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とある高校生のオンライン事情、休校3カ月……塾は?部活は? 「オンライン筋トレ」も?

荒れるZoomのチャット

 3月2日からの一斉休校が決定したとき、息子のクラスでは「うっひょー!」「キャー」「わっしょい」といった奇声、雄叫びが飛び交い、教室が一瞬にして、さる山と化したという。休校よりも、目前に控えていた学年末テストが吹っ飛んだことが嬉しかったのだろう。

 帰宅した息子からそれを聞いた私は頭を抱えた。

「このおさるさんは、出歩かず家でちゃんと過ごせるのだろうか」

 あれから3か月、この原稿を執筆しているのは5月下旬だが、都内にある息子の高校はいまだ休校だ(6⽉23⽇現在は隔日登校となっており、部活動も制限されている)。2月末に休校が決まったときは「とりあえず春休みまで」、4月に入ると「GW明けまで」、GW中に「5月いっぱい」と小刻みに延長されたためか、息子の高校では、オンライン授業なるものも行われていない。

 野球部の息子はすっかり色白になり、髪も伸びた。そして最近はオンライン麻雀の腕を上げ、黒川弘務東京高検検事長が賭け麻雀問題で辞職届を出した日に、「学生オンライン麻雀大会」なるものに申し込んでいた。母は悲しいよ……。

当初は「勉強の遅れ取り戻せる」と期待したが……

ある日、息子の部屋に入るとベッドの上がカオスだった。勉強が気になりつつ、暇を持て余していることが伝わってきた。

 私自身は海外の状況から日本も休校は避けられないと思い、先手を打ってはいた。

 まず、息子のスマートフォンをサイズが大きいタブレットに買い替え(SIMフリー端末なので、SIMカードを入れ替えるだけで済んだ)、机の下でこそこそとやりにくいようにした。グーグルのパソコンChromebook(クロームブック)も購入し、塾にも入った。

 1年前に高校に入学して以来、息子は部活と勉強の両立に苦戦し、成績は低空飛行を続けていた。だから3月の休校は、1年間の勉強の遅れを取り戻す「恵みの雨」にも思えた。もちろん、そんな風に考えるのは子どもではなく、親の私だ。

 3月はまだ良かった。緊急事態宣言前は塾も開いており、息子は毎日塾でビデオ講座を受けていた。だが、4月に塾が閉鎖されると生活リズムが一気に崩れ、昼まで起きてこない日が増えた。起床後も部屋にこもって何をしているかは分からない(塾の授業はオンラインで受けられるようにはなっていた)。

 私も夫も在宅勤務となり全員が家にいるのだが、それぞれ仕事があり、息子の管理までは手が回らない。小中学生の親御さんに比べたら楽ではあるが、楽したつけがどこで出て来るのか、かなり不安ではあった。

【4月上旬】新入生勧誘めど立たずLINE会議「オンライン筋トレ」も……

 3月には高校の担任から時折電話がかかってきたが、4月にクラス替えがあってからはそれも途絶えた。学校からの連絡や課題はベネッセホールディングスとソフトバンクの合弁会社が運営する教育支援プラットフォーム「Classi」を通じて送られてきたらしいが、ニュースでも報じられているように接続障害が度々発生し、息子はだんだんとチェックしなくなった。

 4月になると、私立校は本格的にオンライン授業を始めるところが増えた。海外でも不完全ではありながら、とりあえずオンライン授業に乗り出すところが多かった。

 アフリカ、そしてアラスカ在住の友人から、「子どもの学校はオンライン授業やってるよ」と聞いたときには正直ショックだった。IT先進国の中国や米国は分かるが、アフリカでもやれているものが、なぜ息子の高校では提供されないのか?

 GW中に休校のさらなる延長が不可避になると、息子も少し焦りだした。だが、気にしていたのは勉強ではなく、部活のことだ。

 息子の高校では例年、4月に激しい部員勧誘が展開され、1年生を部活説明会に呼び寄せるために、お菓子やジュースなどの“実弾”も飛び交う。が、今年は説明会どころか1年生の存在も確認できない。

部活の仲間たちとLINEで緊急会議。知った相手とはLINEが便利だという。

 そんな中、ITを使って勧誘を試みる部が出て来たという。野球部員の一人が「〇〇部は、インスタアカウントを使ってポジションや部員の紹介している」との情報を入手したことで、野球部でも「何かやらないといけない」との声が上がり、GW中にLINEのビデオ通話で緊急会議が開催された。

 私には信じがたいが、息子の部活仲間たちは3月初めに休校に入って以降、GWまで全く連絡を取り合わなかったらしい。2カ月ぶりにLINEで顔を合わせた彼らは、会議後何となく「オンライン筋トレ」をやる流れになった。

 ビデオ機能をオンにし、誰かがリーダーとなり、全員で筋トレをする。だが息子によると「LINEのビデオ通話は大人数でやると、全員の画面が同時に表示されない」(検証しておらず、真偽は分かりません)と不満の声が出て、「今度はZOOMでやってみよう」ということになった。だが、誰も次の場を設定しなかったため、ZOOMオンライン筋トレは幻となってしまった。

【GW明け】先に動き出した塾

 そしてGW明け、先に動きだしたのは塾だった。

 5月6日に塾の責任者から電話があり、「お子さんの様子どうですか?」と聞かれた。塾では息子のオンライン受講状況を逐次確認しており、いわく「やってないことはないけど、ここしばらくはペースが落ちていますね」という。

 さらに「GW明けも教室は開けられそうにないので、明後日からオンライン朝礼と音読会をやることにしました」と告げられた。

 責任者によると、オンラインで6時間の通常授業を再開している高校がある一方、子どもに丸投げで何もやっていない高校もあり、後者の生徒たちは生活が不規則、単調になりがちだという。はい、まさしく我が息子のことだ。

