ソフトバンクがイー・アクセスを買収、LTEを強化、契約数はauを抜き業界2位に


ソフトバンクの孫正義社長(左)とイー・アクセスの千本倖生会長(右)

 ソフトバンク株式会社は1日、株式交換により株式会社イー・アクセスを完全子会社化すると発表した。イー・アクセスの株式評価額は1株あたり5万2000円で、買収総額は約1800億円。1日に契約を締結しており、年内の完全子会社化を目指す。

 1日午後に、イー・アクセス代表取締役会長の千本倖生氏と並んで記者会見に出席したソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏は、イー・アクセスが展開する1.7GHz帯のLTEサービスが、来春にはソフトバンクのiPhone 5でも使えるようになるという見通しを示すとともに、イー・アクセスがソフトバンクグループ入りすることで、グループ全体のモバイルサービスの契約数がKDDI(au)を抜き、業界2位になるとアピールした。

 孫氏は、ソフトバンクグループとイー・アクセスはともに、2000年からADSL事業を開拓し、2005年には同じ日に携帯電話事業の認可を受け、2007年には2.5GHz帯免許取得のためのジョイントベンチャーを組むなど、「同じような方向を向いて、同じような取り組みを行なってきた」企業だと説明。2009年からは、イー・アクセスからのMVNOの形でソフトバンクがデータ通信サービスを展開しており、「協調しながら競争も繰り返してきた間柄だ」とした。

2000年にともにADSL事業を開始2005年にともに携帯電話事業認可

 その上で、「志を同じくしているのであれば、もっとしっかりと根っこから協力しあいましょうということで、今日、まさに両社が正式に経営統合の契約に合意した」と説明。経営統合により、「最高のモバイルブロードバンドを提供します」というユーザーへの約束を掲げた。

 経営統合については、「ソフトバンク側から強力に話を持ちかけた」として、その大きな理由はイー・アクセスが展開する「1.7GHz帯のLTE」にあると説明。LTEの世界標準バンドである1.7GHz帯は、現在販売しているiPhone 5でも使うことが可能で、両社の経営統合によりソフトバンクの2.1GHz帯に加えて1.7GHz帯が使えるようになれば、ソフトバンクのiPhone 5は他社に比べて大きな優位性を持つことになるとした。また、イー・モバイル側にとっても、ソフトバンクのネットワークが利用できるようになり、両社にとってメリットのある統合だとした。

両社のLTEが利用可能に他社に比べて大きな優位性を持つと説明

 孫氏は経営統合を決めたきっかけは、「いずれはさらに深い関係になりたいという思いは持っていたが、正式に、必死の思いで提案しようと腹をくくったのは、iPhone 5のテザリングを『やりましょう』と言った瞬間」だったと明かし、テザリングはユーザーに提供したいが、それに見合うネットワークを整備する必要があったと説明。両社の相互MVNOのような形のサービスも可能だったが、よりユーザーに快適なサービスを提供するためには、3GとLTEの切り替えなどでより深いレベルでのネットワークの統合が必要であり、そのために経営統合という判断に至ったとした。

 iPhone 5でイー・モバイルのLTEを使えるようになる時期については、ネットワークの統合に加えて、端末側もアップデートなどが必要となるため、「おそらく来春になると思うが、できるだけ早く実現できるようにしたい」とした。

 また、1.7GHz帯のLTEが使えるようになることで、テザリングにも耐えられるだけのネットワークが整う目途が立ったとして、これまで「2013年1月15日」と案内してきたiPhone 5でのテザリングサービスの開始日を、1カ月前倒しの「2012年12月15日」にすることを発表。iPhone 5のテザリングありのパケット定額サービスで、「月1.2GB超過時は速度制限をかける場合あり」としていた制限も撤廃し、「1GB/3日間超過時は速度制限をかける場合あり」という他社と同様の制限のみにするとした。

テザリング開始日を前倒し「月1.2GB超過時」の制限も撤廃

 孫氏は、「LTEという新しいモバイルのブロードバンドの時代が来た。ソフトバンクとイー・アクセスは、日本のブロードバンドの開拓者の一員であるという自負がある。同士が真に一つになって、モバイルブロードバンドでもナンバーワンを目指していく。今年は、本格的にスマートフォンの中にLTEが入り、ユーザーがメリットを感じられるようになったという意味で、LTE元年と言ってもいい。可能な限り早くLTEを広げていきたい」と抱負を語った。

 千本氏は、「イー・アクセスは日本をインターネット大国にしたいという思いで作った会社。孫さんの会社ともADSLで凄い競争をした。モバイルに乗り出す時も孫さんと一緒のスタートだった。我々としては、これからもモバイルブロードバンドの世界で存在価値を示せると思っていたが、最近になって孫さんから熱意のある提案をいただいた。他にも提案があったが、ソフトバンクはDNAが一番似ている企業であり、我々が持っている1.7GHzのLTEとソフトバンクが持っているiPhone 5が組み合わさることで、我々だけの力よりもより大きな成長が望めるということで、孫さんからの提案が最も価値が高いという結論に達した。ソフトバンクグループの一員として、ナンバーワンの地位を目指して取り組んでいく」とコメントした。

 イー・アクセスのADSLやイー・モバイルのサービスについては、経営統合後も継続する予定で、イー・アクセス事業の基本方針の変更は現時点では予定していないと説明。9月19日にイー・アクセスと楽天が共同で設立した新会社によるLTEサービス「楽天スーパーWiFi」についても、「むしろエリアが広くなることで、楽天との条件はさらに良くなると思う(千本氏)」として、他のMVNOとの関係もさらに良くしていきたいと語った。

 イー・アクセスの株式は、直近では1株1万5000円程度で取引されていた。今回の買収における株式評価額が3倍以上の1株5万2000円となった理由については、減価償却後の設備投資額や、イー・アクセスのモバイルやADSLのユーザーをソフトバンクが獲得したと考えた場合のコスト、顧客基盤の強化やネットワーク設備の共用など経営統合によるソフトバンクへのシナジーを合計すれば、決して高いものではないとした。

 さらに、8月末時点でのモバイルサービスの契約数ランキングを示し、3位のソフトバンク(ウィルコムを含む)が3491万人、4位のイー・アクセス(イー・モバイル)が420万人であることから、合計すれば3911万人となり、2位のKDDI(au)の3589万人を抜いて、業界2位になるとアピール。ソフトバンクでは2010年10月に「201X年時点で4000万回線」という構想を発表したが、2012年度内には達成できる見通しとなったとした。

株式交換により年内に完全子会社化契約数でauを抜き2位になるとアピール

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(三柳 英樹)

2012/10/1 17:57