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権利者不明の著作物利用円滑化などについて議論、文化審小委


 文化審議会著作権委員会の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第9回会合が31日開催された。今回の小委員会では、過去の著作物の利用円滑化方策について、権利者の所在が不明な場合の利用と、権利者が複数存在する場合の利用についての議論が行なわれた。


裁定制度の簡略化、中間団体などで利用を円滑化したいとする意見が挙がる

31日に開催された「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」第9回会合
 現在、著作権者が不明な著作物の利用については、文化庁長官の裁定を受けて補償金を供託することで利用できる「裁定制度」が設けられている。ただし、裁定制度を利用するには、著作権者を探すための「相当な努力」が必要とされており、裁定のための手数料や著作権者を探すために広告掲載料もかかることから、手続きの簡略化や料金の軽減などが求められている。また、実演などの著作隣接権については裁定制度の対象となっていないことから、著作隣接権についても裁定制度を導入する必要があるかについて、議論が行なわれた。

 東京大学教授の中山信弘氏は、従来の裁定制度は図書館や出版社など限られたところが利用してきたが、誰もがクリエーターとなる可能性のあるこれからの時代においては、裁定制度をいくら簡略化しても対応するのは難しいのではないかと指摘。「一般人が制度を利用するという可能性を踏まえて議論をしていただきたい」とコメントした。

 日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏は、裁定制度のような仕組みとは別に、中間的な代行機関を設けることで対応できないかと提案。権利者が不明の著作物について、権利者が見つかるまでの一時的な利用許諾を与えるような機関を設けることで、より円滑な利用を促進できるのではないかとした。

 日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏は、保護期間を延長した場合には権利者不明の著作物が増えるという問題があるが、ビジネス目的の場合とは別に、図書館のアーカイブ事業など無償・非商用目的の利用については、限りなく無償に近い形で裁定制度が利用できるようにすることで対応できないかと訴えた。

 日本図書館協会常務理事の常世田良氏は、現在でも図書館において書籍という形での保存が難しくなった場合などには、無許諾で別の媒体に保存することが認められているが、今後はたとえばビデオテープなどのように、テープは保存できても再生機が入手できなくなるといった事例が増えると指摘。こうした問題への対処については、権利制限の拡大を要望しているが、拡大が難しい場合には裁定制度の円滑化を進めてほしいとした。

 著作隣接権の裁定制度については、実演家の側から疑問の声が挙がった。日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏は、「放送コンテンツなどでは、実演家が許諾しないので利用が進まないといった言われ方をされることが多いが、そもそもは制作時に二次利用を想定していなかったという問題。実演家の権利だけを切り下げようとする動きには疑問を感じている」とコメント。実演家の権利処理については現在も実演家団体と放送団体で協議を進めており、そうした中で裁定制度という法律による解決まで必要なのかと訴えた。

 一方、NHKライツ・アーカイブスセンター著作権・契約副部長の梶原均氏は、実演家などの権利者データベースなどの整備を進めても、やはりどうしても連絡が付かないことも考えられるとして、そうした場合への対策の検討を求めた。


権利者が複数人の著作物については問題点を確認

 権利者が複数存在する著作物の利用については、複数の権利者のうち1人が利用に反対しているといった場合の問題や、実演家などの著作隣接権についても共有著作物と同様の概念が存在すると考えるべきかといった点が議題となった。

 2人以上が共同で創作した「共有著作物」の場合、著作権法では権利行使には全員の合意が必要とされているが、各共有者は正当な理由がない限りはその合意の成立を妨げることはできないとされている。この「正当な理由」の判断基準について、なんらかの指針を示すことは可能かという点が議題として挙げられたが、東京大学の中山教授からは「この問題にはさまざまなケースが起こることが考えられ、事前に何か判断基準のようなものを示すことは困難であり、必要もないと考える」といった意見が挙がった。

 このほか、共有著作物の問題としては、「電車男」のように権利者を把握することが困難な著作者が多数関わっている著作物の場合や、バンドメンバー全員が作詞・作曲者として登録されているため、後にメンバーが脱退した場合に利用が困難となる事例などが挙げられた。今回の会合ではこうした問題点の確認までにとどまり、法的な問題の整理を踏まえた上で、再度議論することが確認された。


関連情報

URL
  文化審議会
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/index.htm

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( 三柳英樹 )
2007/10/31 18:41

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