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IANA監督権限の移管計画にさらなる遅れ? ネットコミュニティからの意見と議論がまだまだ必要

 米国時間の8月17日(日本時間18日早朝)、米国商務省電気通信情報局(NTIA)の責任者であるLawrence E. Strickling氏の名前で「2015年9月で満了するNTIAとICANN間のIANA契約を1年間延長する予定であることを議会に報告した」という内容のブログ[*1]がアップされた。この件はまだ正式なものではないが、IANA監督権限移管に関するスケジュールが変更されるのは確実だろう[*2]

 ただし、提案書に対するパブリックコメント(意見募集)の締め切りが目前に迫っていることから、意見を出すのであれば急ぐ必要がある。インターネットで重要となるドメイン名やIPアドレスといった資源の管理をどうしていくかは今後のインターネットのあり方に影響を及ぼすと考えられるため、さまざまなコミュニティなどからの意見が求められている。

[*1]……「An Update on the IANA Transition」
http://www.ntia.doc.gov/blog/2015/update-iana-transition

[*2]……IANA(Internet Assigned Numbers Authority)とは、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)の一機能であり、インターネットにおける重要な資源であるドメイン名、IPアドレスやAS番号などの番号資源、インターネット標準で定められるプロトコルパラメータなどを管理している。

意見の提出機会と2016年7月を目指したものとなるスケジュール

 当面、重要なのは、ICGとCCWG-Accountabilityそれぞれの提案書に対する意見募集がすでに始まっており、その締め切りが近いということである。以下、簡単に説明する。

 ICG[*3]の「IANA機能の監督権限移管に向けた統合提案」への意見募集については7月31日から始まっており、9月8日(日本時間では、9月9日の午前8時59分まで)で締め切られる。これに関する日本語の説明は、以下に示す一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)のページを参照していただきたい。意見募集としては、「Call for Public Comment」のセクションに回答を募集する12の設問が提示されており、その中から任意に意見を提出することができる(すべてに回答しなくてもよい)。

 「提案概要および質問に関する和訳(参考訳)」(https://www.nic.ad.jp/ja/translation/governance/20150731-01.html)がJPNICから提供され、日本インターネットガバナンス会議(Internet Governance Conference Japan:IGCJ)からも「IANA監督権限移管に関する提出意見草案に関するFAQ」(http://igcj.jp/news/faq-20150831.html)が提供されているので、そちらを参照してもいいだろう。

IANA機能の監督権限移管に向けた統合提案への意見募集のご案内

https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2015/20150805-01.html

 CCWG-Accountability[*4]の「ICANNの説明責任の強化に向けた提案(第二版)」への意見募集については8月3日から始まっており、9月12日(日本時間では、9月13日の午前8時59分まで)で締め切られる。これに関する日本語の説明は、以下に示すJPNICのページを参照していただきたい。こちらは質問形式ではなく、広く提案書全般についての意見を求める形になっている。

ICANN説明責任の強化に向けた提案(第二版)への意見募集について

https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2015/20150807-01.html

 これらの意見募集期間に続く次の発言機会は、ICANN54(ダブリン会合)である。IANA transitionセッションなどで発言することができるはずだが、現在行われている意見募集を最大限活用する方がよい。今後のスケジュールについての見通しを見ると、ICANN54で開催される理事会で承認の予定が組まれているからである。以下は、JPNICの公開情報をまとめたものである。

  • ICGの「IANA機能の監督権限移管に向けた統合提案」への意見募集
  • CCWG-Accountabilityの「ICANNの説明責任の強化に向けた提案(第二版)」への意見募集
  • 意見募集の終了後、2015年9月中にICANN理事会による検討開始
  • 2015年10月18日から10月22日にかけて、ICANN54がアイルランドのダブリンにて開催[*5]。この会期中の理事会で提案を承認
  • 2015年11月第1週にNTIAに提案書を提出
  • 2016年2月までにNTIAと米国議会の承認が完了
  • 2016年の7月ごろに移管が完了

 英語が苦手であるとか、単独での意見提出に二の足を踏んでいるという方は、IGCJ(http://igcj.jp/)を利用するという手もある。「インターネットはこうあってほしい」という意見をお持ちの方がいれば、参加を検討してみてはいかがだろうか。

 なお、9月1日にIGCJ主催で開催された「IANA監督権限移管に関する提出意見草案説明のためのIGCJアドホック会議」で、有志のドラフティングチームが提出意見草案を作成したことを報告した。ICG提案は、NTIAの替わりにコミュニティによる監督機構を創設するものだが、これは、オープン、インクルーシブ、ボトムアップといった、これまでインターネットコミュニティが堅持してきた基本的な考え方に沿っているものである。有志のドラフティングチームによる提出意見はこの点を歓迎し、ICG提案を支持する立場をとる。

 提出者はインターネットコミュニティの一員である個人とし、個人の賛同者を募る予定だという。詳細については、決まり次第、IGCJのページで公開するということなので、こちらも検討してみてはいかがだろうか。見込みとしては、9月3日ぐらいに詳細を確定する予定であるということだ。

[*3]……IANA Stewardship Transition Coordination Groupの略。移管後の体制を検討し提案するために、ICANNの外部に組成された組織。

[*4]……Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountabilityの略。ICANNの説明責任強化に関するコミュニティ横断ワーキンググループ。

[*5]……ICANN54(DUBLIN)
https://meetings.icann.org/en/dublin54

どのような意見が求められているのか?

