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「リアップX5」「ロキソニンS」「アレグラFX」など23品目はネット販売をしばらく禁止とする薬事法改正

三木谷氏が批判会見「時代錯誤もはなはだしい、このまま立法されれば行政訴訟」

 一般用医薬品のネット販売をめぐり、医療用から一般用に転用された医薬品については市販後3年間ネット販売を禁止する方針を政府が発表したことを受け、楽天の三木谷社長らが会見を開き、規制への反対を表明した。

 薬事法の改正によりネット販売が規制されるのは、医療用医薬品から一般用医薬品に転用されたばかりの「スイッチ直後品目」23品目と、劇薬または毒薬に該当する「劇薬指定品目」5品目。スイッチ直後品目は市販後3年間ネット販売が禁止され、劇薬指定品目は恒久的にネット販売が禁止となる。

 スイッチ直後品目の中には、発毛剤の「リアップX5」や解熱鎮痛薬「ロキソニンS」、アレルギー用薬「アレグラFX」「コンタック鼻炎Z」などが含まれる。劇薬指定品目は、殺菌消毒薬「エフゲン」と勃起障害等改善薬の4品目。

 一般用医薬品のネット販売については、厚生労働省の検討会や政府の規制改革会議などで検討が進められてきたが、5日の関係閣僚会議により方針を決定。今後、薬事法改正案を閣議決定し、臨時国会に提出する予定で、新ルールは2014年春からの適用を目指すとされている。

このまま立法ならば行政訴訟、政府の委員も辞任と三木谷氏

楽天の三木谷浩史社長

 楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長は、「最高裁の判決に反する形でインターネット販売を規制するという大変残念な方向に進んでおり、遺憾に思っている。これまでの経緯、そして今回の法案がいかに馬鹿げている法案であるかをご説明したい」と語り、法案が成立した場合には国に対する行政訴訟を検討しているため、政府の産業競争力会議で務めている民間委員は辞任する意向であることを明らかにした。

 三木谷氏は、「ネット販売は安全性について十分担保できる。規制する立法事実、客観的事実、科学的根拠は何もない。時代錯誤もはなはだしい」と法案を批判。今回の薬事法改正案でも「対面・書面の原則」を持ち出してネット販売を規制しようとしているが、ITの活用を推進していく上では「対面・書面の原則」を撤廃することが医薬品のネット販売に限らずどの分野でも必要だとして、「我々は非常に重要なポイントだと思っている。ここを突破できなければ前に進めない」と徹底的に争う姿勢を示した。

楽天の國重惇史副社長

 楽天の國重惇史代表取締役副社長は、インターネットを活用した販売には「情報提供・収集の確実性」「トレーサビリティ」など店頭販売に比べても優れた特性があると説明。また、ケンコーコムらが国を相手とした行政訴訟でも、2013年1月に医薬品のネット販売を認める判断が下されており、安倍晋三総理も6月に「消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールの下で、すべての一般医薬品の販売を解禁します」とスピーチしたことを紹介した。

 厚生労働省では、一般用医薬品のネット販売のルールを定める検討会を行っており、検討会に出席した國重氏もルールについては一部に不満が残るものの同意できる内容だったと評価。一方で、スイッチ直後品目と劇薬指定品目の扱いについては専門家会合で検討され、この会合でスイッチ直後品目と劇薬指定品目のネット販売に対する規制が提案された。

 國重氏は、会合を傍聴した感想としては「対面なら安全でネットは安全でないという感想の述べ合いに終始するだけのものだった」として、ネット販売の規制ありきで行われた会合だったと語った。

 また、政府側から示された改正薬事法では、スイッチ直後品目に加えて処方箋薬についても、「対面により」「書面を用いて」「必要な情報を提供」しなければならないと規定しているが、これまでの検討会などでも処方箋薬については議論されたことがなく、「どさくさに規制を強化しようとしている」(國重氏)と批判した。

最高裁判決で医薬品のネット販売規制に違法判断
安倍総理も「すべての医薬品販売を解禁」とスピーチ
日本再興戦略の閣議決定にも盛り込まれる
専門家会合で一部医薬品のネット販売規制方針が出される
予想される改正薬事法では処方箋薬も規制
規制される28品目のリスト
ケンコーコムの後藤玄利代表取締役

