第433回:フェイルオーバー&RAID6でデータをしっかり保護
バッファロー「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」


 バッファローからフェイルオーバー機能を搭載した法人向けNAS「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」が登場した。2台のNASを利用したノンストップ運用がどのように実現できるのかをチェックしてみた。

電源障害対策は万全か?

 震災から10日間近くが経過した。まだ安心できるような状況ではないが、被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げたい。被災地以外でも電力不足によって生活や企業活動がある程度制限される状況が続いている。1日でも早い復旧を望むとともに、微力ながら、復旧に向けた貢献が少しでもできればと考えている。

 さて、当初の掲載予定から1週間延びてしまったが、今回取り上げるのは、高度な障害対策機能を搭載したNASだ。

 バッファローやアイ・オー・データ機器などのNASベンダーは、停電に備えて、事前にNASの電源を安全に切る方法などを公表したが、突発的な電源トラブルはNASにとって致命的なダメージを与える場合もある。

 特に企業では、絶対にデータを失いたくないし、長時間の運用停止も避けたい……、という要求がある。現状、いつ電源トラブルが発生するかがわからない以上、何らかの方法でデータを保護する手段を考えておくべきだろう。

 そんな用途に使えるNASを探しているのであれば、バッファローの「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」を1つの選択肢として検討してみるといいだろう。

 同社の「TeraStation PRO」シリーズは、従来から法人向けモデルとして販売されてきたモデルだが、今回、2、4、6、8と搭載ドライブの異なる4種類の据え置き型とラックマウントと、ラインナップの一部拡充が行われ、さらにCPUなどの見直しによる性能向上、そして最大の注目でもあるフェイルオーバー機能が新たに搭載された。

フェイルオーバー機能を搭載したバッファローの「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」。2台のNASを利用することで、メイン機が故障してもサブ機での運用を継続できる

 現状、NASは中小規模のオフィス、および部門や拠点単位のファイルサーバー、サーバーのバックアップ用途などに利用されているが、今回のラインナップの拡充によって、さまざまな規模の環境に柔軟に対応できるようになったうえ、実際の運用で問われるパフォーマンスや信頼性といった点の強化が図られたことになる。

 企業のファイルの共有環境は、これまでの汎用サーバーからの移行がさまざまな形態で進んでいる。クラウドのストレージサービスを導入するケースもあれば、より低価格なNASへと移行する例も少なくない。このような状況の中、高いパフォーマンスとフェイルオーバー機能を搭載することで、これまで汎用サーバーが担ってきた領域へと、また一歩、NASが踏み込んできたことになる。

使い勝手の良い4ベイモデル

 では、実際の製品について見ていこう。今回、試用したモデルは1TBのHDDを4台搭載した4ドライブモデルの「TS-QVH4.0TL/R6」だ。

バッファロー「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」
正面
側面背面

 今回登場した新TeraStation PROシリーズには、TS-QVHL/R6シリーズの高さを低くした2ドライブモデル、幅をほぼ倍にした6/8ドライブモデルもラインナップするが、サイズや容量などのバランスを考えると、この4ドライブモデルがもっとも使い勝手の良いモデルと言える。

 筐体は、従来モデルとほぼ同じだが、中身は大きく変更されており、デュアルコアのCPU(Intel ATOM D510)と2GBのメモリが搭載されている。ハイエンドNASではすっかりお馴染みになったプラットフォームだが、この変更によってパフォーマンスは大きく向上している。

4つのベイを搭載し、RAID6に対応する

 実際に筆者宅の環境でテストしてみた結果が以下の画面だ。シーケンシャルリードに関しては1000MB、100MBのいずれのテストでも60MB/sを越える結果となった(CrystalDiskMark3.0.1、ThinkPad x200 Core2Duo P8600/8GB/Crucial RealSSD C300/Win7Ultimate 64bit)。1000MBでは書き込みの性能が若干劣るが、それでも30MB/s以上を実現できているので実用上の問題ないだろう。

 コンシューマー向けモデルの中には、実効で70MB/sを越える製品も存在するため、若干もの足りな印象もあるが、この結果は、おそらくピーク時の性能より、複数ユーザーからのアクセスした際の処理能力を重視した結果なのだろう。

 実際、同社の製品情報ページでは3台のPCから同時にアクセスした際のパフォーマンスが公開されているが、従来モデルよりも高い値となっている。

CrystalDiskMark3.0.1の結果:100MBCrystalDiskMark3.0.1の結果:1000MB

フェイルオーバーとRAID6でノンストップ運用

 機能的には従来モデルとほぼ同等で、Active Directory連携、USB HDD(新たにUSB3.0に対応)や他のNASへのバックアップ、ディスク暗号化、UPS対応などを搭載、オンサイト/デリバリ保守(別売)にも対応しているが、注目はやはり新機能として追加されたフェイルオーバー機能だろう。

 本製品を2台利用し、一方をサブのバックアップ機として設定することで、メイン機に障害が発生した場合に、もう一方のサブ機が自動的にメイン機に昇格させることができる。

 もちろん、停電のような電源障害の場合、メインとサブの両方の電源が落ちてしまえば、その瞬間に関しては、フェイルオーバーがあっても意味はない。しかしながら、安定稼働していたシステムを意識的にしろ、突発的にしろ、停止させるというのはなかなか勇気がいるものだ。復帰後にハードディスクなどに故障が発生する可能性が否定できないからだ。

 しかし、フェイルオーバーによってハードウェアを二重化しておけば、万が一、復帰時にいずれかのNASに障害が発生した場合でも、もう一台で運用を継続することができる。切り替わるまでに若干の時間は必要になるが、ユーザーはメイン機の障害やサブ機への切り替わりをほとんど意識することなく、共有フォルダー上のファイルを使えるため、実際の障害だけでなく、障害を避けるための電源オフなどの対策としても心強いだろう。

