エコノミーでも使える! 航空機内インターネット接続サービス
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ユーザー登録やサービスの詳細を閲覧できる「Connexion by Boeing」のWebサイト。日本語にも対応している
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正直言って、飛行機が嫌いである。それがどこで間違えたのか、仕事やら私事やらで年間10回近く、ほぼ1カ月に1度の海外渡航を余儀なくされる身になってしまった。本を読むにしたって、携帯用ゲーム機で遊ぶにしても、12時間以上のフライトはキツい。ましてや、書くことが仕事のフリーランスの身、ここでネットを使って仕事ができればどんなに楽になるだろうと思い続けて幾年。ついに成田発ミュンヘン便にて、夢にまで見た航空機内インターネット接続サービスを利用することができたので、その使用感をリポートしよう。
筆者が利用したのは、ルフトハンザ・ドイツ航空の「FlyNet」だ。Flynetは、米Boeingと三菱電機が共同開発したプラットフォーム「Connexion by Boeing(CBB)」を利用した航空機内インターネット接続サービス。CBBは、地上36,000km上空の軌道にある静止テレビ衛星を経由して飛行機と地上のネットワークを結び、機内に設置したIEEE 802.11bの無線LANアクセスポイントを使って、インターネット接続が可能になるというものだ。
ルフトハンザは昨年5月に世界で初めて商用サービスを開始。昨年6月21日から今回筆者が利用した成田・ミュンヘン便にも導入された。現在、CBBを使った航空機内ネット接続サービスは、日本航空(JAL)の成田・ロンドン便、全日本空輸(ANA)の成田・上海便、スカンジナビア航空におけるすべての長距離フライトなどでも利用できる。
アカウント作成と料金設定
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今回搭乗したエアバス社の「A340-300」
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利用にはまず、アカウント作成が必要になる。
CBBによるインターネット接続については、各航空会社にも説明のページがあるが、一番情報が充実しているのは本家本元のCBBのサイトだ。日本語に対応しており、アカウント作成やクレジットカードの登録もここで行なえる。アカウントの作成には氏名、住所、電子メールの登録が最低必要。クレジットカード情報は利用ごとの入力にも、事前登録にも対応している。もちろん、地上のインターネット経由で登録できるので、利用するつもりがあるならば、あらかじめこの作業を済ませておけば、狭い機内に入ったあとにクレジットカードをごそごそ引っ張り出さなくても済むだろう。
料金設定は定額制、従量制が用意されており、フライト時間によって価格が異なる。フライト中使い放題の定額制の場合、3時間以内のフライトで14.95ドル、6時間以内で19.95ドル、6時間以上で29.95ドル。従量制の場合は、3時間以内のフライトで7.95ドル、6時間以上で9.95ドル。30分までは初期費用のみで接続可能だが、31分目以降は、1分につき0.25ドルの従量料金が発生する。6時間以上のフライトでは、2時間以内の使用なら従量制、それ以上なら定額制を選べばお得だ。
決済手段はクレジットカードが便利。American Express、VISA、MASTER、JCB、Diners、EuroCard、DanKortが利用できる。ルフトハンザ航空のマイルでも精算可能だが、その場合はフライト前に電話予約が必要になる。
搭乗、そして接続
さて、準備が整ったらいよいよ機内でのインターネット接続だ。筆者が搭乗したのは成田発ミュンヘン着のエアバス社製「A340-300」。機内にはおよそ5台のIEEE 802.11bアクセスポイントが、荷物入れの奥の天井スペースに設定されているという。
離陸後およそ30~60分。高度が安定しベルト着用サインが消えた段階で、パソコンなど電子機器の利用が認められる。さっそくパソコンを起動し、アクセスポイントを検索するとありました。「Connexion1」というアクセスポイントが。アクセスポイントへの接続には、WEPキーやWPAなど認証作業は不要。接続後にブラウザを立ち上げると「Flynet」のポータルページが表示される。ちなみに、このページは残念ながら英語オンリーだ。
もちろん、この時点ではまだ外部サイトへの接続は不可能だ。CBBのサイトで登録したIDとパスワードを使ってログインすると、前述した料金プランの選択ページが現われる。料金プランを選択し、クレジットカードの認証が通れば、ようやくネットに接続できるようになる。
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エアバス社「A340-300」に乗り込み、Boeingのサービスで空からインターネット接続
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機内で早速無線LANアクセスポイントを探索。「Connexion1」を発見
