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佐賀県武雄市、タブレット端末を利用した「スマイル学習」には一定の成果あり

 佐賀県武雄市が東洋大学などと共同で取り組んでいる「ICTを活用した教育」の第一次検証報告書がとりまとめられた。9日に実施された報告会では、生徒ひとりひとりに配布されたタブレットを活用した教育に言及している。

(左から)佐賀県武雄市教育長の浦郷究氏、佐賀県武雄市長の小松政氏、株式会社ディー・エヌ・エー取締役最高技術責任者の川崎修平氏、東洋大学副学長・経済学部教授/現代社会総合研究所ICT教育研究プロジェクト代表の松原聡氏

 武雄市では、生徒がタブレット端末を自宅に持ち帰り、動画を活用した予習を行った上で授業に臨む「スマイル学習(武雄式反転学習)」を展開している。授業開始時には予習が終わっているため、授業中は協働学習に時間を割けるという。また、予習時の練習問題の正答数から生徒の理解度が把握できるため、理解できた生徒には発展問題を解かせる傍ら、理解できていない生徒に教員が集中して教えることができるとしている。

 スマイル学習で使用する動画は現在、算数(小学3~6年生対象)と、理科(小学4~6年生対象)の2科目で実施。単元ごとに各小学校の教員が原案を作成し、動画作成はワオ・コーポレーションが算数を、ニュートンプレスが理科を担当する。2015年度からはスマイル学習に国語が追加され、ブックスキャンが動画作成を担当する。

 現在、武雄市では市内11のすべての小学校で、生徒3000人にタブレット端末を配布し、スマイル学習を展開。さらに2015年度からは、市内の中学生全員にタブレットを配布して中学校でもスマイル学習を展開する。

スマイル学習には一定の成果あり、教員手作りの動画教材は手探り状態

 スマイル学習は、算数・理科のすべての単元で実施しているわけでなく、おおよそ授業の5分の1が割り当てられている。学校別のスマイル学習実施率は、算数・理科ともに9割を超える学校もあれば、3~4割程度の学校もあるなどバラつきが見られる。

 これについて武雄市教育長の浦郷究氏は、スマイル学習の初年度ということもあり、先行してスマイル学習を行った学校と比較すると、教員が授業の進め方において戸惑いがあった可能性があると指摘。また、各学校の教員が分担して動画教材を作成するためクオリティにバラつきがある場合もあるという。教材作成は手探り状態であり、今回の教訓を活かし、もっと分かりやすい教材作りに務めるとしながらも、良い教材研究の機会にもなったとしている。

必須授業時数に占めるスマイル学習の対象率
2014年度における学校別スマイル学習実施率

 スマイル学習に関する生徒の評価は、「とても楽しみ」「少し楽しみ」を合わせると、毎月ほぼ8割を超えている。これは一般的な授業よりも高いという。授業の理解度は、算数では「よく分かった」と回答した生徒の割合が徐々に増えているほか、理科では「あまり分からなかった」「全く分からなかった」という生徒が当初20%ほどいたが、現在では10%以下まで減っているという。

「明日の学校の授業が楽しみですか?」という問いに対する回答(理科)
「明日の学校の授業が楽しみですか?」という問いに対する回答(算数)
「授業の内容は分かりましたか?」という問いに対する回答(理科)
「授業の内容は分かりましたか?」という問いに対する回答(算数)

 また、スマイル学習導入前後の学力調査の結果を比較したところ、スマイル学習を導入した算数では、武雄市における平均正答率が、佐賀県全体の平均正答率に対して、この1年で相対的に上昇した。一方、スマイル学習を導入していない国語では、相対的に低下したという。

 東洋大学副学長・経済学部教授の松原聡氏は、まだ成績変化を検証する十分なデータがそろっているわけではないと前置きしつつ、国語との比較において算数で一定の成績向上が見られたことから、スマイル学習が成績向上に寄与した可能性があると述べている。ただし、小学校ごとのスマイル学習の実施率と成績変化の間に正の相関関係は見られないとしており、今後データの蓄積と分析を行い、第二次報告以降で結果を示したいとしている。

武雄市の平均正答率と佐賀県の平均正答率の比較

iPad→Androidタブレットへの変更は予算の都合、ICT教育には政府のバックアップが必要

 スマイル学習をすべての小学校で導入するのに先がけ、武雄市では2010年12月に山内東小学校に40台、2011年2月には武内小学校に90台のiPadを試験的に導入。アンケートや振り返り学習、小テスト、ドリルなどができる学習支援システム「c-learning」、スマートボードとiPadで同じ画面を共有し、書き込みや教材を提示できる電子黒板連携システム「V-cude」、教科の単元ごとのドリル学習ができる「eライブラリ」を提供した。

 その後、当時の武雄市市長である樋渡啓祐氏が、武雄市ICT教育推進協議会を設置。全小・中学校へのタブレット端末配布を提言し、2014年度に市内全小学校、2015年度に市内全中学校への配布が決定した。ただし、機材を恵安製のAndroidタブレットに変更している。松原氏は「本当はiPadが良かったけれど、あまり値引きしてもらえなかった」としたほか、予算面の問題からiPadに代わるタブレット端末として、松原氏が機材の選定を行い、コストパフォーマンスの高いモデルを選んだという。

 スペックの変更や、教材のシステムをiPad用からAndroid用に変更する必要などもあったが、プログラミングなどの授業を担当している株式会社ディー・エヌ・エー取締役最高技術責任者の川崎修平氏は、恵安製のタブレット端末でも目的に対しては遜色なく動作するとしている。タブレット端末配布にかかった費用は、Wi-Fiネットワークなどのシステムを含めて、小・中学校合わせて2億円ほど。すべて武雄市が負担している。全小学生に配布する際に、補助金なども探したが見つからず、動画教材の作成にも十分な予算を回せていないという。

 報告書では、デバイス配布にかかる市の財政負担、教材作成による教員や企業の負担が大きいことが指摘されており、政府などの補助金の獲得などを進め、自治体、教育委員会、関連企業、大学などの産官学連携を深め、それぞれが過大な負担をすることなく、継続的に事業を展開できる体制を整えるべきだと提言している。

(山川 晶之)