 実際の設定は簡単で、メイン機として利用する側のNASの設定画面にある「システム」の「フェイルオーバー」から、バックアップ機として利用するもう一方のNASを選択し、そのNASの管理者パスワードを入力する。設定後、確認のために本体のビープ音が鳴るので、前面の「Function」ボタンを押せば、設定が完了する。基本的な設定は、たったこれだけだ。

管理画面からサブ機を指定し、Functionボタンを押せばペアとして構成されるサービスIPアドレス設定を利用すると、障害時にメイン機のホスト名やIPアドレスがサブ機に自動的に適用される

 もちろん、あらかじめIPアドレスを固定(DHCPでも利用できるがIP指定でアクセスする端末を考慮)したり、オプション設定でホスト名を切り替える設定などをしておく必要はあるが、難しいと思われがちなフェイルオーバーの設定がここまで手軽にできるのは大きなメリットだ。

 なお、サブ機として設定されたNASは、設定後も共有フォルダーにアクセスすることはできるが、設定画面からの操作がすべて禁止される。設定画面にアクセスしても、バックアップ機であることが表示されるだけで、設定は一切変更できなくなる。

 実際のフェイルオーバー動作は非常にスムーズだ。この状態で、メイン機のネットワークケーブルを外して、意図的にトラブルを発生させてみたところ、約3分ほどで、メイン機をロストしたサブ機が数秒ほどビープ音をならしてから、フェイルオーバーの処理を実行しはじめ、その2分後、つまり障害発生から約5分ほどで完全にサブ機がメイン機へと入れ替わった。

 この入れ替わるという意味は、データや設定などを含め、完全にメイン機のクローンになると考えて良い。フェイルオーバーを有効にすると、その時点からメイン機とサブ機の間でファイルの同期が実行されるようになり、メイン機側でファイルを追加したり、削除すると、その結果がほぼリアルタイム(メイン機側での操作完了後すぐ)に反映される。

 また、メイン機で共有フォルダーを追加したり、ユーザーを追加した場合でも、その結果がサブ機側にきちんと反映されるため、フェイルオーバー後は、メイン機とまったく同じデータ、同じ設定の機器として動作することになる。

メイン機のネットワークケーブルを抜いてテスト。あらかじめ設定した間隔、メイン機が応答しないと、フェイルオーバーが実行される障害の状況は本体のディスプレイに表示され、アラート音が鳴る。フェイルオーバー構成の場合、しばらくすると自動的にサブ機がメイン機に昇格する

 もちろん、標準ではポーリング秒60秒、生存チェック回数5回に設定されているため、メイン機の停止後、ユーザーの操作は数分間できないことになる。ユーザーが切り替わりをまったく意識することなくフェイルオーバーさせることは実運用上難しいが、ポーリング間隔や回数を減らすことで、時間のロスをなるべく短くすることは可能だ。

 本製品は、出荷時設定でHDDがRAID6で構成されているため、もともと最大2台のHDDの故障にまで対応できるようになっているが、フェイルオーバーによって、3台以上のHDDの故障にも対応できるうえ、ファンやネットワークなど、別のハードウェアの故障にも対応することができる。

 RAIDも再構築に時間がかかるうえ、再構築中のトラブルなどでデータが失われるケースが少なからずある。こういった場合でも、ノンストップで運用したり、交換などがスムーズに行えるのは大きな魅力だ。

復旧の事前シミュレーションを忘れずに

 以上、バッファローの新型NAS「TeraStation PRO TS-QVH4.0TL/R6」を実際に使ってみたが、RAID6とフェイルオーバーの両方でデーターを保護できるのは、非常に心強いという印象だ。6/8ドライブモデルを1台買うか、4ドライブモデルを2台買うかで悩むところだが、個人的には2台構成にして、フェイルオーバーの安心感をぜひ味わって欲しいところだ。

 なお、実際に購入して運用する場合は、事前にフェイルオーバーのテストを十分に実施すべきだろう。前述したように設定は非常に簡単で、フェイルオーバーも自動的に行われるが、その後、元の2台構成にどのように戻せば良いのかをしっかり確認しておかないと、ここで運用をストップさせてしまうことにもなりかねないからだ。

 手順としては、フェイルオーバーで昇格した旧サブ機で、フェイルオーバー機能の構成を一旦解除し、そのままメイン機として継続して利用する。この状態で、修理したもう1台をサブ機側として構成し直し、再びフェイルオーバーの構成をし直すという形になる。

フェイルオーバーが実行される、サブ機がメイン機として動作するようになる。メイン機の修理後、フェイルオーバーの再構成を実行する必要がある

 フェイルオーバー後、修理した旧メイン機をそのままネットワークにつないで電源を入れると、同じIP、同じホスト名のNASが同一ネットワーク上に存在することになるので、必ず設定をサブ側に変更してから設置し直すのがポイントだ。

 このあたりの手順については、取扱説明書にも体系立てて記述されていないので、できれば、各機器での作業の流れがわかるようなものを自前で用意しておくべきだろう。特に拠点などでに設置する場合は、誰でも復旧操作ができるマニュアルなどを用意しておくことが、スムーズな復旧につながるはずだ。RAIDにしても、バックアップにしてもそうだが、実際に困るのは復旧時の操作だ。この準備を忘れないようにしたいし、メーカー側にもユーザーに役立つようなマテリアルの提供を望みたいところだ。


関連情報

2011/3/22 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。