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インターネットは「相互接続性」で出来ている――幕張メッセで目撃せよ! 最先端ネットワーク技術が豪華共演の3日間

「Interop Tokyo 2025」6月11日~13日開催

Interop Tokyo 2024でのShowNetブースの様子

 「Interop Tokyo 2025」が6月11日~13日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される。

 Interop Tokyoは、インターネットテクノロジーの専門イベントとして1994年から毎年開催されているイベントで、ネットワーク業界の企業ブースが集まる展示会や、キーパーソンによる基調講演、展示会場内セミナー、さらに有料のカンファレンスもあわせて行われる。今年のテーマは「社会に浸透するAIとインターネット」……といった一般的な概要説明はここまでにして、以下、この記事ではInterop Tokyoの“影の主役”である「ShowNet」について語りたい。

 ShowNetは、展示ブースなどをつなぐために構築・運用されるInterop Tokyoの会場ネットワークだが、そのようなネットワークサービスがあるわけではない。最先端のネットワーク技術が結集するイベントにふさわしいネットワークを、ゼロから構築するのがShowNetなのだ。その取り組みの歴史と、今年のShowNetの技術的な見どころなどを紹介する。

「互いにつながる」のは、けっこう大変

 最近ではInterop Tokyoに限らず、こうした展示会などの大規模イベント会場では、来場者や出展ブースが接続して利用できるインターネット回線が用意されている。しかしInterop Tokyoでは、そのインターネットにつながるネットワークを「作る」こと自体も、イベント開催の目的となっている。

 このネットワークがShowNetだ。大げさに言うと、最新のネットワーク技術を持ち寄って、会場に「小さなインターネット」を作るようなものである。しかもその機器が動いているところも展示し、来場者が見ることもできる。

昨年開催された「Interop Tokyo 2024」でのShowNetブースの様子(上から見たところ。Interop Tokyo 2024より)

 「小さなインターネット」という意味のカギは、イベント名の「Interop」にある。「interoperability(相互接続性)」の略として使われる言葉で、ざっくり言うと「互いにつながることができる」ことを意味している。先に言ってしまうと、これがけっこう大変という話だ。

 われわれ一般ユーザーが、スマートフォンやPCからちょこっと操作すると、インターネットの先のサービスに即つながる。しかし、スマートフォンやPCと、接続先のサービスとの間では、例えば、自宅のWi-Fiから、プロバイダーへのアクセス回線、プロバイダーの内部回線、クラウド事業者の回線、クラウド事業者のデータセンターなどというように、異なる企業や組織によって構築・運用されているさまざまなネットワークが動いており、さまざまな機器や回線がつながった複雑な仕組みが存在する。これがまさにインターネットである。

 こうした機器や回線、あるいはそれを制御するソフトウェアは、どこか1社で開発・提供しているわけではなく、さまざまなベンダーが作っている。もちろん、そのための共通規格が決められており、各社ともその規格に則って製品を開発するわけだ。しかし、同じベンダーの製品同士ならまだしも、異なるベンダーの製品との間では、規格の解釈の違いなどにより差異が出てしまうことがあり、常に問題なく通信できるとは限らない。

 この問題を解決する最善の方法は、異なるベンダーの製品を実際につないで、テストすることだ。

 とはいっても、他社の製品を取りそろえて、開発中の自社製品をつないでテストするのは、(実際に行われているとはいえ)容易なことではない。まして、各社とも試行錯誤中な最新の技術については、相互接続性についても、テストのための機材調達性についても課題がある。

ネットワーク機器の展示会を開催すれば、相互接続を検証できる

 その解決策として、さまざまなベンダーの最新のネットワーク機器などが一堂に集まる機会が活用できる。展示会を開催して、そこで各社の機器を展示するとともに、相互接続して検証すれば、一石二鳥が狙える。Interopはまさに、こうしたイベントとして始まった。

 1986年、インターネットアーキテクチャーに関する基本方針を定める組織「IAB(Internet Architecture Board)」が、米国で相互接続検証イベント「TCP/IP Vendors Workshop」を開催した。Interopはこれに端を発するイベントであり、その成り立ちからして技術イベントの色が強かったようだ。

 ちなみに、現在ではオフィスや家庭のネットワーク(LAN)は、ほぼTCP/IPベースの技術一色だ。しかし当時は他のネットワーク技術も混在しており、その1つとして、Novell社の「NetWare」もメジャーだった。Interopは1994年から、そのNetWareのイベント「NetWorld」と合体して「NetWorld+Interop(N+I)」として開催されていた。ちょうど1994年は日本でのInteropイベントが始まった年でもあり、Interop Tokyoも1994年から2004年まで「NetWorld+Interop Tokyo」という名称だった。

