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iPod課金先送りへ、権利者とJEITAの対立で補償金議論振り出しに


 私的録音録画補償金制度の見直しを検討している、文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」の第3回会合が10日に開かれた。会合では、「著作権保護技術が施されている場合は補償は不要」と主張する電子情報技術産業協会(JEITA)に対して、権利者側が真っ向から反論。補償金制度の見直しの先行きが見えない状況になった。

 また、携帯音楽プレーヤーを補償金制度の課金対象とする、いわゆる“iPod課金”についてもJEITAの合意が得られず、「関係者の合意形成が難しい状況」(文化庁著作権課の川瀬真氏)だ。iPod課金を盛り込んだ著作権改正案については、「急転直下の決定もありうる」としたが、当初予定していた秋の臨時国会への提出は見送られる見込みだ。


「著作権保護技術が施されている場合は補償は不要」とJEITA

 将来的に補償金制度を縮小・廃止することを前提に、当面は暫定的に補償金制度を継続する方針が盛り込まれた「文化庁案」について、JEITAの長谷川英一氏は「補償金制度縮小の道筋が明らかでない」と、従来から示していた懸念を改めて表明。その理由としては、1)著作権保護技術と補償の関係についての整理が不分明であること、2)対象となる機器に関して、縮小が確実なものとなっていないこと――の2つを挙げた。

 特に1)については、文化庁案において、権利者の要請による著作権保護技術が施されている場合は、補償は不要と記載されていることを指摘。この点については、「ダビング10のように著作権保護技術が機能している範囲では、『権利者の要請』があったかなかったかにかかわらず、補償の必要性はないと考えざるを得ない」と訴えた。

 「JEITAは従来より、著作権保護技術の施されている場合には、補償は不要であると訴えてきた。著作権保護技術と補償の要否を検討するに当たっては、実際に著作物を提供する際の権利者の意思を評価すべき。従って、技術仕様を策定する経緯がいかなるものであろうとも、複製回数を制約する環境に著作物が提供されている事実をもって、補償の必要性はないと考える。」


「ダビング10決定後に『補償の必要性なし』は後出し」と権利者側

 JEITAの主張に対して実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、地上デジタル放送の新録画ルール「ダビング10」開始の前提条件となっていた「クリエイターへの対価の還元」を否定するものだと批判した。「『クリエイターへの対価の還元』を認めないJEITAの考えに基づいてダビング10を検討していれば、権利者側はコピー回数は0回と言っている。ダビング10が決まってから、『対価の還元は不要』と言うのは、後出しではないか」。

 日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏も、「もしコピーネバーを主張していれば、機器や記録媒体は売れないのでメーカーの利益はゼロ、映画製作者もコピーが行われないので補償金による対価もゼロ、消費者の利便性もゼロになる。しかし、実際にはダビング10が解禁され、ボーナス商戦を前にブルーレイの売り上げは順風満帆。権利者だけが置いていかれている状況だ」と漏らす。

 この意見に対してJEITAの長谷川氏は、「対価の還元が必要あるというのは同意しているが、その方法が補償金制度ではないということ」と説明。その一方で、補償金を支払っているのは消費者であると指摘した上で、「メーカーと権利者でフェアであるかどうかというのは違うのではないか」と話した。また、主婦連合会の河村真紀子氏は、「利益を還元する方法を(権利者とメーカーで)じかにバトルしてはどうか」とのアイデアを示した。

 権利者側の意見に対してジャーナリストの津田大介氏は、「そんなに便利になったわけではないダビング10を『渋々妥協してやった』という言い方をされると非常に不快」と指摘。補償金制度については、「DRMがついていれば補償金は不要。補償金をかけるのであれば、家庭内で自由なコピーを認めるという2択。個人的には、補償金をかけて自由なコピーを認める方が良いと考えている」との考えを示した。


「議論が振り出しに」JEITAに柔軟な姿勢求める声も

 今回の会合について青山学院大学教授で弁護士の松田政行氏は、「議論が振り出しに戻っている」と指摘する。「技術的保護手段があれば補償金は不要というJEITAの主張は、最初から変わっていない。ダビング10をコピーネバーというのは現実的にはありえないことを考えると、JEITAももっと柔軟になっていただけないでしょうかと思う」。

 なお、文化庁著作権課の川瀬真氏によれば、次回の私的録音録画小委員会の開催日については、関係者の意思確認を調整する必要があるため未定としているが、小委員会の報告書を年内にまとめる関係で、遅くとも秋までには開催するとしている。


関連情報

URL
  私的録音録画小委員会(第3回)
  http://www.bunka.go.jp/oshirase_kaigi/2008/chosaku_rokuon_080702.html


( 増田 覚 )
2008/07/10 21:41

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