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記者会見に臨むエバ・チェンCEO(右)。左は大三川彰彦執行役員日本代表
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「4月に発生したウイルスパターンファイルの問題でトレンドマイクロは困難に直面したが、プロセスの改善などを行ない何とか乗り切った」。トレンドマイクロのエバ・チェン代表取締役社長兼CEOは23日、東京都内で開かれた記者会見でウイルスパターンファイル問題に“終結宣言”した。
この問題は、4月下旬に配信されたパターンファイル「2.594.00」を適用するとCPU使用率が100%に上昇してしまい、場合によってはPCが起動しなくなってしまうというもの。同社の「ウイルスバスター 2005」などに搭載されているウイルス検索エンジンのバージョン「7.50」「7.51」で発生する可能性があった。
これを受けてトレンドマイクロは、影響を受けたユーザーの復旧費用を肩代わりする窓口を設置し、5月9日から6月15日までの利用者は一般ユーザーで28,300件、法人では700件に上った。なお、同社製品の国内ユーザー数は一般が350万件、法人が11万契約となっている。
「今回の問題でセキュリティインフラ企業としての責任を痛感した。事件後に世界各国のトレンドマイクロを視察し、技術革新に注力していくことに社員全員で合意した。“雨降って地固まる”だ」とチェンCEOは語る。「パターンファイルの配信だけでなく、配信に至るプロセスを改善していく必要がある。そのためにもカスタマーにフォーカスしなければならない」という。
● 誤警告バンクを800GBに拡大し、TrendLabsのハードウェアを1,000台規模に増強
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TrendLabsに派遣された清水ディレクター
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TrendLabsでは、立場と役割を書いたベストや帽子を着用し、作業を進めているという
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問題が発生した後、トレンドマイクロではパターンファイル配信のプロセスにWindowsの各バージョンごとの環境を用意。また、ユーザーが実際に利用する環境を想定した実装テストを追加した。事件後もパターンファイルは配信されているが「同様の問題は発生していない」(チェンCEO)。4月30日以降、48のパターンファイルが配信され、2,854件のウイルスシグネチャを追加している。
ウイルスパターンファイルを作成しているフィリピンのTrendLabsには事件後、日本人1名と台湾人8名のシニアマネージャを派遣し、教育・改善策を実行。これまでは200GB程度だった誤検知などのデータベース「誤警告バンク」を800GBに拡大したほか、ハードウェアも1,000台規模に増強した。
TrendLabsに派遣されたトータルクオリティマネージメント担当の清水智ディレクターは「誤警告バンクが拡大された当初は、パターンファイルの検査に数時間かかることもあったが、ハードウェアを1,000台規模に増強し、自動化・分散化などを施すことで速度面でも改善した。今では20分でパターンファイルの検査ができるようになった」という。
24時間体制のTrendLabsではスタッフはシフトでローテーションするため、「チームはいつも同じメンバーではない。承認する管理者は誰なのか混乱する場合もある」(清水ディレクター)。背中に立場と役割を書いたベストや帽子を着用し、作業を進めているという。
● 何があってもユーザーの環境への影響を最小限に止める
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日本IBMに設置したテストセンターでプロセスを多重化
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さまざまな対策が実施されているとはいえ、開発者が人間である以上、ミスが発生することからは逃れられない。「人間がやることなので、ミスするという前提でプロセスを決めていくしかない。自動化で出力した結果と人間の手による結果を照らし合わせるなど、異なる手法で得た結果を比べている。効率と正確性を意識したダブルチェックで、週に1回取締役会にも報告される」(清水ディレクター)。
トレンドマイクロでは6月20日、日本IBMにテストセンターを設置したことを公表したが、外部の会社である日本IBMを選んだのもこの観点からだ。「日本IBMが特別なテクノロジーを持っているということよりは、トレンドマイクロと異なる手法で検査できるということが重要だ」(清水ディレクター)。また、監査会社プロシードが、国際基準に基づいた対応策の実施・運用がなされているかを社外から監査することになった。
清水氏は「これまで、ウイルス検知エンジンやパターンファイルなどパーツごとの検査に偏りすぎていた」とコメント。今後は「ユーザーの利用環境にフォーカスし、何が起こってもユーザー環境への影響を最小限に止める」と述べた。
● ユーザーから検体を受け付けるプロジェクトも予定
日本国内では、サポートセンター「ウイルスバスタークラブ」の365日(9時~17時30分)運用を7月2日に開始。7月11日からは、パターンファイル問題が発生してから中止していたデイリーアップデートを再開する。また、6月23日付でウイルス情報を提供する携帯電話向けサイト「トレンドマイクロ モバイルサービス」もリニューアルした。このほか、NECパーソナルプロダクツやデルなどPCメーカー5社と緊急連絡網を構築。各社のサポートセンター間で相互に情報を共有する。
今後の取り組みとしては、ウイルスの検体を受け付ける窓口を一般公開し、トレンドマイクロ以外のユーザーからも検体を受け付ける「ウイルスハンタープロジェクト(仮称)」を実施する方針だ。このプロジェクトでは、貢献度の高い協力者とユーザー会を開催するなども予定しており、コミュニケーションの強化を図るという。
このほか、代表取締役のマヘンドラ・ネギCFOが今期の業績について「必要であれば業績予想の修正も行なう」とコメント。ただし「現在は集計中で、具体的な金額は公表できない」とした。
最後にチェンCEOが「トレンドマイクロは信頼のおける会社でありたい。信頼できるということは正直であるということ。困難な時期にあって、全ての情報を開示したトレンドマイクロは大変正直であったことを証明できた。本当に正直なことを言えば、今後同じようなことが起きないとは決して言えない。ただ、できるだけの対策を実施し、問題が発生しないようにすることは明言できる」と力強く語った。
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デイリーアップデートは7月11日に再開する
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ウイルスハンタープロジェクト(仮称)の概要
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関連情報
■URL
ニュースリリース
http://www.trendmicro.com/jp/about/news/pr/archive/2005/news050623.htm
品質の管理・向上に関する内容
http://www.trendmicro.co.jp/info/improvement/
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( 鷹木 創 )
2005/06/23 20:38
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