第432回:外出先から自宅レコーダーのHD映像を視聴
イーフロンティア「Slingbox PRO-HD」


 イーフロンティアから、テレビチューナーやHDDレコーダーのHD映像をストリーム配信できる装置「Slingbox PRO-HD」が発売された。iPhoneやAndroid端末で、実際にどれくらい快適に使えるのかをチェックしてみた。

価格と価値をどうとらえるか

 3万4980円+α。本体価格を含めたこの価格体系を受け入れることができるかどうか? その判断によって、イーフロンティアから発売された「Slingbox PRO-HD」の評価は大きく分かれることだろう。

 昨年末の発表時点で予約を入れて購入した筆者としては大変気に入っているうえ、身の回りの海外出張が多い人からの反応も悪くないのだが、その一方で、値段を聞いて「うーむ……」と考え込む人も少なくない。

 製品としては、2006年に本連載で紹介した「Slingbox(アイ・オー・データ機器が販売)」のHD対応版となっており、コンポーネント出力に対応したテレビチューナーやHDDレコーダーなどに接続することで、映像をネットワーク経由でストリーム配信できる機器となっている。

 以前の製品に比べて、HD対応によって地デジやBSデジタルなどの映像も配信できるようになったこと、再生機器としてPCだけでなく、iPhone/iPad、Androidが加わったことなどが進化のポイントとなる。

フィーフロンティアから発売されている「Slingbox PRO-HD」。レコーダーなどの映像をネットワーク配信できる機器
レコーダーの映像をPCのブラウザやiPhone/iPad、Android端末で再生できる

 スマートフォンに関してはワンセグ対応も進んでいるため、無理にSlingboxを利用する必要はないという考え方もあるが、自宅のレコーダーで録画した映像を再生できるメリットは大きい。

 また、録画した映像をSDメモリーカード経由などでスマートフォンに転送できる場合もあるが、それに比べて、アプリを起動して接続するだけで利用できるSlingbox PRO-HDは圧倒的に手間がかからないというメリットもあるだろう。

 しかしながら、いかんせん価格が高い。本体もそうだが、後述するAndroid用アプリ「SlingPlayer Mobile」の価格は2450円、iOS用はiPhone用の「SlingPlayer Mobile」とiPad用の「SlingPlayer Mobile for iPad」が個別に提供されており、それぞれ3500円の価格となっている(PCはブラウザでの再生となり無料)。

 1000円を超えるアプリが高いと感じる時代になったことを驚くべきなのかもしれないが、本体と合わせて4万円近くになってしまう価格はやはり高い。とりあえず、比較用にすべてのアプリを購入してみたが、将来的にアプリのバージョンアップで再び購入が必要にならないことを祈るばかりだ。

iPhone版、iPad版がそれぞれ3500円。Android版は2450円とアプリの高さは、サイフにキビシイ

 

つまずかなければ手軽なセットアップ

 それでは、実際の使い方を見ていこう。まずはセットアップだが、基本的には、機器を設置後、Webベースのウィザードを実行していくという流れになる。

 まずは接続だが、今回は、手元にあったPanasonic製のブルーレイレコーダー「DMR-BW830」を利用し、これをSlingBox HD-PROに付属してきたD端子-コンポーネントケーブルで接続した。

 SlingBox PRO-HDはHDMIでの接続に対応しておらず、機器の接続はコンポーネント、Sビデオ、コンポジットのいずれかになる。今回使用したDMR-BW830の場合、D端子が用意されていたうえ、HDMI、D端子の両方に同時に映像を出力できたため、HDMIはテレビに、D端子はSlingbox PRO-HDにという形で接続することができたが、このあたりは接続する機器によって工夫が必要な場合もありそうだ。このあたりはつまずきそうな最初のポイントだ。

