JPIXのトラフィックは2003年に20Gbpsを越え、2005年に入ってからは40Gbpsを超過するようになった。富士通研究所では、このトラフィックの増加率がムーアの法則をも超えると予測。これまでの電気的なルータでは、トラフィックの増大に対して設置面積や消費電力などのコスト面が不利なことから、同研究所では1,500人の従業員のうち、光技術に100人を投入し、光のままルーティングするバーチャルルータの開発に注力する。16日、光技術への取り組みについて報道関係者向けに説明会を行なった。
● WDMであれば、TDMよりも設備の設置面積や消費電力を削減できる
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WDMでは、光の波長を重ねることで容量の拡大が簡単にできる
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電気的にスイッチングやルーティングを行なうTDM(Time Division Multiplexing)網と異なり、フォトニック(光)ネットワークのWDM(Wavelength Division Multiplexing)網であれば、光による通信をダイレクトにルーティングできる。
そもそもWDMとは、波長の異なる複数の光信号を合成して利用する方式。富士通研究所によると、現在の技術水準では1つの波長に10Gbpsのデータを伝送させることができる。また、同研究所では2000年に、ファイバ1芯あたり176の波長を多重化させ、1.7Tbpsのデータを伝送できるWDMシステムを商用化している。
電気回路の速度限界が20Gbps程度のTDMに比べてWDMが有利な点は、1)光の波長を重ねることで容量の拡大が簡単にできること、2)波長単位でルーティングやスイッチングが可能なことだ。津田俊隆常務取締役は「WDMでは電気回路の依存度を減らせる。トラフィックが増大しても、TDMに比べて設備の設置面積や消費電力といったコストを削減できる」と指摘した。
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波長単位でスイッチングも可能だ
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「WDMであれば、TDMに比べて設備の設置面積や消費電力といったコストを削減できる」と津田氏
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● 2015年には1波長につき160Gbps、1芯あたり数十Tbps
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波長ごとのスイッチングから「光バーストスイッチング」、「光パケットスイッチング」に進化するという
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富士通研究所では、2010年までに1つの波長につき40Gbps、ファイバ1芯あたり数Tbps、2015年には1波長につき160Gbps、1芯あたり数十Tbpsを目指す。光スイッチングについても現在の波長ごとのスイッチングから、一定のパケットのかたまりを単位とした「光バーストスイッチング」、さらにひとつひとつのパケットを単位とした「光パケットスイッチング」に進化するという。
こうしたロードマップを実現するための要素技術として、シリコンウェハ上に可動する鏡を搭載し、光のまま光路を変更できる「3D-MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)光スイッチ」や、任意の波長を自由に選択できる「プリズム的な」(津田氏)光フィルタ「光波長可変フィルタ(AOTF)」などを開発。このほかにも東京大学荒川研究所と共同研究している「量子ドットレーザ」や、ドイツのHeinrich-Hertz-Institutと共同開発した世界初だという640Gbpsの光増幅スイッチを紹介した。
3次元のナノ構造体(量子ドット)の量子効果を利用した量子ドットレーザについては、「従来のレーザーは温度依存性が高く、そのため電気回路による温度調整装置が必要だった。量子ドットレーザは温度依存性を抑制したため、調整装置が不要だ」とし、コストの削減が見込めるという。
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「3D-MEMS光スイッチ」や「光波長可変フィルタ」
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量子ドットレーザ
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640Gbpsの光増幅スイッチ
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● 「現段階で光の次の技術はない。研究を一層深めていく」桑原博士
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「光技術の研究をより一層深めていく」と桑原博士
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総務省では、2010年までに上り30Mbps級以上の「次世代双方向ブロードバンド」の普及を目指すとしている。下り回線だけでなく上り回線のトラフィックも増大するとなれば、今後はますますバックボーンの負担も増すことになる。
指数関数的にトラフィックが増大する可能性もある――と指摘する富士通研究所のフォトニックネットワーク研究所で所長を務める桑原秀夫取締役(工学博士)は、「1波長につき160Gbpsレベルではトラフィックの増大に追いつかない可能性もあるが、現段階で光技術の次の技術は考えられない。富士通研究所としても1芯あたりに多重化させる波長を1,000波長まで増加させることを計画しており、光技術の研究をより一層深めていく」とコメントした。
関連情報
■URL
富士通研究所
http://jp.fujitsu.com/group/labs/
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( 鷹木 創 )
2005/09/16 15:14
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