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「マストドン」なぜ人気? 今のうちに押さえておきたい基礎知識とビジネス活用の可能性

 「マストドン(Mastodon)」が話題となっている。マストドンとは、ポストTwitterとも言われるミニブログ型サービスのこと。今、この新しいSNSに熱い注目が集まっているのだ。マストドンとはどのようなサービスなのか。基本機能とともに、人気となっている理由とビジネス活用の可能性までを考えていきたい。

分散型SNSに企業も注目

 マストドンは、ドイツのEugen Rochko(オイゲン・ロッコ)氏によって2016年10月に公開された新しいソフトウェアだ。クラウドファウンディングサイト「Patreon」で毎月援助を受けるかたちでスタートしている。

 マストドンの最大の特徴は分散型システムを利用している点。マストドンクローンをダウンロードし、自前のサーバーにインストールすれば誰でも運営できるのだ。このサーバーは「インスタンス」と呼ばれており、すでに個人や企業によるさまざまなインスタンスが登場している。日本でもピクシブやドワンゴ、ニッポン放送などがインスタンスを運営中だ。5月1日時点でインスタンスは1600近くあり、ユーザー数は約56万人に及ぶ(「Mastodon instances」参照)。

 なお、マストドンとは約4000万年~1万1000年前にいた、絶滅したゾウやマンモスに似た大型の哺乳類の総称。同名のメタルバンド「マストドン」にインスパイアされて命名したとも言われている。

ぬるかる氏が運営するインスタンス「mstdn.jp」

「マストドン」の見方、機能を知ろう

 マストドンの基本的な機能と見方を整理しておこう。Twitterのツイートに当たるものは「トゥート」(吠えるという意味)といい、Twitterの140文字に対して500文字まで投稿できる。リツイートに当たるものは「ブースト」だ。他のユーザーは一方向フォローでき、トゥートは「お気に入り」に登録できるなど、基本機能はTwitterとほぼ同じと考えてよい。

 一方、後から登場したサービスならではの機能もある。トゥートの公開範囲は、1)投稿時に公開タイムラインに公開される「公開」、2)公開タイムラインには公開しない「未公開」、3)フォロワーだけに公開する「非公開」、4)メンションしたユーザーだけに公開する「ダイレクト」――から、ユーザーのニーズに合わせて選べる。

 さらに「CW」(「Content Warning」の略)を使えば、「閲覧注意」という欄に入力した文章だけが表示される状態となり、「今なにしてる?」欄に入力した文章は折りたたまれ、「もっと見る」をクリックしなければ読めないようになる。この機能の画像版が「NSFW」だ。「Not Safe for Work」の略であり、職場閲覧注意の画像をクリックしなければ表示しないようにできるのだ。

 PC版画面の見方は次のようになる。左カラムはホーム的なもので、投稿や検索、設定などができる。「通知」にはフォロー状況やお気に入り状況などが表示される。

「マストドン」PC版画面

 マストドンには3つのタイムラインがある。「ホーム」には自分とフォロワーのトゥートが表示されるので、Twitterのタイムラインとほぼ同じと考えていい。「ローカルタイムライン」には、自分が所属するインスタンスの公開投稿された全トゥートが表示される。「連合タイムライン」は、所属インスタンスユーザーのトゥートや、所属インスタンスユーザーがフォローした他のインスンタンスユーザーのトゥートなどが表示される。

 マストドンでは、自分がアカウント登録しているインタンス以外のユーザーもフォローすることができる(リモートフォロー)。このため、基本的にはどのインスタンスに登録しても世界中のどのインスタンスとも交流できる。ただし、18禁イラストが投稿されたことから、pixivが運営するインスタンス「Pawoo」が他のインスタンスからブロックされるなどのケースも起きている。国によってはブラウザーにキャッシュが残っているだけでも違法とされるためだ。

 日本のインスタンス一覧と参加人数は、「日本のマストドンインスタンスの一覧」に掲載されている。「タイムラインをちら見」からインスタンスごとの雰囲気が分かる。インスタンスは、都道府県別、スポーツ別、ゲーム別、趣味別などで多種多様なものが登場している状態だ。

