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カドカワ、ネットの高校「N高等学校」を2016年4月開校

高卒資格を持っていなければ年齢に関係なく入学可能、転入も受け付け

 カドカワ株式会社は14日、2016年4月開校を予定している“ネットの高校”について「N高等学校」という正式名称と、カリキュラムを発表した。「N」は、決まった意味は持たせていないという。

“ネットの高校”こと「N高等学校」

 N高等学校は「デジタルネイティブ時代の理想の高校」として、学業、コミュニティ、キャリア教育を重点に置いた通信制の学校。通常の授業のほかに課外授業として、ドワンゴのトップエンジニアによるプログラミング授業、KADOKAWAの作家・編集者による文芸小説創作授業、「電撃」で活躍するクリエイターによるエンターテインメント創作授業、地方自治体などと連携した職業体験など、各業界のプロによる授業を通したキャリア教育を受けられる。

 また、カドカワ傘下でクリエイター教育を行うバンタングループによる授業を展開。ファッション、シェフ/パティシエ、トータルビューティー、ゲーム/アニメ/声優教育など、生徒自身が興味のある授業を組み合わせて受講できる。なお、課外授業は基本無料で受講できるが、東京・大阪のバンタンの校舎への通学などは、別途費用が発生する。

 通常の授業は、東京書籍の映像授業を採用。PCやスマートフォンから動画を視聴して学習することで、拘束時間を短くしつつ高校卒業資格の取得に必要な授業を受けることができるという。1クラスは40人程度で構成され、生徒のサポートを行う担任が就く。生徒は、インターネットを介して、授業で分からない点や相談ごとなどを担任に持ち込むことができる。

 また、大学進学に向けた課外授業も用意されている。学習参考書などを手掛ける中経出版の協力による、N高等学校オリジナルの受験教材を制作。大学受験の最新動向や解説動画を提供するとともに、講師陣との双方向授業を行う。カドカワ代表取締役社長の川上量生氏は、「通信制の高校と言っても高卒資格を与えて終わる学校ではなく、大学進学を目指せる高校を作る。最初の年から東大生を出したい」としている。

インターネットを活用し、学業、コミュニティ、キャリア教育を展開する
担任や同級生とつながりながら学習を受けられる
課外授業として、ドワンゴ・KADOKAWA・バンタンによる専門教育、中経出版による受験教育、地方自治体と連携した職業体験を受けられる
プログラミング授業は、入門からコンピューターサイエンス、人工知能など幅広く行う
KADOKAWAの文芸小説創作授業は、特別講師として作家の森村誠一氏ほか、作家や編集者からノウハウ指導を受けられる
エンターテイメント創作授業では、「ソードアート・オンライン」の川原礫氏、「キノの旅」の時雨沢恵一氏が講師として参加
コミック作家授業、ゲームクリエイター授業、アニメプロデューサー授業を行う
バンタン現役プロ講師によるクリエイティブ授業も受講可能

 N高等学校の制服も披露された、男女ともに白のパイピングがあしらわれている。また、女生徒の制服は、正面から見るとブレザーだが、背面はセーラー服のモチーフが取り入れられている。後述のスクーリングなどで着ることができるほか、「制服を着て行くといいことが起きるイベントも用意している(川上氏)」という。なお、制服のデザインは、ドワンゴ取締役兼株式会社MAGES.代表取締役会長の志倉千代丸氏が担当している。

 学費は、一般的な高校1年生から3年生まで通うケース(履修単位数により授業料は変動)で、1年次25万円、2年次20万円、3年次20万円の合計65万円だが、家庭での教育負担額軽減を目的とした国の制度「高等学校等就学支援金」により、合計29万円台までに減額される。これにより、平均年間10万円程度で通学可能だという。1単位あたりの授業料は5000円。

 10月14日より出願受付開始。11月1日には東京、3日には大阪で学校説明会・個別相談会を実施。定員は1万人を予定する。また、11月より毎月、ニコニコ生放送でオープンキャンパスを行い、第1回にはRuby開発者でN高等学校のプログラミング授業を受け持つ、まつもとゆきひろ氏が登場する。

「N高等学校」の制服。株式会社MAGES.代表取締役会長の志倉千代丸氏によるデザイン
女生徒の制服は、後ろにセーラーのモチーフが入っている
「N高等学校」の学費
高等学校等就学支援金により、年間平均10万円以下で通うことができる