 ケンコーコムの後藤玄利代表取締役は、2013年1月の最高裁判決を受けて第1類と第2類の医薬品販売を再開し、これまでの10カ月で約75万個の一般用医薬品の注文を受けたことを紹介。この間に副作用の発生は報告されておらず、ケンコーコムの薬剤師は医薬品などについての相談を電話で2652件、メールで2885件受けており、注文状況などをもとに薬剤師から個別に確認の連絡をした数は648件に上り、うち187件については確認の結果、販売を断ったという。

 また、スイッチ直後品目については、販売数日後に副作用などの発生がないかを確認するメールを送信するなどの対応を行っていると説明。インターネット販売は販売した顧客を把握しているトレーサビリティの点で優れており、リスク評価が必要とされる期間の医薬品こそ、インターネット販売を活用して情報を収集することが有効だと主張した。

 一方で、今回の政府の方針は非常に遺憾だとして、「我々がこれだけ安全に取り組んでいるのに、なぜダメなのか、それを教えていただきたい。最高裁判決や日本再興戦略における閣議決定を捻じ曲げてまで、なぜ禁止しなければならないのか。それを伺っていきたい」とコメント。ケンコーコムとしては今後も安全に取り組んでいくが、「今後改めて、司法の場に出ていくことも辞さない」と、今回の法案が立法化された場合には行政訴訟を行う方針を表明した。

中央大学法科大学院教授の安念潤司氏

 政府の規制改革会議で「創業・ITワーキンググループ」の座長を務める中央大学法科大学院教授の安念潤司氏は、「ネット販売は危険であるという奇妙な信仰を持っておられて、それが法案にも盛り込まれた」と法案を批判。ケンコーコムが行った行政訴訟の判決でも示されたように、国民の自由を法律によって制限する場合には、制限するだけの正当な理由が必要であり、それは感情論ではなくデータやエビデンス、法律用語で言えば立法事実が必要だと説明。今回の法案にはいかなる立法事実もなく、訴訟になればおそらくまた違憲判断となるのではないかと語った。

省令でネット販売規制、行政訴訟で違法判決を受け、新たなルール作りを行ったが……

 一般用医薬品のインターネット販売に対する規制は当初なかったが、2009年6月に完全施行された改正薬事法に伴う厚生労働省令により、ネット販売を含む通信販売は一般用医薬品の中で最もリスクの低い「第3類」のみに限られ、「第1類」「第2類」の販売は禁止となった。

 この厚生労働省令に対して、ネット販売事業者や通販が主力の伝統薬販売業者などからの反対が相次いだことから、施行を4カ月後に控えた2009年2月に再検討を行うための検討会が設置されたが、議論は紛糾。検討会としての結論は出せないまま、「薬局のない離島居住者」と「改正省令の施行前に購入した医薬品の継続使用者」のみに2年間の経過措置として販売を認めるという省令改正が行われるのみにとどまった。

 これに対して、ネット販売事業者のケンコーコムとウェルネットが、医薬品のネット販売を行う権利の確認と省令の無効確認または取り消しを求める行政訴訟を2009年5月に提起した。

 一審の東京地裁では「省令は合憲」として訴えを棄却したが、二審の東京高裁ではケンコーコム側の主張を認め、2社に医薬品のネット販売を行う権利があることを認めた。その後、国側は上告したが、2013年1月に最高裁は二審判決を支持し、上告を棄却。医薬品のネット販売禁止を定めた厚生労働省令が事実上無効な状態となった。

 この判決を受けて、事業者による医薬品ネット販売への参入表明が相次ぐ一方で、医薬品のネット販売に対する新たなルール作りが求められることとなり、厚生労働省が検討を開始。厚生労働省の専門家会合で「スイッチ直後品目」と「劇薬指定品目」についてはネット販売を規制する方針が示され、閣僚会合で「スイッチ直後品目」のネット販売禁止期間を3年間に短縮することで、薬事法改正法案が合意に達したとされている。

(三柳 英樹)