 ICGの「IANA機能の監督権限移管に向けた統合提案」は、NTIAにより定義された移管の条件に沿ったものであることを証明することが重要となる。そのため、ICGが具体的に求めている意見はおおまかに次のようなものとなっている。詳細は、先に紹介したJPNICの各ページに詳しいので、そちらを参照していただきたい。

  • 「提案全般に関する質問」として、提案が審査できるまで詳細が明瞭となっているかや、抜け落ちがないかといった点について
  • 「NTIAの提示する基準に関する質問」として、NTIAが求める要件を満たしているかといった点について
  • 「ICGによる提案の説明および総括に関する質問」として、すべての必要な要素を正確に反映しているかという点について
  • 「全般的な質問」として、ICGに対する全般的なコメント

 意見の提出方法は、ウェブ上の意見提出フォーム(https://comments.ianacg.org/form)、または定型の意見提出フォーム(https://www.ianacg.org/icg-files/documents/public-input-template-EN.docx)を利用し、電子メール(public-comments@ianacg.org)で提出する。

 CCWG-Accountabilityの「ICANNの説明責任の強化に向けた提案(第二版)」は、IANA機能の監督権限移管までに対応を必要とするICANNのアカウンタビリティ(説明責任)向上に向けた課題に重点を置き、長期的な課題は移管後に継続して検討を行うかたちとなる。3つのガイディングクエスチョンが示されているが、意見提出はフリーフォーマットであり、提案書全般の意見を書いてもかまわない。

 意見の提出方法は、電子メール(comments-ccwg-accountability-03aug15@icann.org)。

コミュニティの意見が、インターネットの未来を作る

 インターネットはグローバルなネットワークであり、そこには多種多様な利害関係が存在する。インターネットにおけるガバナンスは、そうした利害関係があることを意識しつつ、これからのインターネットのあり方に対して責任を持ち、全体を安定させていくものでなければならない。

 IANA監督権限の移管に関して言えば、移管後の体制と移管プロセスが決まっただけでは十分ではなく、それらがきちんと機能し、実行されることを見守っていく必要がある。これは息の長い活動であり、より良いインターネットというものを維持しつつ、持続可能な発展をさせていくために不可欠である。

 我々は、ともすると、面倒な交渉や決定はお上がやってくれるだろうということで傍観者となりがちである。しかし、それが自分自身の利益となるかは不定である。やはり、自分自身が考える利益は外部に向けて出すべきではないだろうか。インターネットにかかわるガバナンスの動向を知らないことは不利益になるかもしれないし、知っているとしても行動しなければ利益の確保はできないのである[*6]

 インターネットの未来のためにも我々は傍観者にならず、IANA監督権限の移管がうまくいくようにコメントを出すか、少なくとも賛成か反対かといったかたちでもいいので意思表示をしていくべきだろう。インターネットの未来を決めていくのは、ユーザーを含めたインターネットコミュニティの人々の意見なのである。

 最後に、慶應義塾大学教授の村井純氏よりメッセージをいただくことができたので、ここに掲載して報告を終わりとしたい。

慶應義塾大学教授の村井純氏

インターネットが社会の基盤となり、すべての人の生活や仕事を支えるようになりました。

IoTやビッグデータ、人工知能やロボットと、グローバルなインターネットを前提とした新しい技術も次々と生まれ、人類すべての未来の大切な基盤としてインターネットは発展し続ける必要があります。我が国は初期の段階からグローバルなインターネットが安定して運用されるためのさまざまな仕組みに大きな役割を果たしてきました。安心で安全な社会の基盤であるインターネットの責任を持つ体制が今後どのようになればいいのかを私達の経験と知識に基づいて今はっきりと意見や提案として伝えることが大切です。皆様のご理解と参加をお願いします。

[*6]……IANA監督権限の移管に興味が湧いた場合には、その概要を「インターネットがインターネットであるために、今年9月までにまとめなければならないこと――IANA機能の監督権限移管について、ICANNのTheresa Swinehart氏が講演」(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20150326_694702.html)で詳しく書いているのでそちらも参照していただきたい。

(遠山 孝)