやアフリカ諸国など、会議への参加頻度が少ないながらも“サイレントマジョリティ”である国は相当数に上り、見えない部分も多い」と述べた。
また、各国で異なる事情についても、岩間氏は見解を示した。A案支持国は先進国が大半で、うるう秒に関連したトラブルへの危機感が強い。B案を支持する英国は、グリニッジ天文台を軸とした天文時への愛着もあるとみられる。
C案支持のロシアは、測位衛星「GLONASS」の時計管理にUTCを利用しており、うるう秒廃止の影響が特に大きいことから存続を求める立場という。D案支持のアラブ6カ国は、議論への本格参加が2012年からと歴史的に短いため、慎重なようだ。
2015年11月には世界無線通信会議(WRC:World Radio communication Conference)が予定されており、うるう秒についての議論はその場で最終的な方向性が示される見込みという。仮に廃止が決まった場合でも、猶予期間の関係上、最速での廃止時期は2022年となる。