校舎は沖縄県うるま市、全国の地方自治体や企業とコラボした課外授業など

 カドカワでは、通信制高校に通う生徒にヒアリングを実施。勉強以上の悩みとして“友だちができない”という声が多くあったという。N高等学校では、生徒間でのコミュニケーション、友達作りに配慮する施策として、生徒全員にメールアドレス、Slack、GitHubアカウントを発行。生徒間の日常コミュニケーションはSlackで行い、創作物やレポートはGitHubで提出する。授業の内容を生徒同士で教え合うチューター制度も検討中だという。

 通信制の高校ではあるが、沖縄県うるま市に同校校舎(廃校となった旧伊計小中学校を改築して使用)を設け、年間5日間のスクーリングを行う。これにより、日ごろインターネット上で交流している生徒が顔を合わせて授業を受けられる機会を設ける。また、東京(恵比寿)と大阪(心斎橋)にも、スクーリング会場を開設するほか、ニコニコ本社も自習室として開放する。なお、スクーリング時の参加費や交通費、宿泊費は別途発生する。

 そのほか、「ニコニコ超会議」での文化祭活動や、カドカワが定期的に開催する「闘会議」や「町会議」での課外授業活動、地方自治体や企業と連携した職業体験を企画している。職業体験は、生徒が日本各地に宿泊しながら実施し、見学だけでなく生徒自身が作業を行うことで、実社会に根ざした経験を積む。事前研修だけでなく、監督職員によるアドバイスなど事後指導も行う。

 地方自治体が協力する職業体験は、北海道稚内市の牧畜・牛の飼育、山形県小国町のマタギ(熊狩猟)・農業、茨城県城里町の雛人形工芸、滋賀県湖南市の介護福祉体験、広島県庄原市の刀鍛冶体験、山口県長門市のイカ釣り漁業体験、佐賀県武雄市の図書館での司書体験などのほか、企業・団体との協力による株式会社大和の築地市場でのマグロ仲卸、高野山の宿坊体験などが受けられる。若手や後継者を必要とする地方自治体とのマッチングや、年上の人との触れ合いにより、社会性を身につけるとしている。

生徒間のコミュニケーションはSlack、提出物はGitHubを使用する
沖縄県うるま市の同校校舎や東京・大阪会場でスクーリングを行う
文化祭は「ニコニコ超会議」で実施。「闘会議」「町会議」での課外授業といった学校行事も
地方自治体と連携した職業体験を受けられる
実施自治体は北海道から沖縄まで多種多様

一見社会の落ちこぼれに見える人でも、ネット時代ではむしろ主役

 N高等学校の設立にあたりニコファーレ(東京都港区)で開かれた発表会では、川上氏のほか、カドカワ代表取締役会長の佐藤辰男氏、株式会社ドワンゴ教育事業本部の奥平博一氏が登壇した。

(左から)株式会社ドワンゴ教育事業本部の奥平博一氏、カドカワ株式会社代表取締役社長の川上量生氏、カドカワ株式会社代表取締役会長の佐藤辰男氏

 佐藤氏は、「カドカワのコンテンツ力、ドワンゴのIT技術、ニコニコの双方向コミュニケーションづくりのノウハウを結集したネットの高校」と表現。「引きこもりや不登校が一向に解決しない。そういう子供たちがニコニコやカドカワのコンテンツのファンであることが多い。その現場から高校を作り、そこに集まった生徒が社会との接点を見つけ、職業教育や大学受験にチャレンジして社会に出ていく場が作れたらと思っている」と述べた。

 川上氏は、「彼ら(不登校や引きこもりの子供)が社会的に行き場を失っている状態で取り残されている。社会の落ちこぼれに見えるかもしれないが、ネット時代はむしろ優れた能力を持っている人もたくさんいると思う」と述べた上で、「ネット社会で彼らが主役になる時代が来ると思う。そういった時代に対応できる高校、僕らがやらないと誰も作らないだろう」と、設立に向けた思いを語った。

 また、30年以上教育現場に携わり、N高等学校の初代校長となった奥平氏は、「生徒たちにとって本当にあったらいいなという学校、我々にとってもこんな学校を作りたかったというものを、N高等学校で実現したい」と述べた。

(山川 晶之)