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「警察に協力的すぎたのが問題だった」Winny裁判の結審で金子氏がコメント

ソフトウェア技術者連盟が裁判報告会を開催

 NPO法人ソフトウェア技術者連盟は4日、Winny作者の金子勇氏が著作権法違反の幇助の罪に問われている裁判が結審したことを受け、裁判が行なわれた京都で報告会を開催した。報告会には公判を終えたばかりの金子氏と弁護団が出席し、改めて事件についての意見を述べた。


「正犯者として捕まえたかったのが出発点だったようだ」と事件の経緯を説明

秋田真志弁護士
 主任弁護人の秋田真志弁護士は、2003年11月27日に正犯とされる2人の逮捕と同時に、金子氏の自宅に京都府警の捜査員が訪れたことから今回の事件が始まったとして、金子氏が逮捕されるに至った経緯を紹介。「著作権侵害を蔓延させる目的でWinnyを開発した」とする検察側の主張は創作であると訴えた

 最初の家宅捜索の時点で「金子さんを正犯者として捕まえたかったというのが、京都府警の出発点だったようだ」と秋田弁護士は説明する。11月27日の家宅捜索で、捜査員は金子氏のPCでWinnyによるアップロード実験を実施。これにより金子氏を著作権法違反の正犯として捕まえようとしたが、使用していたのが金子氏が自分専用に作っていたダウンロード専用のWinnyであったため、実験は失敗に終わったという。

 秋田弁護士は、「その時点で京都府警は相当失望したようだが、金子さんは『Winnyの開発を止めるという誓約書を書いてもいい』と言ってしまった。そこで捜査員は『著作権侵害を蔓延させるためにWinnyを作りました』といった言葉の入った申述書の見本を作り、金子さんがそれを書き写した」と説明。その後、2003年12月に事情聴取が行なわれ、2004年5月に金子氏は逮捕される。取り調べの中で金子氏は、警察や検察の求めに応じて調書に署名押印をしてきたが、弁護団との接見により「これはおかしい」と気付き、その後は署名押印を拒否するとともに、取り調べに対しても黙秘するようになったと語った。

 こうした経緯から、裁判については「Winnyがどういうものであったかが裁判の中で争われてきたが、一番の争点は、著作権侵害目的でWinnyが開発されたのかということ。検察側は、Winnyは著作権侵害を蔓延させるために開発したと主張するが、そんなことを考えて作るはずがない」として、著作権侵害が目的であるというのは検察側の作文であると訴えた。


金子氏は「どこまででも戦います」と争い続ける姿勢を示す

金子勇氏
 金子氏も今回の事件については同様に「当初、警察に協力的すぎたのが問題だったと思う」と感想を述べた。金子氏は「警察は正しいと思っていたので、警察がそこまで言うならまあいいだろうといった気持ちで応じていた。弁護団の方々に会い、これはプログラマー全体に対する幇助の問題にもなってしまうので、安易に警察の言い分に従うのは誤りだと思った」と説明。警察や検察は信用できず、何を言っても悪いようにしか取られないので、途中からは黙秘したと語った。

 裁判については、「優秀な弁護団の方々にお会いできたことは良かった。最終弁論の内容も非常に正確なものだった」として、技術的な面からの主張については弁護側弁論の通りであるとした。弁護側弁論では、Winnyは暗号化機能やキャッシュ機能などを実装することで匿名性を高くし、送信者の特定を困難にすることで利用者に安心感を与え、著作権侵害を積極的に拡大させたとする検察側の主張に対し、そうした機能はファイル転送の効率を高めるためのものであると主張。弁護側は、2006年2月16日の公判で慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純氏が証言したように、Winnyの各機能はいずれもファイル共有の効率を高める機能であり、著作権侵害を助長するためのものではないと説明。利用者を容易に特定できないようにしたことは、IPアドレスなどが知られることによって利用者が攻撃されることを防ぐためだとした。

 また、海外の動向を見ても、ソフトの開発・配布側が責任を問われるのは異例のことだと主張。P2P技術の提供企業である米Groksterに法的責任があるとした米最高裁の判決でも、責任が問われるのは、著作権侵害を助長する明確な表現がある場合など、厳格な要件を満たすことが求められていると説明。新しい技術の悪用者が出たからと言って、それを立法によって処罰の範囲を明確にするならまだしも、幇助という概念で開発者を処罰しようとするのは誤りであるとして、無罪を訴えている。


 金子氏はWinnyの開発意図については、「ひまつぶしと言ったら怒られそうだが、私が今まで作ってきたソフトウェアと基本的には何も変わらない。思いついたから作ったというのが正確なところ。プログラムを作って見せることが、私にとっては表現そのもの」と説明。Winnyもアイディアを思いついたので開発し、実際に動作するかを検証してもらいたかったとして、当初は1カ月ほど検証した時点で開発はやめる予定だったが、テーマとして面白かったので続けたと語った。

 その後、「Winny1については正式版を公開した時点でファイル共有については終わったと思い、Winny2ではBBSをテーマにしたが、Winny1でやり残したこともあった」として、Winnyの技術をコンテンツ配信に応用できるのではないかと考えていたと説明。この考えが、今回の裁判を通じて知り合った人の協力を得て「SkeedCast」という形でビジネスとして立ち上がったことについて、「逮捕されて良かったとは言わないが、結果的にWinny1でやり残したことが実現できたのは良かったかなとは思っている」とコメントした。

 金子氏はまた、「多くの方々に支援をいただいたことが非常にありがたかった」と支援者に対して感謝の言葉を述べ、「今回の京都で終わっていただければ助かると言えば助かるが、どこまででも戦います」と、裁判が上級審に持ち込まれた場合でも争い続ける姿勢を示した。

 裁判は9月4日に弁護側弁論が行なわれ、弁護側が無罪を主張して結審。検察側は金子氏に対して著作権法違反の幇助で懲役1年を求刑している。判決は12月13日に言い渡される予定。


関連情報

URL
  NPO法人ソフトウェア技術者連盟
  http://lse.or.jp/
  SkeedCast
  http://www.skeedtools.com/
  関連記事:本誌記事にみる「Winny」開発者逮捕へ至る経緯
  http://internet.watch.impress.co.jp/static/index/2004/05/18/winny.htm

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( 三柳英樹 )
2006/09/05 18:52

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