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アクセスポイント接続後、表示されるポータルページ。まだインターネットには接続されていない
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ユーザーIDとパスワードを入力してログインすると、料金選択ページが表示される
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スループットは60~200kbps。平均は130kbps
新たな回線に出くわすとまずスピードテストしてしまうのはもはや職業病。今回も例に漏れず、さっそく「ブロードバンドスピードテスト」と、「BNRスピードテスト」の2つのサイトを使って計測してみた。いずれのサイトも2回ずつ計測したが、前者では210kbpsと61kbps、後者では150kbpsと106kbpsとなり、すべての平均では約130kbpsだった。
数字としては2BのISDN程度だが、体感速度も実際、それに近いものがある。数字に表われない部分としては、こちらのリクエストに対する反応がやや遅いこと、通信が安定せず、20~30秒くらいの間まったく繋がらなくなったり、Webサイトの閲覧時に画像のダウンロードができずに×印が出てしまうなど、測定結果の数字から受ける印象ほどは快適ではない。
しかし、通信速度が不安定という点に関しては、時速800km近くで移動しながら通信していることを考えれば、ある程度は仕方がないだろう。少なくとも、まったく接続できないのに比べれば天と地の差がある。今後、AIR-EDGEやb-mobileのように、プロキシによる高速化サービスが展開されれば、より使用感は向上するだろう。
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ブロードバンドスピードテストの結果その1。推定最大スループットは210kbps
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ブロードバンドスピードテストの結果その2。推定最大スループットは61kbps。伝送スループットにはかなりムラがある
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BNRスピードテストの結果その1。推定転送速度は約150kbps
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BNRスピードテスト結果その2。推定転送速度は約106kbps
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パケットロスが多い。テキストメッセージはOKだが音声通信はNG
ちなみに、好天の中国・大連上空、高度10,000mの地点でWindows XPのコンソールから、impress.co.jp宛にPing送信を行なって、どの程度のパケットが届かずにロスしているかを計測した。5回計測して、2回はパケットロスなし(0%)、1回は62%、1回は25%となった。Skypeによるボイスチャットもチャレンジしてみたがこの数字を裏付けるように、通信の不安定さゆえか、音が途切れてしまい、満足な通話は行なえなかった。
一方、インスタントメッセンジャーでテキストによるチャットも行なったが、こちらは快適そのもの。途中で接続が中断されることもなく、ブロードバンド接続しているときとまったく同じように使用できた。メールも同様だ。
また、インスタントメッセンジャーでのファイル転送も実験した。P2Pのみで転送しようとするWindows Messenger 4.7では何度やっても失敗したが、サーバー中継機能のあるMSN Messengerでは何の問題もなく転送できた。
ちなみにこれらの現象は、場所による影響が大きいようだ。問題のない地点であれば、安定して100kbpsを超える通信が行なえる。安定しているときと不安定なときが、交互に訪れるような感じ、といえばおわかりいただけるだろうか。
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調子が悪くパケットロスを起こすと、画像が表示されなくなったり、そもそもページ表示ができなかったりする
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接続はIEEE 802.11b
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機内での情報収集にはRSSリーダーがおすすめ
ブロードバンドに慣れた身としては、この接続で一番つらいのはWebサイトの閲覧だ。Flashなどで肥大化するページ容量が不安定な通信に与える影響は大きく、調子の悪いときは、なかなかすべて表示するところまでいかない。
そこで、Flynet使用時の情報収集にお勧めしたいのがRSSリーダーだ。ヘッドラインおよびサマリーのXMLファイルをダウンロードするだけなので、Flashコンテンツなどをダウンロードせずに済む分、かなり効率は上がる。こうしたメリットはRSSリーダーがそもそも持ち合わせているものだが、スループットが出ない環境下では、よりメリットが際立つということだろう。
バッテリ切れが最大の敵?
