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違法音楽配信の識別に“適法”マーク制度、レコ協が秋から運用予定

「私的録音録画小委員会」の会合で取り組みを報告

「私的録音録画小委員会」の2007年第6回会合
 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを図るために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」の2007年第6回会合が、27日に行なわれた。今回の会合では、日本レコード協会(RIAJ)から違法配信の識別方法に関する取り組みが発表された。

 また、補償措置の必要性に関する議論では、補償金制度の拡大を求める権利者側の意見に対して、「説明不足の状態で、補償金をさらに上げるのは全く賛成できない」「過度な補償制度は不要」など消費者側と意見が対立。私的録音録画に関する制度設計ではなく、制度の必要性を問う「そもそも論」に多くの時間が費やされた。


適法配信に識別マークを表示、違法複製の蔓延を防ぐ仕組み

 RIAJが発表した取り組みは、ユーザーが違法配信を識別できるようにすることで、違法複製の蔓延を阻止することが狙い。同協会では加盟レコード会社で構成される「違法配信識別マークワーキングチーム」を2006年3月に発足。2007年秋の運用開始を目指し、違法配信の識別方法の検討を進めている。

 識別方法としては、適法なコンテンツについて、適法であることを示す識別マークを表示させる。これにより、レコード会社との配信契約に基づくコンテンツであることをユーザーに伝えるという。ファイル交換ソフトや掲示板で流通している楽曲については、「権利者が許諾していないことから、基本的に違法であることを啓発する活動も行なう」(RIAJ法務部副部長の畑陽一郎氏)。

 識別マークは、レコード音源・音楽ビデオなどのコンテンツに加え、レコード会社との契約に基づく配信サービスが対象となる。識別マークは、配信サイトのトップページおよび各コンテンツの購入ページに表示し、マークの意味を解説するメッセージやマークの管理番号の表示も検討する。

 適法配信を示すマークを運用する仕組みとしては、レコード会社が音楽配信サイトなどの配信事業者と配信契約を結ぶ際に、RIAJが発行するマークの表示を求める。RIAJは、配信事業者に対してマークを発行する一方で、マークを無断で使用する配信事業者に対しては使用差止請求を行なうという。


RIAJ加盟レコード会社以外にも識別マーク導入促す

 RIAJによれば、2006年における有料音楽配信売上は535億円。このうち90%を占める携帯電話向け配信については、レーベルモバイルやドワンゴなどの主要事業者にもマーク表示を説明し、了解を得ているという。2007年秋の導入後は、映画をはじめとする他のコンテンツ業界における識別マークの導入・運用を支援するとしている。

 違法配信識別マークワーキングチームの座長を務めるソニー・ミュージックエンターテインメント取締役の秦幸雄氏は、「過去1年で携帯電話向け音楽の違法配信は急増した。違法サイトに削除要請してきたが、もぐらたたきの状況でますますひどくなる一方。音楽配信売上が伸びているので被害の実態がわかりにくいが、最大手の配信事業者では、1,000億円以上の被害が出ていると聞いている」と述べ、識別マーク導入の必要性を訴えた。

 適法マークによる識別方法については、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏が、「RIAJに加盟していないインディーズの音楽市場も大きいが、これらを集中的に扱う音楽配信サイトの扱いはどうするのか。識別マークがなければ、ユーザーが(適法サイトでも)違法サイトと勘違いしてしまうのでは」と質問。これに対してRIAJ専務理事の生野秀年氏は、「我々はインディーズのレコード会社とも協力的な関係を築いている」として、違法対策という主旨からもインディーズ業界団体に賛同してもらえるはずであるとの考えを示した。

 また、私的録音録画小委員会の主査を務める東京大学教授の中山信弘氏からは、「現実問題として、今年の秋に導入するまでに、すべての音源に対応できるのか」という疑問が寄せられた。生野氏は、「レコード会社との契約に基づいて配信しているコンテンツについては、遅かれ早かれ100%を目指してマーク表示を進める」と答えた。


消費者側からは「制度存続を前提に、さらに補償金を上げるのが目的」との声

 続いて、私的録音録画に関する制度設計について議論が行なわれた。主婦連合会副常任委員の河村真紀子氏は、消費者の立場から「今回の委員会の設置目的は、制度の存続を前提に、さらに補償金を上げることにある」という主旨の資料を提出。補償金制度を存続するのであれば、「補償」を負担する消費者に対して、権利者側が具体的な損失額を示す必要があると訴えた。

 「いくら著作権文化のためとはいえ、ある一部の権利者のために、広く薄く消費者全体から徴収するシステムには、負担する者に対する説明責任と透明性、公平性の確保が強く求められる。しかし、それらが果たされていない。消費者から見ると、補償金制度存続の理由付けは、その目的さえ達成できたら、どのようなものでも構わないようにも見受けられる。」(河村氏)

 「私的複製による権利者の利益の損失を示してほしい」という消費者側の意見については、東京大学教授の森田宏樹氏が、補償金制度を廃止して著作権法第30条が認める私的複製が許可されなくなった場合、すべての私的複製は違法になると指摘。一方、補償の必要性を認めて議論を進めれば、「制度の作り込みのところで難しい問題が出たときに、最終的にはこの程度であれば補償金は不要ということもありえる」として、補償金制度の“入口”で議論する必要はないと主張した。

 「私的複製はタダという前提で、権利者に不利益が生じてその損失を実証できればその限度で支払うというのであれば、いったん30条をなくしたほうが話はわかりやすい。しかし、その先にどうなるかというと、違法複製が蔓延して訴訟が起こり、結局は補償金制度が必要ということになるかもしれない。ただ、それではまずいというのは大方の一致するところではないか。」(森田氏)


権利者側は文化的側面から制度の存続と改善を訴える

 補償金制度をめぐっては、私的録音録画によるレコード売上減少という観点から補償の必要性が議論されることがあるが、作曲家で日本音楽作家団体協議会理事長を務める小六禮次郎氏は、「本質はそのような次元のものではなく、著作権者の無権利状態の放置が、文化的視野から見ても不適切」と指摘。「私的複製の増殖によって音楽が消耗されてしまったら、文化としての成長発展が止まってしまう」との考えを示し、私的録音録画の規模に応じた適切な権利保護を求めた。

 一方、ITビジネスに関する調査を行なうイプシ・マーケティング研究所代表取締役社長の野原佐和子氏は、「IT化の進展で音楽や映像の利用方法が大きく変わり、ビジネス的にも縮小したり拡大する分野が出てきた。このような社会環境の変化に応じた制度は必要だが、制度で保護することはあまりすべきではない」として、私的録音録画補償金制度による権利保護の必要性に疑問を呈した。

 「マクロな視点から見て最も良いのは、自然に任せたときにどうなるかを、軋轢のない形で作っていくこと。今どのような環境の変化が起きているのかを踏まえた上で、補償金制度のあり方を議論すべき。補償金制度を変えない方向でいくら議論しても、新しい体系に向かって改革を進めるのは難しい。」(野原氏)

 これに対して小六氏は、「実際にJASRACが徴収している著作権使用料が減少するなど、社会環境の変化によるデジタルコピーが著作者に大きな影響を与えていることは事実。現状の補償金制度は手をこまねいているとしか思えない」と反論。対症療法であったとしても、補償金制度を改善してもらいたいと述べた。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第6回)の開催について
  http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2007/chosaku_rokuon_070619.html

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私的録音録画小委員会、見直し議論は「補償の必要がある」ことが前提?(2007/06/18)


( 増田 覚 )
2007/06/28 11:07

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