 そんなInteropは、本家が米国ラスベガスで毎年開催。それと並行して日本のInterop Tokyoが毎年開催されてきた。そのほかの地域でも一時的にInteropが開催されたこともあった。ただし、ラスベガスでの開催は年々規模を縮小し、ネットワーク構築の色も薄れていった。そして2020年の新型コロナのパンデミックを機に、オンラインカンファレンスイベント「Interop Digital」に移行した。

 大掛かりなShowNetの取り組みを伴って開催されるInteropイベントとしては、Interop Tokyoが世界でただ1つ、現在でも活発に続いているわけだ。

「Interop Tokyo 2024」のときのShowNetのネットワークトポロジー(ネットワーク構成)図(出典:ShowNet Archive 高解像度の画像は同アーカイブのPDFファイルを参照。また、歴代のトポロジー図がShowNet NOC Teamのnoteにまとめられている)
Copyright (c) Interop Tokyo 2024 ShowNet NOC Team Member and NANO OPT Media, Inc. All rights reserved.
ShowNetを運用するNOC(Network Operation Center)の様子(Interop Tokyo 2024より)

「ShowNet」では、未来のネットワークが実際に動くところを見られる

 このようなネットワーク技術の検証の場であるShowNetには毎年、各ベンダーから新しい機器や新しい技術が集まる。ネットワーク技術や機器も年々新しくなるため、検証のネタも尽きない。そして、各ベンダーが自分たちの機器を動作確認するとともに、来場者も実際に動いているところを目にすることができる。

 これを表す言葉としてInterop Tokyoの初回から言われているのが「I know it works because I saw it at Interop」というフレーズだ。「実際に動いているところが見たい。ここに来ればそれが分かる」という意訳があてられているように、まさに最新のネットワークが動いているところを見られるのが醍醐味だ。

ShowNetブースのラックに設置されたネットワーク機器

 ShowNetで検証されたネットワーク技術は、その後、商用サービスに応用されていくことになる。例えば1990年代には、メトロイーサネット(広域イーサネットサービス)などが検証された。2000年代には、キャリアグレードNAT(CGN)やセキュリティオペレーションセンター(SOC)が、2010年代には、100GbEやSDN、サービスチェイニングの技術が実験された。いずれも、のちに普及した技術である。

 まさにShowNetは、最先端のネットワーク技術が集まる、未来のネットワークを作る場なのである。

ShowNetで検証され、のちに商用サービスに使われた技術(Interop Tokyo 2024のプレス見学ツアーより)

 Interop TokyoのShowNetブースには、ShowNetを構成する機器が20ラック前後の規模で収められている。来場者が自分でこれらを見て回れるほか、解説付きの見学ツアーも会期中、連日実施される。さらに、各ネットワーク機器ベンダーでも、自社製品がShowNetで使われているところを解説する見学ツアーを開催しているところもある。

 規模も大きい。昨年の「Interop Tokyo 2024」では、報道関係者向けの見学ツアーでの説明によると、集まった機器・製品・サービスは約2300。UTPケーブルの総延長が約24.5km、光ファイバーの総延長が約8.0km。総電気容量は、100Vが約71.0kW、200Vが約93.0kWだったという。

「Interop Tokyo 2024」でのShowNetの規模(Interop Tokyo 2024のプレス見学ツアーより)

 この規模の機器とネットワークを、幕張メッセで約2週間前から検証して設置し、終了したらまた全て解体するわけだ。

 そのために約700人が動員される。なかでも特徴的なのが「STM(ShowNet Team Member)」と呼ばれる一般公募のボランティア集団だ。意欲のある若手エンジニアが産学から集まり、ShowNetをゼロから構築し、運用して、またゼロに戻すまでを体験する。この貴重な体験を経て、さらにエンジニア同士の横のつながりを得て巣立った人材が、通信事業者やネットワークベンダーなどで未来のネットワークを作っていくわけだ。

 このように、さまざまな組織から集まった参加者の相互協力によってネットワークの構築や運用が行われる点も、Interopによって大きな価値を創造するという、インターネットの考えそのものだと言える。

今年の「ShowNet」の見どころは? Interop Tokyo事務局に聞く

 では、今年のShowNetではどんなネットワークを作るのか。これについては、毎年事前に公式サイトでキーワードを公開している。

 「ファシリティ(施設)」から「伝送」「L2/L3」「Wi-Fi」といった回線技術、「DC・クラウド」「セキュリティ」「モニタリング」「テスター」といった運用技術、あるいは「Mobile」「Media over IP」といった比較的新しい分野、さらには前述したボランティア「STM」まで、分野ごとのキーワードが挙げられている。

