ウィルコムは21日、現在実証実験を行なっている次世代PHS実験の模様を記者向けに公開した。公開実験では次世代PHSのスループット測定や動画再生といったデモが行なわれたほか、今後の実証実験の方向性などが示された。
● 上下最大20Mbpsのスループットを実現。現行PHSとの共存も可能
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ウィルコム開発本部長の黒澤泉氏
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次世代PHSは、総務省のワイヤレスブロードバンド推進研究会が取りまとめた報告書の中で、WiMAXと並び「広域移動無線アクセス」の1つとして位置付けられている技術。広域移動体無線アクセスでは「3Gおよび3.5Gを上回る20~30Mbps程度の伝送速度」「10Mbps程度以上の上り伝送速度」「3Gおよび3.5Gを上回る周波数利用効率」が要件として挙げられているが、ウィルコムでは次世代PHSがこれら要件をすべて満たす技術としている。
具体的には上下ともに最高20Mbpsのスループットが実現できるほか、同社のPHS事業の特徴として掲げているマイクロセルにより周波数利用効率も高めることが可能。また、端末と基地局の状況を踏まえて状態の良い周波数を割り当てる基地局の自律分散制御により、さらなる周波数の有効利用が可能だとした。
「次世代PHS」とPHSを謳うだけに、現行のPHSとの共存も前提とされている。「経済的なサービスの迅速展開のためにも現行の基地局インフラの活用は不可欠(ウィルコム開発本部長の黒澤泉氏)との考えから、現在16万カ所に設置済みの既存PHS基地局と同位置に次世代PHS基地局を配置することで、これまでの基地局設置場所を有効活用する。また、基地局そのものの現行PHSと多くの部分で共用できるよう開発する予定であり、装置の共用や運用、品質管理ノウハウも共通化できるとした。
技術仕様の面では現行PHSの1.9GHzに対し、次世代PHSでは1~3GHzで利用が可能。また、現行PHSは高度化により上下最大1Mbpsが見込めるが、次世代PHSでは上下最大20Mbpsと10倍以上の速度を想定している。キャリアの周波数幅も現行の300kHzから5~20MHzまで拡張し、音声コーデックもVoIPを意識してSIPをサポートする。アクセス方式は現行PHSのTDMA(Time Division Multiple Access、時分割多元接続)に対し、WiMAXなどでも採用されているOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access、直交周波数分割多重アクセス)を採用した。
次世代PHSの実験局免許は1月27日に総務省から取得、これを受けてウィルコムでは第1次の実証実験を開始した。第1次実験ではOFDMの特性やエリアなどの伝搬特性に関するデータ取得が目的であり、2006年内には20Mbps以上の伝送速度向上を図っていく。
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次世代PHSの特徴
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現行PHSインフラとの共存が可能
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次世代PHSの主な規格
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次世代PHSのスケジュール
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● 現段階のスループットは最大3Mbps程度。MIMO採用で20Mbps超も視野に
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企画開発部課長補佐の安藤高任氏
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公開実験の概要
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今回行なわれた公開実験は第1次段階で、免許取得を受けてウィルコム本社の屋上に屋外局アンテナと基地局を設置。ウィルコム社内だけでなく、本社が面する桜田通りを虎ノ門地区の実験局エリアとして想定している。
スピード測定サイトで測定したスループットは約1.8~1.9Mbps程度で、「2.5Mbps近いスループットまでは確認できている」(企画開発部課長補佐の安藤高任氏)。現在の実験では1基地局で下り3Mbps、上り1Mbps近いスループットが実現でき、2台の端末で同時にシステムへアクセスし、両端末でそれぞれ1.4Mbps近いスループットで接続するデモも行なわれた。現時点のシステムでも、無線部分のチューニングを進めることでさらなるスループット向上が見込めるという。
動画ストリーミングでは768kbpsエンコードのファイルを再生し、途切れなく再生が続けられた。実証実験のシステムはインターネットにも接続しており、USENの動画配信サービス「GyaO」の動画も問題なく再生できる様子が示された。また、離れたフロアとスカイプを使ったビデオチャットも実施。会場のみ次世代PHSに接続し、相手側はLANに接続するという構成を取っていたが、途切れや遅延もほとんど感じずにビデオチャットが可能だった。
