週刊Slack情報局

京大のSlack利用は「独立性の強い学風」を反映、必須にはせず、モデレーションを重視

 教育分野でのSlackの導入事例を紹介するセミナーイベント「Slack教育機関向けウェビナー」が5月14日、Slack Japan株式会社によりオンラインで開催され、京都大学(京大)での導入事例について、国立大学法人京都大学の森村吉貴氏(情報環境機構・情報環境支援センター・センター長/准教授)が説明した。

国立大学法人京都大学の森村吉貴氏(情報環境機構・情報環境支援センター・センター長/准教授)

ラボでの利用が活発、近大など他大学との「組織間連携共有チャンネル」も

 森村氏は、京大の主に情報環境機構(ITサポート部門)でのSlack利用状況と、その利用状況調査のためのアンケートの結果を紹介した。その詳細については論文で発表しているという。

 京大では、部局・個人の独立性の強い学風から、Slackについても全学で統一的な契約はしていないという。ただし、主にラボで利用は非常に活発で、無償ワークスペースで1060あり、8011人が利用している。

京大のSlack利用状況

 その中の情報環境機構は、教員・技術職員・事務職員で約100名が所属。Slack導入の狙いとして、「本当は先進ユーザーで流行っているから」と森村氏は本音を漏らしつつ、「オフィスの地理的なギャップと教員・技術職員・事務職員のワークスタイルのギャップを吸収してコミュニケーションを円滑化したい」というものだと語った。

情報環境機構の背景

 Slackの導入方針として、反発が予想されるので必須にはしなかったという。また、モデレーションを重視。さらに、当初は機密性の高い情報は共有しないことにしていたが、使っているうちに緩和され、その点については誰がアクセスできるチャンネルかを重視するようにしたという。

 各種ツールとの連携も採用。RSSの情報をSlackで共有したり、近畿大学など他の大学などと組織間連携共有チャンネルを持ったり、WikiやRedmine、Zabbixと連携したりしている。さらに独自開発で、SPAM送信通知統計や、電子証明書発行ツールボットなども運用している。

 その結果、アクティブユーザー数が増加。ゲストで外部組織や取引業者なども利用しているという。

Slackの導入方針
各種ツールとの連携
アクティブユーザー数の推移

「情報量」がメリットにもデメリットにも――「必須でないチャンネルは退出しましょう」

 さて、ここからSlackについてのアンケートの結果だ。アンケートは2019年9月に、前年に続いて実施した。Slack内で呼び掛けて、記名式で計59名(教員8名、技術職員31名、事務職員20名)が回答した。

 まず、コミュニケーションが改善されたかの質問については、どの属性でも8割ぐらいが「改善された」と答えており、悪化したという声は少ない。特に事務職員については、前年のアンケートは参加が少なかったが、評価向上が著しいという。

コミュニケーションが改善されたかの質問への回答

 導入メリットとしては、コミュニケーションが増えたことと、情報量が増えたことが多い。一方でデメリットとしても、情報量が増えたことによる負担が多く挙がっている。「さらに、利用していない人との情報の齟齬を新しく選択肢に入れたら、半数以上になるのでは」と森村氏は付け加えた。

導入のメリットについての回答
導入のデメリットについての回答

 こうした結果への考察として、森村氏は情報量がメリットにもデメリットにもなっていることを取り上げ、「必須でないチャンネルは退出しましょう」と呼び掛けていると語った。

 また、利用頻度の高い人と低い人の情報ギャップについては、情報量とリアルタイム性が上がったことの裏返しであり、「正解はないが、組織内の意識合わせをしていく必要があるだろう」と森村氏は語った。

アンケート結果の考察

 そのほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍の中で、リモートワークに必須レベルであるとコメント。一方、全学での統一的な導入については、「常に検討はしているが、短期的なめどはつかない」と語った。

 最後に森村氏は、「新しいツールは目の敵にされることもあるが、新しい価値を提供してくれる」として、ユーザー同士で事例を交換していきたいと語った。

 「Slack教育機関向けウェビナー」では、京大のほか、慶應義塾大学近畿大学N高等学校の担当者が登壇し、それぞれ違った導入のアプローチが紹介された。

一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能やアップデート内容、企業における導入事例、イベントレポートなど、Slackに関する情報をお届けする。