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47都道府県を100Gbpsで結ぶ学術ネットワーク「SINET5」が開通、その先は400Gbpsも

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)は、国内の全都道府県を100Gbpsで結ぶ学術ネットワーク「SINET5」を4月に運用開始し、5月25日に開通式を執り行った。

「SINET5」の開通セレモニー

 NIIが構築・運用するSINET(Science Information Network)は、2007年に運用を開始した「SINET3」において、世界の学術ネットワークに先駆けて通信速度を40Gbpsに引き上げたが、100Gbps化では欧米に先行されていたという。それが今回、SINET5で100Gbps化を実現するとともに、国際回線も増強。米国との接続を100Gbpsにしたほか、初めて欧州と20Gbpsの回線を整備した。欧州にはCERN(欧州原子核研究機構)など大型研究施設の多くが存在しているが、従来は米国経由で通信していたのだとしている。

 「素粒子物理学、核融合学、天文学などの先端科学技術分野では、国際協力によって構築された巨大な実験装置などで得られたビッグデータを、国境や地域を越えて転送し、分析しており、最先端のサイエンスに高速なネットワークは不可欠。」(NII)

 開通式であいさつしたNIIの喜連川優所長は、SINET5は、全都道府県に設置したノードをフルメッシュで接続した「極めてパワフルなネットワーク」であると説明。また、スーパーカミオカンデなど巨大な実験装置から生み出される膨大なビッグデータにより、今後、転送されるデータ量の増大が予想される点についても言及。SINETを構築するにあたり、従来はネットワークの帯域を調達していたのに対し、今回はダークファイバーを調達したとし、両端の伝送装置を変えることで機動的に能力を上げていけることをアピールした。

 SINET5で採用されたエッジルーター「MXシリーズ」を提供するジュニパーネットワークス株式会社によると、以前の「SINET4」では、全国8カ所の主要都市にコアノード(ルーター)を設置し、各地域のエッジノード(スイッチ)へと枝を広げるツリー状のトポロジーだった。そのため、トラフィック量の増加に伴う転送遅延や、多数のスイッチ管理にかかる運用コストの問題を抱えており、SINET5では、50以上の拠点を100Gbpsのフルメッシュで接続し、ホップ数を削減して遅延を解消することが求められたとしている。

「SINET5」のフルメッシュ型ネットワーク基盤

 開通式に先立ちNIIでは5月中旬、SINET5を模して構築した実証実験用の400Gbpsネットワーク環境において、超高速データ転送用プロトコル「MMCFTP(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)」を用いたデータ転送実験を行い、回線帯域をほぼ使い切る370Gbpsでのデータ転送に成功している。

 実証実験の結果を踏まえ、NIIでは「SINET5の利用状況を勘案しつつ、400Gbps技術の適切な導入時期を検討していく」としている。

 MMCFTPは、NIIが開発したファイル転送プロトコルで、ビッグデータを転送する際に同時に非常に多くのTCPコネクションを使用するのが特徴。ネットワークの遅延の大きさやパケットロス率の状況に応じて、コネクション数を動的に調整することで安定した超高速データ転送を実現するという。NIIでは、MMCFTPの実利用を通じ、安定化とさらなる高速化を図り、「400Gbps時代に向けた活性剤とすべく準備を進めていく」としている。

(永沢 茂)