今回はPanasonicの「DMR-BW830」に接続してみたSlingbox PRO-HDの背面。コンポーネントを利用して機器を接続する

 なお、今後、D端子を搭載した機種が少なくなることが考えられるうえ、2011年1以降に発売されたレコーダーなどでは著作権保護の観点から映像がSD解像度に制限されるようになっている。こういった点を考えると、今後もSlingBox PRO-HDを気軽に使えるかどうかと言われるとちょっと難しい点もありそうだ。

 機器の接続後、ネットワークケーブルを接続したら、続いて初期設定をする。初期設定はブラウザベースとなっており、「http://www.slingbox.jp」からユーザー登録を実行すると、設置した機器が登録される。

 そして、接続した機器を登録する。SlingBox PRO-HDは赤外線リモコンを使って機器をコントロールする。ネットワーク上のクライアントからチャンネルを変更すると、そのコマンドが赤外線送信機から発信され、レコーダーなどの機器を操作するわけだ。

セットアップにはブラウザを利用。ウィザードに従って進めれば手軽に設定できるポイントはリモコンの設定。機種が見つからないときは公式サイト(http://www.slingbox.jp/)を参照

 このため、どのメーカーのどのような機器かを指定して、リモコンコードを合わせておく必要がある。メーカー名と機種名は基本的に海外製品ベースとなるため、ピッタリな名前が見つからない場合があるが、筆者の場合はPanasonic DMR-BR630V-Kを選ぶことで問題なく利用できた。

 ここも躓くと設定に迷うポイントとなる。どのような選択をすれば良いのかは、公式サイトにも掲載されているので、参考に設定すると良いだろう。

 最後に外出先からのアクセスを設定する。基本的には、UPnPに対応したルーターであれば自動設定が可能だが、環境によってはうまく設定できない場合もある。設定に失敗した場合、SlingBox PRO-HDのIPアドレスと使用するポート(5001)が表示されるので、これをポートフォワードで転送しておくといいだろう。このポイントをクリアできればセットアップは完了となる。

ルーターの設定で失敗した場合は5001をポートフォワードで転送する

 

レスポンスは良好、画質は回線次第

 さて、実際に視聴してみた感想としては、画質は環境に依存するものの、操作感はかなり快適だ。

 クライアントでブラウザを起動後、「http://www.slingbox.jp」からログインし、「Watch」をクリックすると、約10秒ほどでテレビの画面が表示された。

接続後、10秒ほど待てばテレビ画面が表示される

 初回はアドオンのインストールが必要になるうえ、接続した機器の電源がオフになっている場合は電源オンの作業が必要になる。リモコンを表示すると、画面上に実際のリモコンと同じデザインのスクリーンリモコンが表示されるので、このボタンをクリックして、電源を入れたり、チャンネルを変更するといった操作をすることになる。

 この操作は意外にスムーズで、たとえばチャンネルは、約4秒ほどで切り替えることができる。リモコンのボタンを押して、「イチ、ニ、サン、ヨン」と数えれば、終わるころに切り替えたチャンネルの画面が表示されるというイメージなので、さほどタイムラグを感じることはない。

 画面操作に関しては、もう少しタイムラグが抑えられているようで、たとえばリモコンの「番組表」ボタンを押して、レコーダーの番組表を画面に表示し、方向ボタンで番組表の中を移動するといった操作の場合、ボタンを押してから2~3秒前後で画面に結果が反映されるようになっている。

 もちろん、慣れるまでは操作がもどかしく感じることもあるが、下に2つ移動して決定ボタンといったように、まとめてコマンドを入れることになれてしまえば意外に楽に操作できる。

 レコーダーを接続した場合、予約を入れたり、録画した番組を見るという使い方をすることも多いため、このレスポンスが良いのはありがたいところだ。

 一方、画質は回線状況次第だ。ビットレートは可変となっており、映像が表示されていない状態では100kbps前後、映像が表示されると、800kbps、1000kbps、2000kbps、3000kbps、4000kbpsと徐々にビットレートを上げていき、回線速度の上限に近づくと、徐々にビットレートを下げながら安定して映像を再生できるところを見つけているようだ。