そんなCBBにも、大きな問題がひとつある。それはパソコンの電源の問題だ。ファーストクラスおよびビジネスクラスでは電源コネクタが座席に用意されているが、エコノミークラスには用意されていない。フライト中使い放題のプランを選択したとしても、バッテリーの持続時間に制限されてしまう。電源だけのためにビジネスクラスに乗るのはあまりにも代償が大きすぎる。座席設備などを根本から見直さなければならないため簡単なことではないが、追加料金を払えばエコノミークラスでも電源を利用できるなどの対応を検討して欲しいところだ。現状では、エコノミークラスで長時間利用するには、オプションの大容量バッテリーか予備バッテリーを用意するしかないだろう。
もうひとつ注意したいのが、ノートPCの大きさだ。ちなみに筆者が航空機内に持ち込んだのはソニーの「VAIO type T(VGN-T90S)」だ。VAIO type Tの場合、ディスプレイにワイドサイズの10.4インチ液晶を採用しているため、パネルの縦の長さは短めで、エコノミークラスでも前の座席との干渉は起きにくい。しかし、通常のタテヨコ比率が4:3の12インチ液晶を搭載したノートPCの場合は、パネル上部と前の座席が干渉し、キーボードに対する液晶パネルの角度を十分に取れない可能性が高い。かといって、前の座席にピッタリくっつくまで液晶を開いてしまうと、最悪、突然リクライニングされて液晶が……なんてことにもなりかねない。ましてや14インチクラスは無謀といってもよい。持ち込むノートPCのサイズはなるべくコンパクトなものをお勧めしたい。
ちなみに、航空機内は狭い空間に飲み物や機内食が行き交う、PCにとってはかなりの危険地帯だ。くれぐれも仕事をする前に、パソコンにジュースをこぼしたり、こぼされたりしないように気をつけたいところだ。
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航空機内でネットに接続。数年前までは考えられなかったサービスだ
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荷物置き場の上の部分に無線LANアクセスポイントが設置されている
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実用性は十分
最後にこのサービスを一言でまとめると、「若干不安定ながら、PHSレベルの通信が利用できる実用的なサービス」といった感じだ。サービスの使い勝手も、利用開始までの手続きや決済はスマートだし、無線LANへのアクセスにWEPが不要で洗練されている。
あとは価格だが、空港やカフェの無線LAN接続は無料のところも多く、高く感じる人もいるだろうが、時速800km以上で移動している飛行機に地上のサービスと同じ水準を求めるのは無理な話だろう。丸10時間以上、メールの読み書きもできなかったのが可能になるのだから、6時間以上の使い放題がおよそ30ドルというのは、必要なユーザーにとっては決して高くない価格だろう。
料金プランについては、コストを重視するなら従量制を選択するという手もある。さっと必要な書類やメールをオフラインで書いて、送ってしまえば、12ドル程度で済むだろう。仕事だけでなく、プライベートで恋人に「ロシア上空より愛を込めて」とメールを送るのも、オツな最新サービスの使い方かもしれない。
関連情報
■URL
Connexion by Boeing
http://www.connexionbyboeing.com/index.cfm?p=cbb.home&l=ja.JP&ec=&cfaq=cs&e=
ルフトハンザ航空
http://portal.lufthansa.com/online/portal/lh_jp?l=ja&ctest=1
・ 日本にも“ブロードバンド飛行機”が就航~ルフトハンザ便で6月21日から(2004/06/22)
・ 飛行機ブロードバンドの商用サービス始まる~ルフトハンザで今週から(2004/05/21)
・ iPassの無線LANローミング、Connexion by Boeingの機内ネットに対応へ(2004/08/24)
・ Mzone、飛行機内ネット接続サービス「Connexion by Boeing」と提携(2004/04/27)
( 伊藤大地 )
2005/03/10 15:18
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