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マルチメディアフレームワークの全体像を描くMPEG-21

~コンテンツ流通や著作権管理も盛り込んで標準化を目指す

 21日、ACCSとイーディコントライブ株式会社が主催するセミナー「『情報モラル』を考えるためのセキュリティ技術最前線 第3回」が東京・こどもの城で開催された。セミナーでは、日本電信電話株式会社第三部門R&Dプロデュース担当部長の阪本秀樹氏が「ISO/MPEGが考えるマルチメディアフレームワークと著作権保護」と題する講演を行なった。


MPEG-21とは

日本電信電話株式会社
第三部門R&Dプロデュース担当部長の阪本秀樹氏
 阪本氏は、マルチメディアフレームワークとして策定作業中のMPEG-21を紹介。MPEG-21は、MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4といったコーデックとは異なり、コンテンツ流通に必要となる大局的な全体像(Big Picture)として1999年後半から議論されているものだ。

 現在、通信プロトコルや映像符号化、メタデータ定義、著作権管理などのマルチメディアコンテンツを流通するためのインフラはそれぞれバラバラに存在している。MPRG-21は、これら断片化された数多くの技術がどのように結びつくのかを示すことを目的とし、マルチメディアコンテンツの制作・流通・消費に関して、ISOの内外を問わず標準化仕様を再整理するものだ。

 MPEG-21はISOのMPEG検討グループSC29/WG11で議論されており、ISO21000シリーズとして番号が与えられている。従来のMPEGのAV符号化でされた議論は、技術ありきの立場からボトムアップで行なわれていたが、MPEG-21は、まず消費者の立場に立った上位の要求分析から始めるトップダウンを採用しているのが特徴だ。

 仕様化範囲は7つのエレメントとして定められている。エレメント1は、従来バイナリデータの塊として捉えられてきたコンテンツを、集合的にしかも作成者や消費者の意図に従った方法でメタデータや構造とともに表現するための統一的で拡張性のある記述方法を定める「デジタルアイテム宣言(DID)」。エレメント2は、性質、種別、大きさにかかわらず、デジタルアイテムの識別と記述を行なうフレームワーク「デジタルアイテムの識別と記述(DII)」。エレメント3は、コンテンツのバリューチェーン全体にわたり、コンテンツを統一的に扱い利用するためのインタフェースとプロトコルとなる「コンテンツの操作と利用」。エレメント4は、ネットワークおよびデバイス上でのコンテンツの著作権を管理保護する方法「知的財産の管理と保護」。エレメント5は、多種多様なネットワークおよび端末を通じ、コンテンツを制作者の意図に沿って最適化する方法「端末とネットワーク」。エレメント6は、あらゆるメディアリソースの統一的でフレキシブルな表現方法を定める「コンテンツの表現」。エレメント7は、ネットワーク上で発生したイベントや、実行されたサービスのパフォーマンスをユーザーが共通に知るための標準尺度とインターフェイスを定める「イベント報告」となっている。

 これら7つのエレメントは、MPEG-21技術報告書パート1から9に分かれて標準化されている。パート1は7つのエレメントを規定、各論ではパート2(DID)とパート3(DII)が標準化を終了している。パート4以降は2003年7月から順次確定していき、2004年までには全パートが完成する予定だ。


コンテンツ流通や著作権管理まで踏み込んだ標準化

 MPEG-21以前のデジタルコンテンツの世界は、音楽データや画像データ、テキストデータ、Webデータがそれぞれ独立して“コンテンツ”と呼ばれていた。MPEG-21ではこれらデータの塊を「メディアリソース」と呼び、メディアリソースにMPEG-7などのメタデータやXML、SMILなどの“コンテンツ間の構造”を加えたものを「デジタルアイテム」と呼び、マルチメディアフレームワークを流通するコンテンツの基本単位とする。

 またMPEG-21では、デジタルアイテムをユニークに識別するための仕組み(DII)を検討した。現在、世界で使われているコンテンツの識別子は、日本のコンテンツIDフォーラムが標準化した「cIDf」、国際DOI基金が発行する電子出版向け識別子「DOI」、商品についているバーコードである「EAN/UCC System」、全米レコード協会(RIAA)や世界レコード協会(IFPI)が推進するデジタル音楽のための識別子など16個の方式がある。MPEG-21では、これら既存の標準化技術を相互接続するための方法を考えた。その結果、IETF(Internet Engineering Task Force)のURIを用いて独自に管理しているコンテンツ識別子体系については(現状では、ISBNとISSN)それをそのまま認めた。また、特定の名前空間を持たない識別子体系については、ISOが新規に委託するレジストレーションオーソリティで世界のコンテンツ識別体系を維持管理することとなった。これにより、これまでプライベート方式にすぎなかった各種コンテンツの識別子が、共通の名前空間を獲得することとなった。

 MPEG-21技術報告書パート4で議論されている知的財産の管理と保護アーキテクチャ(IPMP)は、各社が個別に提供している著作権保護ツール(DRM)の相互運用性と連携を確保することを目指している。MPEG-21では、対象コンテンツの形式に依存することなく、異なったデバイスやプレーヤーにわたっての各DRMの相互運用と連携動作を保障する一般的なアーキテクチャを規定しようとしている。そのため、IPMPでは、端末に複数のDRMが常駐しており、その中から対象コンテンツに対して利用可能なツールを選択する仕組みが考えられている。コンテンツが未実装のDRMを利用している場合は、リモートから必要なDRMを検索し、ダウンロードしてくる仕組みを実装する。このほか、複数のDRM間でメッセージを交換し、組み合わせて作動させたり、DRMツールを認証する仕組みなども検討されている。

 著作権管理において重要になるのは、メタデータを機械的に扱うことを可能にするスキーマ定義だ。MPEG-21では、技術報告書パート5として権利表現言語(REL)の策定も行なっている。RELのベースになったのは、MicrosoftとXeroxの合弁会社であるContentGuard社が開発したXrMLだ。XrMLは、誰に、どのコンテンツを、どの条件で、どんな利用を許諾するか、という基本構文から成り立っている。また、メタデータを扱う上で重要なこととして、メタデータの中で使われている語彙に一意性、直行性、記述性が確保されていなければならない。これらを定めるのが、パート6で議論されている標準著作権データ辞書(RDD)だ。


 以上のようにMPEG-21は、従来のビデオやオーディオのコーデックの標準化と異なり、コンテンツ流通や著作権管理といった新しい分野へと進出している。阪本氏も、「MPEG-21が、MPEG符号化と同様に世界中に浸透するかどうかは未知数」とコメントしている。しかしながら、MPEG-21の議論には、世界を代表する著作権管理団体やコンテンツホルダーが積極的に参加している上、世界中のエキスパート300名以上が3カ月に1度開催される会議で熱い議論を交わしていることから、「MPEGのブランド名は健在で、将来のマルチメディア流通標準として広く利用される可能性が高い」(阪本氏)と語った。


関連情報

URL
  「情報モラル」を考えるためのセキュリティ技術最前線
  http://www.accsjp.or.jp/seminar/0309-0402.html


( 岡田大助 )
2003/11/21 20:39

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