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授業へのICT活用で学習意欲や学力が向上、MSが実証プロジェクト


東京都港区立青山小学校には、60台のタブレットPCが導入されている
 情報通信技術(ICT)を学校の授業に活用するための取り組みとしてマイクロソフトと独立行政法人メディア教育開発センター(NIME)が推進する「NEXTプロジェクト」の公開授業が17日、東京都港区立青山小学校で行われ、タブレットPCやWeb会議システムを活用した授業が報道関係者などに公開された。6年生の情報モラルの授業には、マイクロソフトの樋口泰行代表執行役社長も参加し、児童からの質問にも回答した。

 NEXT(Next-generation Educational eXperience with Technology)プロジェクトは、ICTの活用によって学力が向上することを実証し、教育分野でのICTの有効性を示すことが目的。青山小学校のほか全国の私立校3校と、和歌山市がモデル校/自治体として参加している。

 和歌山市では市立小学校全52校にタブレットPCを計1300台導入し、大規模な調査も行われている。NIME理事長の清水康敬氏によると、教師のICT指導力向上や児童の学力向上の効果のほか、それらの関係についての膨大なデータを得ているとしており、ICTを活用した授業を行った児童のほうがテストの成績がよく、関心意欲や思考的判断力も高いとの傾向が出ているという。


小学2年生がSilverlightを使って研究発表

 青山小学校には、無線LANを搭載したタブレットPCを60台と、Office OneNote、百科事典ソフト「エンカルタ」、手書き学習ソフトを導入。プロジェクターも各教室に設置し、先生がPowerPointで授業を行ったり、児童の研究発表をPCで行えるようにしている。今回公開されたのは、2年生の生活科、4年生の社会科、6年生の総合の各授業。

 2年生の授業では、4つの班に分かれて地元の企業や図書館などを訪問してデジタルカメラで撮影してきた写真を表示しながら気付いたことを報告。発表にはSilverlight 2の画像表示機能「Deep Zoom」を使い、スクリーン上で写真をドラッグしたり拡大しながら説明していた。ただし、操作にまだ慣れていないせいか、先生に手伝ってもらう児童もあった。なお、このクラスの廊下には、各自タブレットPCを使い、撮影してきた写真に文章を手書きで加えた作品も張り出されていた。

 4年生は、企業向けの360度パノラマWeb会議システム「Microsoft Roundtable」と「Live Meeting」を利用し、同じくNEXTプロジェクトに参加する和歌山市立有功小学校の6年生の教室とインターネットで接続。「東京都のことをわかりやすく伝えよう」と題して、あらかじめ調べてスライドにまとめた大島や八丈島の地理などをクイズなども交えながら発表した。教室の黒板には、有功小学校の教室の様子が360度パノラマ画像で表示され、児童らはそれに向かって椅子をならべて発表した。児童は授業の終了後、「顔を見ながら発表したのでわかりやすかった」と述べていた。


2年生の生活科の授業では、発表するツールとしてSilverlight 2の画像表示機能「Deep Zoom」を使用 タブレットPCとOneNoteを使って、取材したことや感想を書き込み、プリントアウト

4年生の社会科の授業では、Web会議システムを使って他校の生徒と交流授業を実施 使用した360度パノラマWeb会議システム「Microsoft Roundtable」

 6年生は情報モラルの一環として、文字だけのコミュニケーションについて考える授業。1人1台のタブレットPCを操作しながら、友だち同士でのやりとりを想定した携帯メールのサンプル文を見ながら、紛らわしい表現などをOneNote上で各自置き換えていくものだった。これをもとに次回の授業では、メールを書くときの注意点について話し合い、標語を作る予定だという。

 この授業の最後には、マイクロソフトの樋口社長が登壇。「ICTを使わない生活は考えられないが、便利な反面、悪用されたりマイナス面もある。特に日本ではマイナス面ばかり強調されているが、それを解決しながらどんどん使っていかなければ、海外に遅れてしまう。今、学んでいる情報モラルやルールを身に付けることが非常に大事」と説明した。また、「今後もみなさんの役に立てるようがんばっていくので、大きくなったらパソコンを買って欲しい」とも。その後、2名の児童から「どのくらい勉強すれば社長になれるのか」「社長にはどんな仕事があるのか」との質問があり、樋口社長が回答した。


