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低価格サービスを実現する、さくらインターネットの「自前」戦略


 さくらインターネットの共用ホスティングサービス「さくらのレンタルサーバ」の契約件数が、8月に20万件を突破した。さくらインターネットは1996年12月に共用ホスティングサービスを開始し、2004年7月からは月額125円からの低価格サービス「さくらのレンタルサーバ」の提供を開始。5年間で20万件の会員を獲得した。

 低価格なサービスを提供する一方で、さくらインターネットはバックボーンを自前で構築し、データセンターも自社で設計するなど、インフラ面にも力を入れている。低価格なサービスの提供とインフラの強化をどのように両立させているのか。さくらインターネットの田中邦裕社長に話を伺った。

共用サーバーはより高機能に、専用サーバーはさらに安く

さくらインターネットの田中邦裕社長

――ホスティングサービスを月額125円で提供するというのはかなり思い切った決断だったと思いますが。

田中氏:さくらインターネットは安く手軽に使えるという点がアピールポイントだったのですが、気付いたら高いサービスになっていた、というのが、月額125円のサービスを始めたそもそものきっかけですね。当時、さくらインターネットで最安値のサービスは月額1000円だったのですが、圧倒的に「安い」と認識してもらうためには、これを10分の1ぐらいにしなければいけないという状況でした。ただ、さすがに10分の1ではコストが合わないので、月額125円というギリギリのところになりましたが。

――どのようにして1000円を125円にしたのでしょうか。

田中氏:実は削ったところは人間が介在する部分だけです。サーバーとしての機能は増えていますし、容量も増えている。1サーバーあたりのユーザー数も決して増えていない。以前は、ドメイン名の設定であるとか、社員が手動でやっていることが多かったのですが、それを申し込みから解約に至るまですべて自動化しました。そうすることで、ユーザーが増えても人件費はほとんど増えない仕組みを作ることで対応しました。

 その当時のユーザー数は約9000でしたが、月額125円のサービスを開始したら、初年度だけで2万ユーザー増えました。それまで、8年間かけて9000ユーザーだったわけで、いきなりその2倍以上です。以来5年間で20万ユーザーになりました。こうなるとスケールメリットが出ますので、たとえば、サーバーも100台を1人で管理するのは大変ですが、1000台を10人で管理するのは楽です。ユーザー数は増えましたが、1人の社員で対応できる数は格段に増えています。

さくらのレンタルサーバ契約件数の推移

――そうなれば月額125円でも十分に利益が出ますか。

田中氏:もちろんそうなのですが、サービスについては利益を拡大するよりも機能を追加したいと考えています。たとえば、ウイルス対策機能を入れたりであるとか、アプリケーションを入れたりであるとか。スケールメリットを活かして、他の業者には真似されないコストパフォーマンスのサービスを提供していきたいと思っています。

――専用ホスティングサービスも、値段はそのままで機能を上げていくという方向なのでしょうか。

田中氏:今一番安いサービスは月額7800円ですが、これはまだ高いと思っています。もちろん、専用サーバーを1000円では提供できませんが、4000〜5000円という値段までは下げられると思います。

――仮想化技術を使って、仮想サーバーを低価格でレンタルするようなサービスもありますが。

田中氏:仮想化も非常に有用なツールですが、単に専用サーバーを安く提供するためだけには使いたくないですね。高性能なホストサーバーを使わなければ、パフォーマンスも落ちますし。それよりも、専用サーバーをとことんまで安くした方が、ユーザーにとってもメリットが大きいと思います。一方で、Amazon EC2のような、サーバーリソースを時間単位で借りられるようなサービスは魅力的ですし、そうしたサービスは提供していきたいと思います。ただ、当社ぐらいの規模があれば、専用サーバーを週単位、日単位で貸すといったこともできると思いますし、そうした細かい課金体系のサービスも提供していきたいです。

スケールメリットでセキュリティ対策サービスも提供

――最近ではサーバーを標的にした攻撃も増えていますが、そうしたセキュリティ面での対応は。

田中氏:共用サーバーでは、スタンダード以上のプランにWebアプリケーションファイアウォール機能を標準で付けています。低価格のレンタルサーバーでこれをやっているところはなかなかないのですが、これもユーザー数が20万になったというスケールメリットで入れることができました。規模が大きくなることで専任の担当者も置けますし、対策のノウハウも溜まっていきます。ただ、規模が大きいということは、内側から攻撃された場合に被害が大きくなる可能性があるので、今は特に攻撃の影響が他のユーザーに及ばないようにするための対策に注力しています。