デモは行なわれなかったが、桜田通りを車で移動しながら次世代PHSに接続する実験も行なっているという。電測車ではなく普通の自家用車を使用し、1基地局の実験のためにハンドオーバーも行なわれていないが、「電波状況が良ければ移動中でもデモに近いスループットが確認できた(安藤氏)」。ビルの陰部分や交通量によっては速度が低下する場面もあったが、安藤氏は「今回の実験はあくまでOFDMでの伝送であり、移動の実験は第2次の実験で行なう」とした。
速度に関しても「OFDM伝送がターゲットのために端末や基地局のCPUの処理能力などが上限となり、2.5Mbps程度が頭打ちになっっているが、それでもこれくらいの速度は簡単にだせる」(安藤氏)。夏以降に予定する第2次実証実験ではスループット20Mbpsを目標とし、その後はアダプティブアレイアンテナやSDM、MIMOを含めた実証実験を行なっていく。MIMOに関しては、MIMOを実装しない段階で20Mbpsのスループットを目標としており、MIMOを組み合わせることでさらなる高速化が期待できるとした。
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公開実験では約1.9Mbpsを実測
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途切れのない動画のストリーミング再生が可能。動画のビットレートは768kbps
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スカイプを使ったビデオチャット
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GyaOの動画再生デモ
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● 周波数は2.5GHzを主軸に「ほかの帯域も考えていく」
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次世代PHSのアンテナ。米Adaptixのシステムをべースに独自のカスタマイズを加えている
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次世代PHSに関する投資費用などは「現時点では何も決まっていないが、研究開発を含めてなのでかなりの投資が必要になるのではないか」(黒澤氏)。また、次世代PHSの周波数帯域に関しては「直近で総務省が2.5GHz帯を割り当てるという話があるので、まずは2.5GHz帯で考える」とした上で、次世代PHSが1~3GHzに対応したシステムであることから「それ以外の周波数帯も考えていく」とした。
帯域が割り当てられ、事業免許を取得した場合の事業展開に関しては「現時点では未定だが、ユーザーの多い東名阪から順次進めていくことになるのではないか」(黒澤氏)。現行のPHS基地局16万局をすべて次世代PHSに置き換えていくかという点も今後検討を進めていくという。当面はデータ通信型を主軸に据え、ハンドセット型に関しては「20Mbpsを実現するのは電力の問題などからも難しいが、将来的には考えたい」とした。
携帯電話キャリアもHSDPAやWiMAXの採用により高速化を進めているが、黒澤氏は「一般論かもしれないが携帯電話のマクロセルとPHSのマイクロセルが大きな違い」とコメント。「1つの基地局エリアでユーザーが増えれば増えるほど速度が落ちるのがマクロセルのシステムで、WiMAXもマクロセルとして規定されている」とした上で、「マイクロセルであれば1基地局で20Mbpsを実現できるし、ユーザーが増えれば基地局を増やすことで対応できる。電波がそれほど飛ばないために電波の有効利用率も高く、携帯電話との差別化は図っていけるだろう」との考えを示した。
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次世代PHSのクライアント端末。PCとイーサネットで接続する
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クライアント端末の背面
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屋上に設置された次世代PHSアンテナ(左)とGPSアンテナ(右)
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桜田通りも実証実験のエリア内。500m以内であれば2Mbpsでの接続を確認できているという
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屋上に設置された次世代PHSの基地局
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関連情報
■URL
ウィルコム
http://www.willcom-inc.com/
関連記事:ウィルコム、OFDMAの次世代PHSシステムに向け実験局免許取得[ケータイWatch]
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/27539.html
( 甲斐祐樹 )
2006/02/21 15:24
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