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「ネットを通じた医療」がいよいよ普及?「オンライン診療」に関わるルールが4月に緩和
現実に即したオンライン診療ルールで次のステップを睨む
2022年5月11日 06:55
病院での待ち時間の長さに、なぜこれほど長く待たされる必要があるのか? と疑問に感じた人は少なくないのではないだろうか。もちろん、医療サービスを公平に受けるためには常識的なルールがある。
とはいえ、ネットワークサービスが充実した昨今、医療サービスの一部はオンライン化で効率を高めるだけではなく、場所や時間の制約を緩和して効率を高めることができるはずだ。さらに言えば、コロナ禍の中においては診察の一部をオンライン化することで、病院をハブにした感染拡大を防止する効果も期待できるだろう。
ではなぜ、オンラインでの診察は一般化されていなかったのだろうか?
実は、4月1日からオンライン診療に関する規制緩和が行なわれ、診療だけでなく処方箋発行や服薬指導でも、オンラインでの対応がほぼ制約なしに可能となった。同時に診察料の点数も実態に即したものへと改正されている。
その内容と現状を紹介していきたい。
日本でオンライン診療が進まなかった理由
さて、この規制緩和は内閣府の規制改革委員会で練られた原案をもとに、新たな立法を行なうことなく実施されたものだ。
新型コロナウィルスのパンデミックが発生し、対面での診察にかかる負荷が高まっていることを背景に、全世界平均では診察全体の23%がオンラインで実施されるようになっている。ところが日本はわずか7%にすぎなかった。(2021年6月アクセンチュア調べ)
あくまでも全世界平均値との比較であり、通信ネットワークなどのインフラが整い、端末も普及している日本の環境を考慮すれば、その比率はかなり低いと言わざるを得ない。
最も大きな理由は生活習慣病など、一部の疾患にのみオンライン診療が限定されていたことや、診察にかかる医療報酬点数(診察料及び医学管理料)が対面の場合よりも著しく低かったことが理由として挙げられていた。加えて疾患が限定されていたり、初診は必ず対面で行なわなければならないなどの制約もあった。
結果として、ちょっとした体調の崩れ、異常などの相談でも、「対面で病院を訪れ、必要ならば処方箋を発行してもらい、処方薬局で薬を受け取り、服薬指導を受ける」のように、全て対面で、順番にこなさざるを得なかった。
実際には、簡単な問診と薬の処方、服薬だけで済む患者も多いわけだが、これでは患者、病院双方にとって効率的とは言えない状況だった。
新たな立法なしにオンライン診療の増加を見込む
そこで、内閣府の規制改革委員会では医師会などの医療関係者なども含め、オンライン診療普及の阻害要因となっている要素を見直したところ、厚生労働省から出されていた運用指針やガイドラインなどの見直したのが、4月1日からの新しい基準だ。
これまでは「再診に限定」、「対面とオンラインの両方を同一医師が担当せねばならない」という制約があったが、初診も原則オンライン化が可能になり、「同一医師であるように」との指針も撤廃された。
さらに対象疾患も制約がなくなり、医師の判断でオンライン診察とすることが全ての疾患で可能に。診療報酬に関しても、初診料、医学管理料が対面の87%に設定されたものの、再診料は対面と同じ点数に診療報酬が改正。導入を阻んでいた条件が解消されたことになる。
また薬の処方に関しても電子処方箋発行のガイドラインを改正。従来は医師全体の6%しか保有していないHPKIカードという医師を特定するカードを用いた電子署名が必要だったが、一般的なインターネット上で用いられる電子署名でも発行可能となり、さらに服薬指導に関する制限も撤廃されている。
特にオンライン服薬指導に関しては、従来はオンライン診察時のみに限定されており、患者との対面指導経験がある薬剤師のみしかオンラインでの指導が行なえないなど、運用の簡素化を阻害する要因があった。
例えば風邪などの体調不良があった際でも、
で患者の集まる病院に行き、待合室で診察を待った上で、さらに処方箋を受け取り、薬局での受付を行ないといった手順を踏む必要はなくなり、診療報酬の見直しも行なわれたことで病院、医院側もオンライン診療へと踏み込みやすい環境が整ったといえるだろう。
多くの医療機関がオンライン診療導入へ意思表示
実はこうしたオンライン診療普及に向けての案は、およそ5年ほど前から政府で検討されていたという。それが進んでこなかった背景には、関係各所の警戒感が強かったこともある。
オンライン診療を受け入れている医療機関は、全体の1割に満たないというのだから、オンライン診療の件数が増えないのも当然だったと言える。
しかしコロナ禍の中で特例措置が設けられ、オンラインでの診察事例が増えてくると、医療機関にとっても負担軽減となることがわかってきた。さらにオンライン処方箋や服薬指導のオンライン化に伴う問題点も洗い出され、一気に整備への流れが進んだという。
今回の改正に伴うオンライン診療の導入に関し、オンライン医療事業を展開するMICIN(マイシン)社が今年2022年2月、168の医療機関にアンケートを実施したところ、87.5%の医療機関がオンライン診療が増加すると答えたという。
これまでオンライン診療を受け付けていなかった医療機関の51%がオンライン診療の導入を表明し、導入済みの医療機関は利用する患者が1.9倍になると予測したという。
もちろん、これらは予想でしかなく、まだ普及に向けてはステップが必要だ。
この改正は“オンライン診療に向けた環境整備”が行なわれただけであり、実際にどのようにオンライン診療を行なうのか、医療機関側の運用・システム整備や患者への認知拡大などはこれからの取り組みとなるからだ。
しかし制約がほぼなくなり、また医療機関側で抵抗する要素がなくなったことで、症状が比較的軽い疾患の医療に関してはデジタル化(DX化)の目処が立ったとはいえるだろう。
ただし課題がないわけではない。
オンライン診療に残る課題とは
実はオンライン診療を受けるためには、対象患者が自宅にいなければならないという制約が残っている。
実際にオンライン診療を実施するとなれば、オンライン会議アプリをインストールし、URLを開いて接続するなどの手順が必要になってくるが、高齢者などは自力でそうした環境を整えることが難しいだろう。
しかし、「自宅にいなければならない」という制約のため、例えば「近隣の公民館や役所などに行ってITサポートを受けながらオンライン診療を受ける」といったことができない。
また、老人介護施設に入所している方も、オンライン診療の対象外だ。老人特別養護施設など、医師や管理栄養士との契約が前提で国費が割り当てられている場所でのオンライン診療解禁に医師会などが反対していることなどが背景としてある。そうした施設が内部対応できる疾患の大多数はオンライン診療で事足りてしまうため、自宅外でのオンライン診療が解禁されてしまうと制度そのものの見直しが進む可能性があるからだ。
また長期的な視点で見るならば、AI技術を用いた医療用映像の読影診断をどこまで活用し、オンライン診療へと繋げていくかという、さらに一歩進んだ議論も必要になってくるだろう。
今回の改正では比較的軽い疾患の患者が、病院に行き長時間待たせることなく診断と投薬を受けられることになったが、将来は診断できる医師が少ない症例などに関して、AIで切り分けを行なった上で限られた医療リソースを適切に分配するなど、医療のデジタル化で前に進めるテーマは多い。
コロナ禍でオンラインでの診療に注目が集まり、医療機関と患者の双方に経験値が増えてきている。この機会にオンライン化の議論が、さらに広がることを期待したい。