――DDoS攻撃のようなトラフィックの急増への対策は。

田中氏:DDoS攻撃のようなものには、スタッフが24時間常駐していますので、すぐに対処できます。インフラ的には、さくらインターネットでは現在ピーク時に40Gbpsぐらいのトラフィックが流れていますので、DDoS攻撃が来てもそれをすべて流してしまうこともできます。これもある意味ではスケールメリットというか、ユーザーが多いから可能なことです。もちろん、ホスティングサービスとしては、攻撃を受けたユーザーに迷惑をかけてはいけないので保護が必要ですが。

――バックボーンも増設し続けていますが、トラフィックはまだまだ増えているのでしょうか。

田中氏:トラフィックは頭打ちとまではいきませんが、伸びは緩くなっています。当社としては、大容量バックボーンをセールスポイントにしてきただけに、トラフィックが増えないのはある意味痛手というか、そろそろ強みではなくなってきているのかなと思います。トラフィックの増加に対応するのは大変なのですが、できればトラフィックはどんどん増えて欲しいですね。その方が頑張る余地もありますし、業者としての体力の差も如実に出てきますから。

さくらインターネットのバックボーン(2009年9月現在)

サーバーからデータセンターまで、すべて「自前」で作ることで最適化

――バックボーンやデータセンターを自社で構築しているのはなぜでしょうか。

田中氏:我々の会社は、どちらかと言うと1から10まですべて自社でやりたいという人間が集まっているというのが一番の理由ですかね。レンタルサーバーというサービスだけであれば、どこかからサーバーを借りてきてやることもできるのですが、当社の場合はバックボーンも自前で引いて、データセンターも自分たちで作って、ラックもサーバーも自社で設計したい。マインドというか、思考回路がそうなっているんですね。

――全部自前で作った方がコスト的にも安くなるのでしょうか。

田中氏:コストパフォーマンスという以前に、自前でやっていたというか、最初は既存のデータセンターを使っていたのですが、当時はまだIDC(インターネット・データセンター)という言葉も無い時代でした。企業が専用線を引いてサーバーを設置するといった用途がメインで、そもそもインターネットに接続して使うには不便な所が多かったのです。そうしたこともあって、データセンターもバックボーンも自分たちで構築しました。ただ、自前でやるとなると、コストメリットはなかなか出ません。我々は当時から今ぐらいの規模にすることを考えていたので自前でやりましたが、そうでなければ割に合いません。

オリジナルで設計したサーバーの例。電源を外部に持たせている点が特徴 こちらもオリジナル設計のL字型のサーバー。前後で互い違いにしてラックに収める

――規模が大きければ自前でやるメリットがあると。

田中氏:規模もそうですが、自前でやるメリットはやはり全体での最適化を図れるということです。例えば、今使っているサーバーは自分たちで設計したもので、1Uに4台入れられる集積度の高いものです。これをマウントするラックや、データセンター内のラックの置き方、電源、空調に至るまでをトータルでコーディネートした結果として、これだけの集積度が実現できました。どこかのラックを借りてこれをそのまま入れたとしても、たぶん熱暴走してしまうでしょう。ここまで自前でやって最適化することで、コスト面でもメリットが出てきます。

――ここまでやるとなると、最終的にはデータセンターの建物自体も全部自前で作るということも考えていますか。

田中氏:現在はデータセンターのフロアを借り切っていますが、将来的には建物からという話もしています。例えば、個々のサーバーにバッテリーを入れておけば、UPS(無停電電源装置)の設備は撤去できるのではないかとか、サーバーを水冷で運用してみるのはどうかとか。建物から自前で作れば、そのレベルまで最適化が考えられます。そこまでやれば、設備を借りてサービスを提供している業者では追いつけないレベルのサービスが提供できると思います。

――ありがとうございました。

ラック内に高密度に収容されたサーバー群。1Uに4台が収まっている ラック、サーバー、空調などをすべて自前で設計することで最適化を実現している

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(三柳 英樹)

2009/10/5 11:00

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