 さらにInterop Tokyoの公式YouTubeチャンネルもある。執筆時点では、今年の動画として、ShowNetの構築運用チームメンバーへのインタビュー「ShowNet NOC Talk」シリーズなどが配信されている。今後、より詳しい説明も配信されていくだろう。

 以下、ファシリティ、伝送、Wi-Fi、Mobile、Media over IPといった分野を中心に、今年の注目のポイントをInterop Tokyo事務局に聞いてみた。

【ファシリティ】パッチパネルの自動化や、電力モニタリングなど

 まずは、ファシリティ(施設)分野について。

 今回のShowNetのファシリティ分野では、MDF(主配線盤)におけるパッチの自動化やデータセンターインフラストラクチャマネジメント(DCIM)の実装が見どころの1つです。

 さらにセンサーネットワークを利用した熱や電力などのモニタリング、特に電力関係のモニタリングや活用が試みられています。これは、ICTインフラにおける電力消費の可視化や削減を目指す取り組み「ShowNet Watt Quest」プロジェクトの一環でもあり、ネットワーク機器の詳細な電力モニタリングなどに活用されます。

 近年のShowNetでは、ラック間を接続するときに、直接つなぐのではなく、MDF――つまりパッチパネルに一度、集約している。これによって、接続先を変えたり、間にテスト機器を挟んだりといったことが自在にできる。このMDFでの配線切り替えも、ロボットが導入されるなど、進化している。

 そのほか、環境のモニタリングや、DCIM、あるいは電力削減のためのモニタリングなどの設備面も着実に毎年変化している。通信やデータセンターの設備に興味があれば、押さえておきたいポイントだ。

光ファイバーの配線を切り替えるロボット(Interop Tokyo 2024より)
ラックに付けられたセンサー(Interop Tokyo 2023より)

【伝送】総伝送容量が「10Tbps超」と1桁上に

 次に、物理配線の上で光などの信号を送る、伝送の分野について。

 今回のShowNetの伝送分野では、テラビット級の帯域、具体的には総伝送容量10Tbps超を目指した構築が予定されています。

 伝送の最新技術としては、「800G-ZR+」がShowNetに導入されます。また、100G、400G、800Gなど多様なインターフェースや技術、IP over DWDMのような高度な伝送技術の活用や検証が含まれます。2年目の取り組みとなるAPN(All Photonics Network)の実装とその活用も注目ポイントです。

 ShowNetではここ数年、大容量・低遅延の光伝送をShowNet伝送網で採用している。これをShowNet APNと呼んでいる。

 ここに今回は、800Gbps伝送技術の「800G-ZR+」が導入される。これにt伴い、2024年の総伝送容量は6.66Tbpsだったが、今回は10Tbps超になるという。公式サイトにおいて「伝送」分野のキーワードとして、「『桁が違う』光伝送容量の登場」と書かれているのは、これを指すのだろう。

 ShowNet APNは、会場内だけでなく、2024年にはIOWN Global Forumが提唱するネットワーク基盤「Open APN」を通して幕張と東京の間を400Gbpsで伝送する実験も行われている。

 こうしたネットワーク回線の物理レイヤーに近い部分、特に最新の大容量・低遅延な技術を使った機器と回線は、一般の人は普段なかなか見ることができない見どころだ。

 ちなみにネットワークの物理配線といえば、ShowNetブースでは毎年、床の一部を透明にして、床下の対外接続のケーブルを見せている。筆者も含め、つい写真を撮ってしまう来場者も多い場所である。

ShowNetブースの床下に見える対外接続回線(Interop Tokyo 2024より)

【Wi-Fi】来場者が使えるWi-Fiを最新規格で提供、Wi-Fi 7のMLOによる高速化も

 Interop Tokyoの来場者向けのWi-Fiも、ShowNetの上で提供される。

 来場者が利用できるShowNet Wi-Fiは、多様な製品によるマルチベンダー対応ネットワークとして提供されます。

 最新技術としてWi-Fi 6Eの6GHz帯やWi-Fi 7のMLO(Multi-Link Operation)による高速化・低遅延、効率化の実現を目指しています。

 会期中の利用状況や品質を最適化するため、自動運用や可視化、運用・電波管理ソリューションの活用、各社機器間の連携検証も行われます。ShowNet Wi-Fiはご来場の皆様も利用できますのでぜひお試しください。

 Wi-Fi 6EやWi-Fi 7に対応し、電波管理による無線空間の最適化なども行われる。来場者がShowNetのネットワークを直接体験できる分野なので、対応したスマートフォンなどを持っている人は試してみるとよいだろう。

ShowNetのWi-Fi管理のラック(Interop Tokyo 2024より)

