Internet Watch logo
記事検索
最新ニュース

日弁連が「ストリートビュー」のプライバシー問題で緊急集会


 日本弁護士連合会は21日、Googleマップの「ストリートビュー機能」が抱えるプライバシー侵害問題に関する緊急集会を開催した。集会では、ドイツデータ保護法の研究者で姫路獨協大学法科大学院特別教授の平松毅氏と、フリージャーナリストの瀬下美和氏が、ストリートビューの問題点に関して報告した後、参加者との意見交換が行われた。


個人情報保護法の改正によりビデオ撮影などに対する規定が必要

 平松氏は、日本での個人情報保護を考える上では、憲法の成立事情が似ているドイツが参考になるとして、ドイツで人格権の1つとして裁判で認められた「自己情報決定権」の概念について紹介した。

 自己情報決定権とは、自分の個人情報の放棄および利用を自身で決定する権利のことを指す。ドイツでは1983年の判決において、個人には自己情報決定権が保障されなければならないとした上で、「自分に関する情報がどのように結合されて利用されるかがわからなければ、行動が記録され利用されることに不安を感じるようになり、集会の自由や表現の自由といった基本権を行使しなくなる恐れがある」として、個人の自己情報決定権が保障されなければ、個人の人格権だけでなく公益も損なうことになると指摘している。

 さらにこの判決では、この権利に対する侵害は、単に個人が隠しておきたい情報が収集されることだけによって生じるのではなく、個々の情報が結合されることでも発生しうる問題だと指摘。こうした情報の目的外乱用や結合などにも対応するため、ドイツの個人情報保護法は改正を余儀なくされたという。

 また、現在のドイツの個人情報保護法においては、ビデオ監視に対する規定が設けられていることを紹介。規定では、公共の場所や職場におけるビデオ監視について、安全確保のための利益などが人格権に優越する場合のみに監視が許容されるとしており、監視することの通知や装置の明示、消去義務などが定められているとした。

 ストリートビューに関しては、海外の反響として英国とオーストラリアの例を紹介。英国では、情報コミッショナー事務局がストリートビューの公開に対して許可を与えたが、プライバシー保護団体などからはGoogleは透明性が欠如しており、欧州諸国の法律においては、人物を確認できる写真を商業目的で撮影する場合には、事前にその人物に対して許可を得ることが必要だといった指摘があったという。

 また、オーストラリアでは、プライバシー専門家会議がストリートビューのサービス開始前にGoogleと会議を行い、写真の鮮明度や顔の可視性などに対する懸念についてはGoogleの対応を評価するとしたという。しかし、ユーザーが問題のある画像を報告するための手続きがわかりにくいほか、苦情処理窓口が整備されていない、プライバシーポリシーが欠如している、会社による正式の確約が欠如しているといった問題があり、プライバシー専門家会議ではこれらの問題の解決をGoogleに対して求めている。

 平松氏はこうした状況を踏まえ、日本においてもドイツの個人情報保護法に規定されているビデオ監視規定をモデルとした個人情報保護法の改正が求められており、またその中にはオーストラリアのプライバシー専門家会議が提案した規制措置が盛り込まれることが望まれるとした。


ストリートビューの問題点については日弁連の委員会でも検討中

 フリージャーナリストの瀬下美和氏は、ストリートビューの問題点を指摘。ストリートビューは、事前予告も同意もなく撮影・公開されており、個人宅の内部まで明瞭に見られる例や、本人が見られたくない場面や姿が写っている例、私道や私有地に入り込んで撮影している例などを紹介。Googleはいつ、どこを撮影するのか、撮影のルールはどうなっているのか、公開している画像以外にどのようなデータを集めているのかといった詳細を明らかにしておらず、こうしたサービスを公開する上での説明が不十分だと指摘した。

 また、ストリートビューの不適切な画像についてはユーザーからの指摘に応じて削除するとしているが、不適切な画像は「まとめサイト」などで広まっており、Googleが削除したとしてもスクリーンショットが出回り続けてしまうと指摘。また、ネットに不慣れな消費者への配慮が無く、Googleでは電話でも削除依頼に応じていると言っているが、NTTの電話番号案内サービスには登録がないなど、結局のところはサイトを見なければ電話もかけられないといった問題があるとした。

 瀬下氏は、Googleでは技術でこうした問題を解決するとしているが、Googleマップの「マイマップ」機能でユーザーが誤って個人情報を公開していた問題では、ユーザーが削除依頼を行ってもすぐに削除されなかったり、削除されたはずの情報が再び閲覧できるようになるなど、Google自身でもシステムを制御しきれていないのではないかという懸念もあると指摘。こうした問題により、ユーザーの間に漠然とした不安が蓄積され、体感治安の悪化にもつながりかねないと懸念を示した。

 また、日本でこうした“Googleとプライバシー”を問題にすると、「IT恐怖症だ」「便利さとプライバシーは引き換えになるもの」「(ストリートビューを)気持ち悪いというのは明治時代に『写真を撮られると魂が抜かれる』と言っていたのと同じ」といったような反応が見られたことを紹介。一方、英国に本拠地を置く市民団体「Privacy International」が2007年にインターネット企業を対象として実施した調査では、Googleは対象企業の中でプライバシー保護への取り組みが唯一最低ランクに格付けされるなど、Googleとプライバシーの問題については常に議論されており、個人情報がGoogleに集まりすぎるという懸念が示されていると語った。

 司会を務めた武藤糾明弁護士は、ストリートビューについては日弁連の情報問題対策委員会でも現在検討を行っており、また日弁連では以前から個人情報保護法の改正を求めていると説明。欧州では多くの国が民間企業にも個人情報の収集や利用について原則を定めており、個人情報に関する苦情申し立てやチェック機関の体制を整えているが、先進国の中では日本と米国はこうした制度や体制が不十分だとして、ストリートビューへの反応の違いはこうしたことを示唆しているのではないかと指摘した。


関連情報

URL
  日本弁護士連合会 Google社ストリートビューに関する緊急集会
  http://www.nichibenren.or.jp/ja/event/081121_3.html
  日本弁護士連合会 情報問題対策委員会
  http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/joho_mondai.html
  オーストラリア・プライバシー専門会議の見解(英文)
  http://www.privacy.org.au/Papers/StreetView.html


( 三柳英樹 )
2008/11/25 12:25

- ページの先頭へ-

INTERNET Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.