6年生の総合の授業では、1人1台のタブレットPCを使用 マイクロソフトの樋口泰行代表執行役社長。児童からの質問は、社長業に関することに集中した

友だち同士でのやりとりを想定した携帯メールのサンプル文 OneNote上で、紛らわしい表現などを誤解のない表現に置き換える。タブレットPCから各自、実際に文字を入力

PowerPointを活用することで、授業の展開を速くできるメリットも

青山小学校の曽根節子校長
 青山小学校では、今回公開した授業のほか、学習ソフトによる漢字の書き取りや計算練習、校庭にある植物の調べ学習、図書室での歴史新聞づくりなどにもタブレットPCを活用しているという。同校の曽根節子校長は、予算やネットワーク環境の整備、教員の研修などまだまだ課題はあるが、ICTの導入により「学校に元気が出てきたことを実感している」とコメントした。

 また、2年生の担任の先生によると、児童はタブレットPCでの手書き入力の仕方をすぐに飲み込んでいくとし、紙の作業では何も書けずにいる児童が、タブレットPCを操作するおもしろさにひかれて使い出すこともあったとした。6年生の担任の先生は、無線LAN接続でどこにでも持って行けるため、児童が調べものに意欲的に取り組むようになったことを感じているという。

 NEXTプロジェクトでは、参加校の先生が機器の利用法について研修を複数回受けている。また、授業の内容をPowerPointでスライドにまとめるなどの作業も必要になる。負担も増えるわけだが、これについては「前もって準備しておくと、その分、授業中の展開が速くなる」メリットもあるという。また、例えば音読のためのテキストは、従来は紙に書いて張り出す方法をとっていたが、今はPCを使ってプロジェクターで映し出すなど、さまざまな場面で機器を活用しているとした。児童もこれらの機器を使うことに慣れ、当番が自分でプロジェクターに映し出す準備までできるようになったとしている。

 なお、6年生の授業では、児童が使っていたタブレットPCの1台がパッチの更新がかかったためか、途中で使えなくなるトラブルも発生した。こうしたトラブルに対して先生がすぐに対処するのはまだ難しいようだが、「デジタル機器を使っていてもいなくても、授業が中断することはある」と指摘する先生もおり、特にICTに限らず、先生であれば授業中のそうしたトラブルの場をつなぐアナログ的な方法を持ち合わせているというのが先生側の認識のようだ。


教材コンテンツの充実化と共有が必要

マイクロソフト執行役常務・パブリックセクター担当の大井川和彦氏
 青山小学校の全校児童は130名あまり。ここに60台のタブレットPCがあるということで、授業で使う際は1人1台の環境が整っている。ただし、これらはすべてNEXTプロジェクトのモデル校に対して提供されたものであり、学校側の予算で整備したものではない。他の機器なども含め、青山小学校のICT環境整備の具体的なコストについては明らかにしていないが、マイクロソフト執行役常務・パブリックセクター担当の大井川和彦氏は、決して自治体の予算でまかなえない額ではないと説明。予算を何に配分するのかという優先順位の問題であり、「ICTを無視した教育環境は今後ありえない」として、企業のボランティアに頼らない方策を考える時に来ていると訴えた。

 また、今後はWindowsやOfficeなどをプラットフォームとする教育コンテンツが必要になると指摘。これは、企業による学習用アプリケーションソフトの開発・提供のほか、教材ドキュメントをWebサイトで広く共有するなどの方法も考えられるという。現在は授業で使うスライドを先生たちが一から作成している状況だが、従来のアナログの授業で使っている教材をPowerPointに記録して共有するなど、学校の現場からのボトムアップも期待されるとした。


関連情報

URL
  NEXTプロジェクト
  http://www.microsoft.com/japan/education/next/default.mspx


( 永沢 茂 )
2009/02/17 20:23

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