【Mobile】【Media over IP】キャリア5G連携や、全国12の放送局との映像配信など

 Mobile、つまりモバイル回線の分野について、Interop Tokyo事務局が推すポイントは次のとおり。

 ShowNetではこれまでローカル5Gの実装を行ってきましたが、今年はキャリア5Gとの連携が試みられます。ShowNetからキャリア5Gへの新しいサービス形態の提案として実施され、具体的なデモとして、全国の放送局とキャリア5Gを介して映像配信する「Media over IP」のデモが実施されます。

 また、「ShowNet Watt Quest」プロジェクトのセンサーネットワークとして、セキュアな5G接続に活用されています。

 ShowNetではここ何年か、会場でローカル5Gネットワークを構築して試験運用してきた。そして今年は、初めてキャリア5Gとの連携に挑むということだ。

 さらに、Media over IPに関連して、全国の放送局との間の映像配信にキャリア回線も使うというわけだ。

ローカル5G越しのラジコンカーの遠隔操作デモ(Interop Tokyo 2022より)

 そのMedia over IP分野について、事務局が推すポイントは次のとおりだ。

 大規模な取り組みとして「ShowNet Media over IP」特別企画も大きな見どころです。

 この企画では「ShowNet Media-X(メディアクロス)」という大規模な取り組みを実施します。これは、全国12の放送局とShowNetが連携し、各局が持つ映像・音声などのリソースをIPネットワーク上で共有し、相互に活用するという試みです。

 異なるフォーマットを融合するこの挑戦は、放送業界における新たな可能性を示し、未来のメディアサービスを具現化することを目指しています。

 2024年には、実験に参加した放送局3局と会場とを結び、映像をインターネット経由で往復させて制作する実験が行われていた。

 今年は12の放送局と接続して、さらに大規模な実験が行われるようだ。素材が映像だけあって、制作した映像を会場で表示するなど、何らかのかたちでビジュアル的にアピール度が高い展示になることが期待できる。

テレビ局と会場をインターネット経由でつないで映像制作(Interop Tokyo 2024より)

先進的なネットワーク仮想化技術に大容量トラフィックが流れるバックボーン

 事務局からはそのほか、ShowNetのバックボーンネットワーク(コアのネットワーク)や管理ネットワークについても推しポイントを紹介してもらった。

 今年のShowNetのバックボーンでは、数年継続して取り組んでいるSRv6に加え、EVPN/VXLANの運用も注目ポイントです。

 また、管理ネットワークにおいては、大規模なマイクロセグメンテーションをVXLAN-GBPを用いて実現するという新たな取り組みを進めています。

 さらに、大容量かつVXLANに対応したインラインファイアウォールを採用したバックボーン構成も見どころの1つです。

 最近のShowNetバックボーンネットワークでは、バックボーンネットワーク上に仮想的なオーバーレイネットワークを構築して利用している。

 そのための技術としてここ数年は、EVPN/VXLANに加えて、IPv6の技術であるSRv6を使うことが実験されている。こうした技術が大容量トラフィックの流れるShowNetで使われる様子は、それら先進的ネットワーク技術を学ぶ人にとって見どころだろう。

 同様に、ネットワークの管理運用のためのネットワークにおけるマイクロセグメンテーションのためにVXLANを使ったり、ネットワークにファイアウォールを適用するのにVXLANを使ったりと、運用管理関連にもネットワーク仮想化が活躍するようだ。

最先端のネットワークが動く様子を見に行こう!

 以上、Interop Tokyoの会場ネットワーク「ShowNet」のすごさと意義を見てきた。

 繰り返しになるが、この最先端のネットワークが幕張メッセに構築されて、動いている様子を来場者が自分の目で見られるのが、ShowNetなのである。

 特に、これからネットワークについて学んでいきたい若手ネットワークエンジニアや、実務ではなかなか先進的なネットワークに触れる機会のないネットワークエンジニアが学びを得られる場になるのではないかと思う。機会があれば、ShowNetの見学ツアーにも参加するなどして、じっくり見ていってほしい。

 Interop Tokyo 2025の展示会、基調講演、展示会場内セミナーは、オンライン来場登録を行うことで無料で参加可能。「デジタルサイネージジャパン 2025」「アプリジャパン 2025」「画像認識 AI Expo 2025」も併催される。

 また、宇宙とインターネットに関する「Internet x Space Summit」、放送・映像とインターネット技術に関する「Internet x Media Summit」、データセンター業界に関する「Data Center Summit」、教育現場で使うAIサービスに関する「Academic Innovation」、生成AIのビジネス導入に関する「生成AIゾーン」(アプリジャパン)といった主催者企画も実施される。

参考:これまでの「ShowNet」会場レポート

 以下、筆者が過去に取材・執筆した「ShowNet」会場レポート記事から、直近の約10年分をリンクするので、参考まで(いずれも「クラウド Watch」に掲載したもの)。