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「Google マップ」を四次元化、「ストリートビュー」で過去に行ける機能追加

2年をかけてタイムマシン開発

 Googleは23日、デスクトップ版の「新しい Google マップ」において、「ストリートビュー」で過去の風景を閲覧できる「タイムマシン機能」を追加した。ランドマークとなっている巨大ビルが建設されていく様子や、東日本大震災の津波被災エリアの震災前・後そして復興の過程など、風景の変遷や季節の変化を追うことが可能だとしている。

東京スカイツリー(2009年12月、提供:Google)
宮城県名取市閖上(2008年6月、提供:Google)
東京スカイツリー(2010年1月、提供:Google)
宮城県名取市閖上(2011年8月、提供:Google)
東京スカイツリー(2013年6月、提供:Google)
宮城県名取市閖上(2013年4月、提供:Google)

 過去のストリートビュー画像の蓄積を“デジタルタイムカプセル”にし、最も古いものでは2007年までさかのぼって見られるようにした。ストリートビュー画面の左上に時計アイコンが表示される場所がタイムマシン機能に対応している。同アイコンをクリック後、タイムスライダーを動かすことで、その場所の過去の風景や異なる季節の風景に切り替えられる。通常のストリートビューと同様に、その過去の風景の中を歩き回ることも可能だ。

シンガポールの「マリーナベイサンズ」ホテル(Google Maps公式ブログより画像転載)

 Googleではタイムマシン機能のリリースを記念して期間限定で、ストリートビュー画面で地図内に表示される「ペグマン」のアイコンを「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のエメット・ブラウン博士のデザインにした。

 「デロリアンの運転席に座れなくても大丈夫。パソコンの前に座って、みなさんの好きな場所が、時の流れとともに見せる表情をストリートビューで見比べてみませんか。」(Google)

ブラウン博士(提供:Google)

東日本大震災で、過去のストリートビュー画像へもニーズ

 ストリートビューは2007年に米国で撮影をスタートし、現在は世界50カ国以上に拡大している。撮影車両がこれまで走行した道は1000万km以上になるという。Googleの河合敬一氏によると、ストリートビューはいったん撮影・公開して完了ではなく、多くの場合は2回以上走行し、より新しく撮影された画像があるエリアについては順次、公開する画像を更新している。できるだけ最新の情報を提供するという意図だが、閲覧できるのは最も新しい画像だけのため、これまでは更新されてしまうとその前風景は見られなくなっていた。

 一方、日本では東日本大震災をきっかけに、ストリートビューを最新画像に更新した後も過去の画像もあわせて見られるようにする取り組みがすでに行われている。津波被災エリアでは、家屋とともに写真アルバムなどの思い出も流失し、自宅の写真はストリートビューに写ったものしか残っていないという人も大勢いたという。

 河合氏は、そうした人々を対象に避難所を回ってストリートビューの画像をプリントアウトしていたボランティアもいたということを知って、「ストリートビューをそんな風に使えるとは思ってなかった。Googleでは新しい方ばかりを追求してきたが、これまでに撮影してきた画像に思いもよらない価値があったと気付かされた」。

 さらに被災状況についても、テレビカメラだけでは記録し切れないということで、ストリートビューで記録してほしという声も寄せられるようになった。しかし、ストリートビューを震災後の新しい画像に更新すると、かつての街の風景は見られなくなってしまう。Googleでは2011年12月、被災地の過去と現在を両方見られる「未来へのキオク」というサイトを公開するに至った。

 津波被災地も今ではがれきの処理も終わって更地になっているため、何も知らずに見ると、以前からそういう風景であり、かつてそこに街があったということを思い至らないのではないかという。ストリートビューでは、写真を1枚1枚撮影するのと異なり、街を丸ごと記録し、記憶に残しておけるとしている。

宮城県女川町の津波被災エリア(Google Maps公式ブログより画像転載)

タイムマシン機能開発に2年、ストリートビューをほぼ全面的に作り替え

 今回追加したタイムマシン機能は、未来へのキオクの反響が大きかったことを受けて、Googleの米国チームとも議論して開発に至ったという。Googleが撮影・蓄積してきたストリートビューを、最新画像ではないからといって死蔵するのではなく、グローバルで活用してもらえるのではないかと考えた。

 しかし、未来へのキオクで日本の限られたエリアを対象に開発した際は、ストリートビューのシステムをハックすることで、数カ月で公開にこぎ着けられたという。一方、同様のことをグローバルで行うにはさずがにハックしてというわけにはいかず、インフラの部分から設計し直すこととなり、2年を要することになった。

 河合氏は、Google マップはサービス開始当初は二次元の地図だったが、それに3Dの建物などを追加することで三次元化し、さらに今度はストリートビューで時間をさかのぼるということで四次元化されたと表現する。そのために「ストリートビューをほぼ全面的に作り替える必要があった」としている。

 公開されるストリートビューの全画像データは、ペタバイト級の容量になるという。これをウェブサービス上から参照できるように整備した上で、世界各地のGoogleのデータセンターから該当データを呼び出してきてブラウザーに表示させるにあたっては、レイテンシーの問題など「相当苦労した」。

Googleの河合敬一氏(グループプロダクトマネージャー)

日本で見られるのは2009年以降の風景、東北については2008年のものも

 タイムマシン機能でさかのぼれる最も古い風景は、2007年のサービス開始当時の米国のものだ。日本では、原則として2009年以降のものとなる。

 実は日本でもそれよりも前の2008年1月からストリートビューが撮影されているが、撮影車両のカメラ搭載位置が高く、民家の塀の内側まで見えてしまうといった問題が指摘されたことを受け、2009年以降は、カメラ位置を下げて撮影し直した画像に全面的に切り替えられた経緯がある。タイムマシン機能で見られるのは、その切り替え後の画像からというわけだ。

 ただし、東日本大震災の被災地である東北エリアについては、未来へのキオクで過去の画像を公開する際に関係各所と相談の上、カメラ位置の高い画像も残すことで理解を得られており、タイムマシン機能でも東北エリアについては2008年の画像が見られるとしている。

 タイムマシン機能で選択できる時期は、エリアによって異なる。例えばシンガポールでは2008年からストリートビューの撮影を開始しているが、都市が小さいためかなり頻繁に撮影されており、2008年から2013年までに11回も撮影されている場所もある。日本ならば、やはり都市部の幹線道路沿いほど頻繁に撮影されているという。どんな場所のいつの風景が見られるかを実際にストリートビューで探しながら楽しんでほしいとしている。

マリーナベイサンズ(2009年1月、提供:Google)
マリーナベイサンズ(2009年3月、提供:Google)
マリーナベイサンズ(2011年3月、提供:Google)
マリーナベイサンズ(2013年3月、提供:Google)

 複数の時期の風景が蓄積されている場所もあれば、まだ最新画像しか公開されていな場所もあるが、それらを平均すると、ストリートビューで公開される画像データの容量は、タイムマシン機能により2倍にふくれあがったという。

 河合氏は「いつかは昔に戻れるようにしたいという思いは、ストリートビューを始めた当初からあった」という。一方、Google マップの地図自体を過去にさかのぼれるようにする機能については、実現したい気持ちはあるものの、今のところ提供の予定はない。Googleでも古地図などを重ね合わせて表示するような取り組みは行っているが、現代の地図データは地図会社から提供を受けているため、過去の地図データの蓄積や表示の仕組みを構築するのは難しい模様だ。

ニューヨークのワールドトレードセンター跡地に建設された“フリーダムタワー”(Google Maps公式ブログより画像転載)

(永沢 茂)