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DVTSコンソーシアムの第3回ワークショップ、慶應大学の村井教授が講演


 慶應義塾大学SFC研究所のDVTSコンソーシアムは9日、同大学三田キャンパスで「第3回ワークショップ」を開催した。慶應義塾大学環境情報学部の教授でDVTSコンソーシアムの代表も務める村井純氏が「次世代ストリーミングインフラストラクチャ」と題して基調講演を行なった。

 DVTSコンソーシアムは、DVTS(Digital Video Transport System)の普及を目指して2002年10月に発足したコンソーシアム。Windows XP/2000/Me、Mac OS Xをはじめ、FreeBSDやLinuxなど複数のプラットフォームでHD(High Definition)レベルの高品位な映像を配信するアプリケーションソフトを開発している。また、ビクターなどのメーカーと協力して、組み込み型のハードウェアも開発しているという。


インターネット配信は放送の競合サービスではない

慶應義塾大学環境情報学部の教授でDVTSコンソーシアムの代表も務める村井純氏
 そもそもDVTSは「圧縮していない“生の映像データ”をそのままインターネットで配信したらどうなるかを研究するものだ。例えば、HDレベルの映像をそのまま配信すると30Mbpsを超える帯域が必要になり、そこまでの大容量・高速通信をTCP/IPでは考慮していないため、新たなプロトコルが必要だった」という。また、「圧縮していない映像データを処理するためのコンピュータ技術も研究しなければならない」と広範囲にわたる基盤技術としてDVTSの必要性を説明した。

 DVTSは2002年に「RFC3189」「RFC3190」で標準化され、米国で進めれられている次世代インターネットプロジェクト「Internet2」でもアプリケーションソフトなどが利用されているという。日本国内では「インターネットによる映像配信は政策的にもさまざまな問題を孕んでいるが」と前置きした上で、「2011年のアナログ放送廃止に伴い、地上デジタル放送を補完する意味でインターネット上の映像配信が期待されている」と説明した。

 なお、インターネット上でテレビ番組を配信する場合の知的所有権については、「放送業界と通信業界の間で問題になる可能性がある」と指摘する。しかし、大相撲中継を例に「大日本相撲協会は当時、『相撲の中継放送を許したら国技館の観客はますます減るだろう』と主張していたが、実際には逆に観客増につながった」とコメント。「インターネットでテレビ番組を“放送”してもテレビの顧客を減らすことにはならないのではないか。放送業界もインターネット配信を競合サービスとして捉えるのではなく、デジタルコミュニケーションと放送局の未来を結び付けて考えた方がいいのではないか」との見解を示した。


海外配信の遅延には“南北格差”が

 ただし、インターネット上の映像配信には「遅延」という技術的な問題もある。「先日行なわれた地上デジタル放送1周年の式典では遅延が目立った。一方的なストリーミングならまだしも、インタラクティブにやり取りするテレビ会議などのサービスでは遅延は致命的だ」と指摘。この遅延を解消するために、「CDN(Contents Delivery Network)やキャッシュなどでアクセスを改善するなどの方法もあるが、サーバーと配信先を直結するという話もある」という。

 「あるオンラインゲームを提供する企業のスタッフと話したところ、遅延するとクレームを受けたら回線をペアリングして直接つなげればいいという話になった。ネットワークトポロジーそのものを変えてしまうという考え方もある」と述べた。「通信の品質保持が難しいインターネットでは当初、ストリーミング形式の通信はご法度だった。しかし、VoIPは発展してきた。これからはストリームもビジネスになるのではないか」との見解を示した。

 また、海外へ配信する際の遅延について“南北格差”があると言及。例えば、日本からロンドンへ配信する場合、東南アジア各国を経由して“南回り”で配信すると268msの遅延が発生する。一方、ロシアのシベリア鉄道沿いのケーブルを経由する“北回り”での遅延は83ms。「268msも遅延する環境でストリーミングしていいものだろうか。高品位の映像配信やインタラクティブなサービスには必ず影響が出る」と説明した。また、「今からWIDEプロジェクトのスタッフにシベリア鉄道沿いのケーブルを買い付けに行かせる」と冗談も交えた。

 通信環境としてはこうした南北格差が存在するものの、DVTSの実験としてはアジアとの協力を深めていく方が大事だという。というのも、「DVTSを利用してテレビ会議を行なう場合、アメリカと同じ時間に通信しても時差があるため向こうの担当者が寝ているかもしれない」からだ。タイムゾーンを横切るより、同じタイムゾーン内であれば共同で仕事に取り組めるとして、「アジア各国に10Gbpsクラスの通信実験ができる学校が1校ずつできるといい。縦につながる意味は深い」とコメントした。

 村井氏は最後に、「DVTSは標準化され、Internet2のプロジェクトチームでも利用されており、効果的なフィードバックも受けている。研究開発は順調だ」と講演を締めくくった。


日本からロンドンへ配信する場合、“南回り”では268msの遅延が発生する一方、シベリア鉄道沿いの“北回り”では83msの遅延となる 東南アジア諸国につながるケーブルマップ

関連情報

URL
  DVTSコンソーシアム
  http://www.dvts.jp/
  第3回ワークショップ概要
  http://www.dvts.jp/news3.html
  関連記事:DVTSの普及へ向けてコンソーシアム発足
  http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2002/1205/dvts.htm


( 鷹木 創 )
2004/12/09 17:49

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