第174回:IEEE 802.11b準拠の無線LANでPCと連携
リモート撮影も可能なキヤノンのデジカメ「IXY DIGITAL WIRELESS」
キヤノンからIEEE 802.11b準拠の無線LAN機能を搭載したデジタルカメラ「IXY DIGITAL WIRELESS」が登場した。無線LAN経由での画像転送だけでなく、印刷やリモート撮影も可能な製品だ。その実力を検証してみよう。
●無線LAN接続のメリットを活かした製品
IXY DIGITAL WIRELESS |
デジタルカメラへの無線LANの搭載が本格化しそうだ。以前、ニコンの「COOLPIX P1」を本コラムで取り上げたことがあったが、今回、キヤノンからもIEEE 802.11b準拠の無線LANを搭載した製品「IXY DIGITAL WIRELESS」が新たに登場した。
これまで、デジタルカメラとPC、もしくはプリンタの接続には、USBを利用するのが一般的だった。しかし、ハイエンド製品ではなく、普及モデルであるコンパクトタイプのデジタルカメラへが無線LANを採用したことより、今後はUSBによる有線接続からワイヤレスへの移行が加速しそうな勢いだ。
今回取り上げるキヤノンの「IXY DIGITAL WIRELESS」は、500万画素のCCDイメージセンサーと光学3倍ズームレンズを搭載したコンパクトタイプのデジタルカメラだ。すでに発売されている「IXY DIGITAL 60」をベースとして、IEEE 802.11b準拠の無線LAN機能が新たに追加されている。
無線LAN関連の機能は、基本的には以前に紹介したニコンの「COOLPIX P1」と同様だ。撮影済み画像をワイヤレスでPCに転送する、撮影と同時に画像をPCへと転送する、PCに接続されているプリンタを利用してデジタルカメラ側からの操作で印刷するといった機能が利用できる。
しかし、IXY DIGITAL WIRELESSがCOOLPIX P1との大きな違いは、PCからの遠隔操作で撮影ができる「ワイヤレスリモートキャプチャー」機能にある。今回は、この機能を中心に検証していくことにしよう。
本体前面 | 本体背面 |
側面にはUSBポート | 同梱のプリンタ用ワイヤレスアダプタ。同社のダイレクトプリンタ「SELPHY CP710/CP510」ではUSBバスパワーで電源を供給するが、それ以外のプリンタ別途AC電源が必要になる |
●カメラとPCの双方の操作が必要なセットアップ
まずはセットアップだが、具体的には以下のようなステップで設定する。
- 1) 付属CD-ROMからユーティリティをインストール
2) USBケーブルでカメラとPCを接続
3) カメラ本体を操作し「接続先の登録」を実行
4) 無線LAN設定ユーティリティが自動起動
5) 無線LANの接続情報を入力
6) カメラに設定を転送
今回、試用した製品は発売前の評価機となるため取扱説明書が付属していなかったこともあり、この設定方法に気がつくまで半日ほど迷ってしまった。おそらく製品版では取扱説明書に丁寧に解説してあると思われるので、手順をよく確認しながら設定した方がいいだろう。
ユーティリティの起動さえできてしまえば、後の設定は簡単だ。PCが無線LANで接続されている場合は、PC側の設定情報からアクセスポイントのSSIDが自動的に取得されるので、WEPキーなどの暗号化設定を登録するだけで設定は完了する。もちろん、アクセスポイントが存在しない場合でも、PCとアドホックで接続することが可能だ。
無線LANの設定ユーティリティは、USBでの接続後、カメラ側から登録操作を実行しないと起動しないので注意。インフラストラクチャ、アドホックのどちらでも利用可能だが、アドホックの場合は固定IPで利用した方が接続がスムーズ |
しかし、無線LANの設定は、バッファローの「AOSS」やNECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」のように、自動設定が主流となりつつある。これらの方式を利用して無線LANを設定した場合、暗号キーが非常に長いものに設定されることも少なくないので、わざわざ手動で設定するのはかなり面倒な作業となりかねない。現状、複数の無線LAN設定方式が乱立する状態ではなかなか難しいところだが、できればこれらの無線LAN設定方式に対応してくれるとありがたいところだ。
●最高画質の画像を約6秒で転送可能
設定が完了すれば、無線LANでの利用が可能になる。IXY DIGITAL WIRELESSの電源をオンにした後、液晶画面を見ながらメニューを操作し、「接続」で先ほど登録した接続先を選べば、PCに接続できる。なお、接続後にできることは、本体のモードスイッチの状態によって異なる。具体的には以下の通りだ。
- 再生モード時
- ワイヤレスダイレクト転送
パソコン経由プリント - 撮影モード時
- 撮影同時転送
設定完了後、カメラ本体を操作して接続先を選べばPCに接続できる。利用可能なモードは本体のモードスイッチの状態によって異なる |
まずはもっとも基本的なワイヤレスダイレクト転送だが、これはすべての画像転送はもちろんのこと、撮影した画像の中から必要なものだけを選んで転送することも可能だ。カメラを操作してPCに接続すると、PC側で「Camera Window」というユーティリティが自動的に起動し、転送方式を選択できる。
カメラを無線LANで接続すると、PC側で自動的に「Camera Window」が起動する。ここで転送や印刷などの操作が可能 |
