週刊Slack情報局
教育機関にとって「Slack」とは? 導入の「成否の分かれ目」とは?
2020年5月20日 09:00
Slackの教育分野での導入事例を紹介するセミナーイベント「Slack教育機関向けウェビナー」が14日、Slack Japan株式会社によりオンラインで開催された。慶應義塾大学、近畿大学、京都大学、N高等学校の担当者が登壇し、それぞれ違った導入のアプローチが紹介された。
今回はまず、それら各校の事例に先立ち、Slack Japanの溝口宗太郎氏(エグゼクティブプログラムチームリーダー)が語った、Slackの特徴や海外における教育分野の事例について紹介。続いて、慶應義塾大学の事例について紹介する。
教育機関にとって、Slackは「デジタル・キャンパス」
溝口氏はまずSlackについて「単にメールを置き換えるチャットツールとは考えていない」として、「メッセージングプラットフォーム」だと紹介した。
例えば教育機関でいえば、校内や提携校などとコミュニケーションがとれるところまではチャットだ。それに加えてさまざまなアプリとAPI連携できる、例えば資料を共有して閲覧できる。「G SuiteやOffice 365と競合するのでは?と言われるが、そうは考えていない。連携してコラボレーションがとれるものと考えている」と溝口氏は説明した。
そのうえで教育機関にとってのSlackを「デジタル・キャンパス」だと溝口氏は定義した。24時間365日開いていて、いつでも、どこからでも、どんなデバイスからでも参加しているという意味だ。
「全米で最も革新的な学校」アリゾナ州立大学の授業もSlackが支える
世界の教育機関でのSlackの先端的な事例として、溝口氏はアリゾナ州立大学の例を紹介した。同校は全米で最も革新的な学校のランキングに4年連続で選ばれており、オンライン受講者も3万8000人以上いるという。
まず授業においては、事前に教員が課題や目標をSlackに投稿して、学生の目的意識を向上させている。また、リモート受講生も交えて授業でコミュニケーションをとり、授業後に議論をしている。授業に関するアンケートもSlackのアンケートアプリケーションでとっているという。
教員を支えるコミュニティとしてもSlackが活用されている。教員たちがSlackでコミュニケーションをとることで、集団でクラス運営している感覚が得られ、共同でカリキュラムを改訂するといったこともなされているという。例えば皆が普段やっているような業務について情報共有したり、何度も聞かれるような質問をSlackのチャンネルによって参照できるようにしたり、学校運営に関する議論をしたりといったこともなされている。
また、ゲストや共有チゃンネルを使って、外部の人を招いてコミュニティ形成やイベント共同開催といったこともなされているという。
こうしたことをふまえ、溝口氏は最後に改めて「Slackはデジタル・キャンパス」という言葉を繰り返して発表を締めくくった。
働き方改革とは無縁――導入の背景に「大学職員の仕事のやり方」への問題意識
慶應義塾大学の事例については、学校法人慶應義塾の武内孝治氏(インフォメーション・テクノロジー・センター(ITC)本部事務長)が説明した。
慶應義塾のSlack導入は、ITC本部が管理する大学事務や病院などのものと、学部が管理する学部教員や学部事務のものと2系統がある。武内氏は前者の責任者であり、こちらは2020年4月からSlackのプラスプラン(有料プラン)400ライセンスを契約した。ちょうど5月13日に発生したSlackの障害でも、すぐに同僚から問い合わせがあったとのことで「みんなSlackが動いていないと困るという現状になっている」と武内氏は説明した。
Slackを導入する背景として、大学職員の仕事のやり方に関する問題意識が武内氏にあった。まず、効率性を考えるのはタブーという雰囲気で、働き方改革とは無縁だったという。もう1つは、教員と職員の協業の場がないこと。ネットワークも異なり、セキュリティの関係で情報共有も難しい。
こうした現状に対し、保守的で、縦割りで、Eメールや紙が中心の大学職員の文化を変えたいということから、Slackを導入したという。「個別のシステムやワークフロー、RPAを入れても、業務スタイルは変わらない。日常的に使うインフラをかえるのが重要なんじゃないかと思う」(武内氏)。
Slackを導入した結果、圧倒的に仕事が速くなった(ただし疲れる)という。特に現在のテレワークでは、Slackがなかったらどうしていたか想像もできないほどとなった。ちょうど大学の事務では、4~5月は新学年の新学期の開始時期であり、新しい案件が目白押しの忙しい時期である。そこで、オンライン授業やウェブ会議、さらには大学病院での新型コロナウイルス対応まで、Slackが活用されている。同時に「先生方との距離が近くなったと感じる」ことも武内氏は語った。
なお、同種のアプリケーションの中でSlackを選んだ理由として、画面構成が分かりやすくUIがいいことを武内氏は挙げた。「教育コストは無視できない」と武内氏。
Slack導入を検討している人への「3つのアドバイス」
ITC本部管理のSlackでは、チャンネルはほとんどプライベートで運用し、新規チャンネルは申請制にしている。
連携しているアプリは「Zoom」「WebEx」「Google ドライブ」「Google フォーム」「Google スケジュール」「Box」。ただし現場では、連携アプリを利用している部門は有効活用しているが、活用にばらつきがあるという。「いいツールだと思う反面、組織にはちょっと使えない、というギャップをまだ埋められないという感想を持っている」と武内氏はコメントした。
武内氏は、Slack導入を検討している人に対して、「組織に地力がなければ効果を出すことは難しい」「個人の仕事の仕方が変わるかどうかが成否の分かれ目」「初期費用や機能比較は意味がない(費用対効果で選ぶ製品ではなく、機能は数カ月後には変わっている)」の3つをアドバイス。最後に、「個人的には、ワープロ専用機からWindowsになったときや、Eメールが始まったときと同じ可能性を感じている」と語った。
一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能やアップデート内容、企業における導入事例、イベントレポートなど、Slackに関する情報をお届けする。