特定非営利団体のLONMARK JAPAN(LMJ)は15日、発足記念セミナーを都内で開催した。東京大学大学院情報理工学系研究科の助教授でWIDE Projectのボードメンバーでもある江崎浩工学博士らが講演を行なった。
LMJは、エシュロンが開発したオープンシステムによる制御ネットワーク技術「LONWORKSネットワーク」やIPv6など、オープンネットワーク普及に向けての活動を行なう。横河電機、富士電機システムズ、NTTデータ、松下電工、古川電気工業、エシュロン・ジャパンなど10社が発起会社となっている。
● 2008年までにLONMARK認定製品の国内シェアを50%に
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LMJの理事長を務める富田氏
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LMJによれば、ビルなどの商業施設で使用される動力、照明、空調、防犯といった設備は通信ネットワークで相互接続し、監視・制御されているが、国内ではそうした設備の多くがシングルベンダーによるクローズドシステムで構成されており、仕様が公開されていない。そのため、システムのメンテナンスや更新時は納入したベンダーしか扱えず、ベンダー主導で価格が決められるなど、運用面ではユーザーに多くの負担を強いる状況だったという。
横河電機の執行役員でLMJの理事長を務める富田敏郎氏は、「オープンネットワークであれば、ユーザーの負担が減る。欧米ではすでに主流で、中国でも普及しつつある。LONMARKのメンバーシップはすでに世界的に活動しているが、日本においても独自のNPOを設立し、本格的に活動を開始する」とコメント。2008年までの具体的な目標として「LONMARK認定製品の国内シェアを現在の10%から50%まで拡大する」「設備情報システム分野における現状10%程度の規格採用率を3倍にする」「現行1,000人程度の設備情報関連オープンネットワーク技術者数を5倍にする」などを挙げた。
今後は、講習会やセミナー、標準化適合ハード・ソフトの展示会など通じて普及啓蒙活動を行なうほか、標準化の認証事業や技術者の育成支援、参加企業によるアプリケーションの開発なども進める方針だ。
● インターネットで監視カメラシステムも自作
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東京大学助教授の江崎氏
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「そもそもIPシステムはオープンでグローバルなものだ」と東京大学助教授の江崎氏。オープンシステムであるインターネットを導入することで、情報共有が簡単になり、専用システムでなくともやりたいことが実現できるようになると語る。
「例えばビル建築のシステムは、役所の“縦割り行政”と同じに見える。クローズドなシステムを使うから情報共有ができず、コンピュータ系と設備系がケンカする。総務省と経済産業省がケンカするのも、彼らが情報共有できていないからだ。オープンシステムを利用し、同じデバイスなどを利用するようになれば簡単に情報共有できるのではないか。これまでケンカしていた部署同士が連携すれば、クリエイティブなアプリケーションが生まれるはずだ。」
また、「防犯のために監視カメラが導入した」と自宅マンションでの体験談を披露。「当初業務用の監視カメラを見積もりしてもらったら、初期費用で400万円、月額利用料で5万円と言われた。これは高いなと思った」という。そこで、江崎氏はWebカメラと管理用PCを管理人室に設置。インターネットに接続し、外部から撮影した映像へアクセス可能と監視カメラとしての必要な機能は備えたが「価格は40万円程度」だった。
「価格面での有利さは、精度が99.99999%で1,000万円のシステムを1台納入するか、99.999%で100万円のシステムを2台納入するかという問題にもつながる。1台が壊れても2台あればフェイルセーフになる」とオープンシステムの有効性を強調した。
● システム管理者にとってIPv6環境はかなりラク!?
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都内280カ所のマンション、20,000台の電話機をIP電話化した事例
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続いて「IPv6は(システム管理者にとって)IPv4よりかなり嬉しそう」とコメント。これまでのIPv4環境では、イントラネットなどプライベートアドレスを割り当てていたネットワークを統合する際にIPアドレスを付け替えるなどの手間が必要だった。
江崎氏は「マンションのシステムを管理する会社が、都内280カ所のマンション、20,000台の電話機をIP電話化した」という例を挙げ、「IPv4でIP電話化を行なう場合、ネットマスクやデフォルトゲートウェイなどを設定する必要があり、通常1つの現場で300ぐらいの設定ミスが出る。こうなると現場に上級エンジニアが張り付いて、トラブルシュートしなくてはならない」と指摘。一方、IPv6では直接IPアドレスを割り当てられるため、「細かい設定は不要で、設定ミスも10個ぐらいで済む。IPv6であればアルバイトの兄ちゃんでも可能だ」とし、インストレーションコストが劇的に低下すると解説した。
このほか、インターネットに接続できる自動車をセンサーとして用いて、位置情報と自動車のブレーキ・速度計などのデータを組み合わせた混雑情報システム、ワイパーの動作データを収集した雨量情報システムなどを披露。「VICS対応のカーナビも利用されているようだが、道路に設置されたセンサーよりも自動車をセンサーとして利用する方が、渋滞から逃げる車の動線など細かい情報を取得できる。必要な情報を配信して動線のコントロールも可能ではないか」という。
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混雑情報システム
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雨量情報システム
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最後に江崎氏は、「オープンシステムにするということは、ナレッジが共有化され、正規化しやすくなる。共有化すべきところは共有化し、その上で付加価値を付けていく。企業にとって簡単に儲けられなくなるかもしれないが、共有化できるところで競争してもアジアの諸国に追いつかれてしまう。日本は物価も人件費も高いが、それでも高い生産性を発揮しており、そうした付加価値こそ中国などが欲しているものだ」と、オープンシステムを通じてグローバルな企業活動を展開することを会場に訴えて講演を締めくくった。
関連情報
■URL
ニュースリリース(NTTデータ)
http://www.nttdata.co.jp/release/2005/021500.html
LONMARK JAPAN
http://lonmark-jp.com/
( 鷹木 創 )
2005/02/15 20:00
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