 試しにWiMAXで利用してみたところ、最低100kbpsからカウントアップし、6000kbpsあたりで上昇を停止、最終的に1500~2500kbpsあたりで落ち着いた。

レコーダーを接続した場合は録画予約や録画した番組の視聴も可能画質は回線速度によって自動調整される。1500~2500kbpsあれば画質的には問題ない

 あくまでも目安だが、PCで視聴する場合、ウィンドウ表示で視聴するなら1500kbps程度で十分だが、フルスクリーンで表示する場合は4000kbps前後は欲しい印象だ。WiMAXなら比較的安定した画質で視聴できるが、3Gの場合は電波状況によってはフルスクリーンでの再生はあきらめた方がいいだろう。

 なお、PC版の場合、ストリームされたデータを最大30分キャッシュしている。このため、画面上で再生位置を指定することで、巻き戻して前の映像を再生することなどもできる。もちろん、一時停止などの操作も可能だ。

 

タブでは荒さが目立つ

 モバイル環境での利用に関しても悪くはない印象だ。iPhone版、Android版ともに、3G回線経由で利用してみたが、画面の緻密さに関してはワンセグよりも明らかに高かった。

 しかしながら、Android版の場合、カクカクとまではいかないが、動きのなめらかさに若干欠ける印象を受けた。この印象は、無線LANで再生した場合も同じだったので、おそらく回線速度というよりは映像再生の処理に高い負荷がかかっていると思われる。

 また、Galaxy Tabでも再生してみたが、こちらは画面が大きい分、映像の荒さが目立ってしまった。モバイル版のアプリでは、SD画質での再生となるため、これが目立ってしまった印象だ。ワンセグよりも画質は高いので、実用上は問題ないのだが、4インチ前後の画面で見るのに最適化されている印象だ。

iPad版は回線速度が確保できる環境ではもっとも画質が良好

 一方、iPad版は、仕様が若干異なるようで、画面の大きさもあまり苦にならない。無線LANで再生した場合は、かなり画質が高くスムーズで、あたかもセカンドテレビのように利用することができる。

 ちなみに、モバイル版の場合、PCのように画面上にリモコンの画像は表示されず、ボタンのみが表示される仕様となっている。ただし、上下に画面をタップすることで、チャンネルを変更できるなど、普段の利用は快適だ。

 また、iPhone版の場合、Apple TVとの連携も可能となっており、ネットワーク上にApple TVが存在する場合、音声を出力することが可能だった。

【動画(Flash、クリックで再生)】
iPadでの再生の様子(無線LAN)
【動画(Flash、クリックで再生)】
Galaxy Tabでの再生の様子(3G)
【動画(Flash、クリックで再生)】
IS03での再生の様子(3G)

 

切実に欲しいと思える人向け

 以上、イーフロンティアが販売する「Slingbox PRO-HD」を紹介したが、製品としてはかなり面白いうえ、あると便利な製品であることは間違いない。場所を問わず、リアルタイムにテレビを見たいというニーズを満たせるうえ、録画した番組も楽しめるので、通勤などにも便利だ。

 PCで番組を録画して、再生機器に適したフォーマットやサイズにエンコードするといった苦労を考えれば、設置するだけで、PCやiPhone/iPad、Android端末で録画した番組が見られるメリットは非常に大きい。

 ただし、冒頭でも触れたが、なにしろ価格が高い。欲しい人にとっては高いと感じないのかもしれないが、その一方で、どことなく足下を見られているような気がしてならない。特にアプリの価格は再考の余地あるのではないかと思えてならない。

 よって、本製品は、どこでもテレビを見られるようにしたいと「切実」に感じている人向けの製品と言える。もう少し安ければ、より広いユーザーに使ってもらえそうな気もするので、この点は若干惜しい印象だ。


関連情報


2011/3/8 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。