 なお、悪意あるユーザーがインスタンスを運用して、そこにアカウント登録させることでユーザーのメールアドレスやパスワードなどを収集する可能性があることには留意していおく必要がある。そのため、アカウント登録する際にはメインのメールアドレスは使わないこと、パスワードはマストドンだけで使用するものを設定することが大切だ。また、アカウント削除機能は現時点ではマストドンに実装されていない。

趣味・関心に合ったインスタンスが選べる点がポイント

 さまざまなSNSが登場しては消えていく中で、なぜマストドンに人気が集まったのだろうか。

 開発者のオイゲン・ロッコ氏は、「ソーシャルメディアの未来は“連合”でなければならない」と考え、マストドンをTwitterの代わりとなるサービスとして作ったと述べている。サービスが1つの企業によって運営されている場合、ユーザーのやりとりは一企業に中央集権的に独占されてしまう。しかし、ユーザーが自らコミュニティを作り連合することで、人はパワーを持てるようになるはずだと考えて、マストドンを作ったという(「HackerNoon」2017年2月20日付記事「The power to build communities, a response to Mark Zuckerberg」参照)。

 例えば、FacebookやTwitterの運営方針が気に入らなくても、ユーザーには我慢して使い続けるか、やめるしか選択肢はなかった。運営方針に違反すれば、アカウント停止や退会処分にされることもある。ところがマストドンのようにそれぞれのインスタンスが独立した運営方針で運営する仕組みであれば、自らインスタンスを運営してもいいし、気に入ったインスタンスを選ぶ権利ができることになる。

 マストドンには、フォロー/ブロック/ミュートしたアカウントのリストをインスタンスから他のインスタンスへエクスポート/インポートできる機能が用意されている。つまり、最初からインスタンスからインスタンスへの乗り換えが想定されたサービスなのだ。

 ユーザー側から見ると、Twitterはユーザーが多すぎて何を投稿していいのか困ることがある。これを補うために10代の若者たちは、TwitterやInstagramなどでは複数アカウントを持ち、ツイート・収集したいテーマごとに顔を使い分けているという実態がある。コロプラの「Twitterに関する調査」(2016年9月)によると、10代女性の約8割はTwitterにおいて複数アカウントを所持しているという。

 しかし、マストドンなら最初からインスタンスを選んで投稿できるため、ある程度、興味・関心を持たれやすい場に投稿できる。マストドン人気には、ユーザーが最大限に自由でいられることと同時に、Twitterの問題がクリアできる点が影響しているのではないか。

「マストドン」がビジネスに活用される可能性は?

 ピクシブが運営する「Pawoo」やぬるかる氏が運営する「mstdn.jp」など日本のインスタンスがユーザー数で世界1位・2位に位置するなど、他国と比較しても日本人ユーザーはマストドンに特に強い関心を持ち、積極的に使う傾向にあるようだ。日本人はもともとTwitterを好んでおり、Twitterに似たサービスとして好ましく感じているのではないか。最近のTwitterは赤字が続くことが報じられるなど頼りなく、そこにTwitterの問題点を改善できるユニークな名前のサービス「マストドン」が登場したことで、ユーザーが飛びついたというのが真相ではないか。

 とにかく勢いがあるマストドンだが、ビジネスに活用できる可能性はあるのだろうか。マストドン自体は広告の表示もなく、現時点ではビジネスモデルが見えない状態だ。インスタンスがばらばらに運営されている以上、広告モデルを新たに導入するのは若干難しいかもしれない。

 しかし、ユーザーがインスタンスを運営してビジネスに活用できる可能性はある。例えば特定のテーマの優良な情報が得られるインスタンスなら、有料でも参加者が得られる可能性があるだろう。また、すでに複数の企業が始めているように、自社の運営方針に賛同するユーザーや自社サービスユーザーを集めてコミュニティとして活用できるだろう。都道府県ごとのインスタンスを地域活性化につなげるなどの使い方も考えられそうだ。

 このようにビジネスに使える可能性はあるが、アカウント削除機能が実装されていないなど、気になる点が残る。また、現状、下ネタなどが多く投稿されており、企業として見た場合、イメージダウンにつながらないような自治に課題が残りそうだ。

 マストドンが今後、ビジネスにどのような影響を及ぼすのかについては、まだまだ未知数だ。しかし、過去に成功したあらゆるSNSには先行者利益があった。勢いが衰えないマストドンが大化けする前に、まずは覗いてみてはいかがだろうか。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/