 せめて早起きのきっかけになればと、高校でオンライン授業が行われていない生徒約40人を対象に、ZOOMで朝礼や英単語、英文の音読を実施するという。

 「ぜひ参加してください」と言われ、私は「先生!お願いします」と電話越しに頭を下げたのだった。

ドタバタのZOOM朝礼

 塾の朝礼初日、ワクワクして息子の部屋を見に行くと何も始まっていなかった。「やってないの?」と聞くと、「パスワードを入力しないと入れないんだけど、そのパスワードが分からん」との答え。

 塾の先生にショートメールを送り、「あれ?伝えてなかったっけ」とパスワードが送られてきたころには朝礼は終了していた。

塾の朝礼中のチャット画面。参加者の不満が次々に打ち込まれる。

 次の日の朝礼は無事入ることができたが、音読の練習で流れてくる音声のボリュームが小さすぎてチャットに「聞こえない」「聞こえません」「僕も」とのテキストが並んでいる。生徒たちが声をそろえて音読をする番になると、みんな気恥ずかしいのか全員がマイクをオフにしている。その時は朝礼を進行する先生が「ミュートを解除してください」と何度も打ち込んでいた。

 朝礼には約40人が参加しているが、ツールの慣れには差もある。ある日は生徒の一人がマイクをミュートにしておらず、側にいるらしい弟か妹のわめき声、さらにそれをなだめるお父さんらしき大人の声が、先生の声をかき消していた。

 画面には、

「マイク、ミュートしてください」
「誰ですか、ミュートしてください」

とテキストが連打されたが、当の本人はチャットの存在に気付いていないのか、最後まで子どもの絶叫と、お父さんが半分キレながらなだめる声が聞こえ続けた。よそのご家庭ながら、お父さんお疲れ様です。

学校からは課題が郵便で……

息子の高校はレターパックで課題が送られてきた

 GWが明けると高校も動き出した。息子の高校からレターパックが届いたのだ。

 封を開けると課題・宿題と今後のスケジュールを説明する紙、さらに学校からのお便りが入っていた。お便りを読んで驚いた。息子は「学校は全く何もしていない」と言っていたが、GW中にお試しのオンラインホームルーム(HR)を数回開いたと書いているのだ。

 息子を呼びつけて問い正すと、「Classi(*1)で通知があったみたいだけど、Classiがつながらんから気づいてなかった」との答え。

 高校生ともなると言い訳も上級化するので、息子の言っていることがどこまで本当か分からない。ただ、ネットでの連絡が十分に行きわたってないから、最終手段として郵送で色々送られてきたことが、何となく伝わってきた……。

*1 息子の学校で導入されている、教育向けのクラウドサービス

「遅刻」で頻繁に開始遅れ

 さて、5月下旬現在、息子のスケジュールは以下のようになっている。

   平日朝: 塾の朝礼
   週に1回: 塾のグループミーティング
   週に1回: 学校のクラスHR
   1~2日に1度: 塾のオンライン授業を90分受ける

 高校の授業は始まっておらず、Classiで「今週は教科書を〇〇まで自習するように。分からなければZOOMで質問してください」などと教科ごとに連絡が来ている。

 クラスのHRはクラス替え後で誰が誰だか分からないらしく、先生が一方的に話して15分ほどで終了、とのこと。

 そして塾の朝礼やグループミーティングで常態化しているのが先生か生徒の「遅刻」。

 定時に人がそろうことはまれで、開始は遅れがちだという。塾のグループミーティングの初回は、先生がZOOMに入室するまで20分かかり、その間に息子以外は全員退出してしまった。

 息子の高校はスマートフォン持ち込み自由で、生徒たちは授業中も黒板の撮影や調べものに使っている。委員会の連絡もLINEが使われ、高校生のITリテラシーは高そうに見えるが、それでもZOOMなど新しいツールへの慣れや、新たなルール・マナーを固めるのに思った以上に時間がかかっている。だから一層思う。

「4月に動き出してほしかった……」

 息子の高校は保護者会の度に、「学校の授業で十分なので、塾は行かないでください」と呼び掛けていた。しかし3カ月の空白ができてもなお、「学校の授業で十分」という言葉を信じていいのか。

 学校からは自習用の課題がどんどん送られてきたが、1年次にちょっと落ちこぼれてしまった息子に自習は荷が重い。少なくとも早く動き出し、やる気が伝わるのは塾の方であり(組織の存続がかかっているから、当然だろうが)、そちらに頼らざるを得ない。

オンライン授業より麻雀にはまる

 そして息子が休校中に覚えたのが、麻雀だ。高校に麻雀同好会があり、そこのメンバーに誘われてオンラインで卓を囲むようになった。

オンライン麻雀片手に魚を焼く息子…

 数カ月前までプログラミングを学んで、ゲーム会社に就職したいと言っていたのに、今や「オンライン麻雀の実況YouTuberになりたい」と口にするようになった。

 さらに、5月下旬の「学生オンライン麻雀大会」にまで「個人戦に出場したい。申し込んでもいい?」と聞いてきた(一応保護者の許可が必要らしい)。賭けマージャンで首が飛んだ人もいるというのに、なんとお気楽なことか……。

 昼ごはんを食べながら、「この3か月で、自己管理できる子とそうでない子、雲泥の差がつくよね」とため息をついていると、夫が「高校生で自己管理できるなんて10%もいないだろう。仕方ないよ」と息子を擁護する。

そして、「俺だって9時始業で8時半まで寝るようになっちゃったし。テレワークが終わったら、通勤だけで体力なくなりそう」と食後のシャワーに向かったのだった。