試しに、画質スーパファイン、サイズL(2,592×1,944ピクセル)で撮影した画像1枚をPCに転送してみたところ、画像の転送が完了するまでの時間が約6秒、転送完了後、画像が「ZoomBrowser EX」で表示されるまでにかかった時間が約9秒だった。USB経由での転送に比べると時間がかかるのは致し方ないものの、ケーブルをつなぐ手間が必要ないという点は確かに便利だ。
なお、PC側からの操作だけでなく、カメラ側の操作でも画像の転送が可能だ。本製品の場合、そもそもアクセスポイントに接続するときにカメラ側のメニューを操作しなければならないので、どちらかというとPC側から転送を開始するより、カメラ側の接続操作の流れで画像を転送してしまった方が楽だと感じた。
続いては撮影同時転送だ。無線LANでカメラを接続後、モードスイッチを撮影モードに切り替えると、カメラ側で撮影した画像がメモリカードに保存されると同時に、無線LAN経由でPCに転送される。無線LANの電波が届く範囲であれば、自由に持ち運びながら撮影でき、その結果をPCの大きな画面で確認できるので、非常に便利だ。
無線LANでの接続中にカメラを撮影モードに切り替えると撮影同時転送が可能。PC側でアプリケーションが自動的に待機し、撮影した画像が送られてくると自動的に表示される |
●PCからリモートで撮影可能
最後に、本製品の最大の特徴とも言える「ワイヤレスリモートキャプチャー」の機能について見ていこう。
これは文字通り、PC側からの操作でシャッターを切ることができる機能だ。無線LANでカメラをPCに接続後、PC側で「Camera Window」の「リモート撮影を開始」ボタンをクリックすると、カメラが自動的に撮影モードに切り替わり、ファインダー画面が表示される。ここでマウスを操作してレリーズボタンを押せば、カメラのシャッターが切れ、撮影ができるというわけだ。
ワイヤレスリモートキャプチャーの操作画面。ファインダー画面に表示される映像を見ながらレリーズボタンで撮影することが可能。ズームや細かな設定変更などもPC側から行なうことができる |
この機能のメリットは、手ぶれの心配をする必要がないという点だ。カメラの撮影、特にコンパクトタイプのデジタルカメラの場合、どうしてもシャッターを押すタイミングで本体が動き、手ぶれの原因となってしまう。しかし、PC側からシャッターを切れば、当然、本体は一切動かないので手ぶれが発生することはない。
また、動物などの撮影をする際にも便利だろう。人がカメラを構えていると、どうしても動物などは人に気を取られて、思い通りの撮影ができないが、この機能を使えばリモートで離れた場所から手軽に撮影できる。カメラ本体側での撮影と異なり、レリーズボタンを押してから、実際にシャッターが切れるまでに多少のタイムラグがあるので、実際の撮影タイミングは結構難しいが、ファインダー画面で映像を見ながら最適なシャッタータイミングをじっと待つことが可能だ。
しかも、この機能がすばらしいのは、単に撮影ができるだけでなく、カメラ側のすべての操作をPCから可能な点だ。ファインダー画面にリアルタイムに現在の映像が動画で表示され、ファンダー画面の隣にあるスライダーバーを操作すればズームのコントロールが可能。画像のサイズの変更、マクロモードやストロボのオン/オフ、ホワイトバランス、ISO感度、露出補正、測光方式といった設定をPCから制御できる。欲を言えば、ネットワークカメラのようにパン&チルトできれば完璧だが、遠隔からこうした設定を変更できるのは非常に便利だ。
なお、ワイヤレスリモートキャプチャーでは、標準設定の場合はカメラ本体のメモリーカードとPCの両方に画像が保存されるが、PCのみに保存する設定も可能だ。メモリーカードの容量を気にせず撮影ができるのもメリットの1つと言えるだろう。
設定変更により、撮影した画像をPCのみに保存することも可能。メモリーカードの容量を気にせず撮影できる |
ただし、レリーズボタンを押してから画像の転送が完了するまでは、次の撮影を行なうことはできない。このため、連続して撮影を行なう必要がある場合は、前述した撮影同時転送の方が便利だ(連写が可能)。
●リモート撮影の利便性がポイント
今回は触れなかったが、付属のワイヤレスアダプタ「WA-1」をPictBridge対応プリンタに接続することで、ワイヤレスでプリンタから直接印刷することもできる。しかも出荷時に接続設定が済んでいるため、プリンタにつなぐだけですぐに利用可能だ。
筆者などは、本コラムなどに掲載する写真の撮影を自分で行なうこともあるため、PCから設定を変えつつリモートで撮影できることが非常にありがたい。ただ、一般的な使い方で、どこまでニーズがあるのかは難しいところだ。
なお、IXY WIRELESS DIGITALのベースとなっている「IXY DIGITAL 60」は、無線LAN以外の機能はほぼ同等で、4万円を切る程度で販売されている。これに対してIXY WIRELESS DIGITALは約5万円前後と、1万円程度の価格差だ。ワイヤレスリモートキャプチャー機能でのリモート撮影や、付属のプリンタ用アダプタに1万円の価値を見出せるかどうかが、この製品を購入する際の判断材料になるだろう。
関連情報
2005/11/29 10:53
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