インターネット 未来へのバトン
「人と人のつながり」を諦めない―MIXI創業者・笠原健治氏が語るSNSの変質と安心のかたち
2026年9月1日 10:00
「mixi」「モンスターストライク」、そして家族向け写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」(以下「みてね」)。日本のインターネット史に残るサービスを世に送り出してきた株式会社MIXIで取締役ファウンダー・上級執行役員を務める笠原健治(かさはら・けんじ)氏。2024年末には新たなSNS「mixi2」を立ち上げ、一貫して「人と人のつながり」というテーマに挑んでいる。
創業の原体験から、レコメンド全盛時代への違和感、そしてAIの波のただ中で次世代の作り手に何を託すのか。現在の考えを聞いた。(聞き手:錦戸陽子、仲里淳/撮影:渡徳博)
INTERNET Watchと共に30周年を迎えた年鑑書籍『インターネット白書』の編集部がお届けするこの連載では、90年代のインターネット商用化以降に花開いた新ビジネスや技術・社会の潮流に着目し、開発や推進に携わった当事者に話を聞く。挑戦者の歩みから、インターネットの未来へのヒントを探る。
フレンドスターの衝撃と「使い続ける理由」
──mixiの着想は、海外のSNSをご覧になったことがきっかけだったと伺っています。当時、どんな衝撃を受けられたのでしょうか。
笠原氏:具体的に見ていたのは「フレンドスター(Friendster)」でした。当時はネット上に個人情報を載せるのは、ご法度というか、あまりやらないのが普通でした。ところがフレンドスターでは、みんなが自分のプロフィールや友人関係を公開して使っている。友人をクリックすると、その友人のプロフィールや、友人の友人の一覧が見える。人と人がどうつながっているのかが可視化されているのが、非常に画期的で、衝撃を受けました。人が人を呼ぶ仕組みで広がっていきそうだな、と感じたのが最初です。
──ご自身も登録して使われていたのですか。
笠原氏:登録して、何人か招待してみると、その人がまた誰かとつながっていく。その様子を見るのは初めての経験でした。ただ一方で、使い続ける理由があまりないな、とも思ったんです。フレンドスターは、グラフを作って探索を楽しむというコンセプトでした。それだと、なかなか使い続けるサービスにはできないのではないか、と。使い続けてもらうには、コミュニケーションできる機能が必要だと考えました。
──そこから「日記」や「足あと」「コミュニティ」といったmixiの独自の機能が生まれたわけですね。
笠原氏:そうです。そういった機能があることで、つながった人同士が日々コミュニケーションするために使い続けていく。そういうサービスにできるのではないかと考えました。当時は求人サービス「FINDJOB!」を6〜7年運営していて、組織も整い、任せられる状態でした。社内に3人ぐらいのチームをつくって、会社の端っこの方で始めたのがmixiです。ビジネス向けの事業に対して、誰もが使う可能性のあるコンシューマー向けのサービスづくりは、より自分事にできて、面白いなと思いましたね。
「人が人を呼ぶ」手応えと、オーカットとの競争
──立ち上がりはいかがでしたか。一気に来たという感覚でしたか。
笠原氏:最初の1〜2か月は、うまくいっているのかいないのか、判断しにくい雰囲気でした。転機は、サービス内を回遊していた時です。自分がまったく知らない学生さんたちがつながり合って、めちゃくちゃ盛り上がっていた。日記やコメントを書き合っている。それを見て、これは再現性があるのかな、と思いました。
それから半年がたつ頃、ユーザー数は10万人を超えました。mixiがまだ赤字だという記事を見たユーザーの方たちが、有志で「どうすればいいか会議しよう」というイベントを開いてくださって。愛用してくださっているからこその呼びかけであり、本当にありがたい機会でした。その頃から口コミでどんどん広がって、まさに指数関数的にユーザーが増えていきました。
──当時、グーグルの「Orkut(オーカット)」も先行していましたね。
笠原氏:正確には、オーカットがmixiの1〜2か月前に始まっていて、日本でも広まっていました。SNSは特にネットワーク効果が働きやすく、人が一番使っているところをみんなが使う。ですから、このままだとオーカットが勝つのではないかと、社内でもかなり焦りながら出していきました。
──それでもmixiが選ばれたのは、なぜだったのでしょう。
笠原氏:他社はフレンドスターのように、グラフのつながりを楽しむ設計になりがちでしたが、mixiは、日々コンテンツを発信できることを意識していました。友達が日記を更新したら見たくなる、コメントへの反応が気になる。そうやって毎日使い続けるからこそ、皆さんが広め続けてくれたんです。
──当時、重視していた指標は、どんなものでしたか。
笠原氏:使い続ける意欲が高まっている状態かを一番気にしていました。アクティブ率はもちろん、新しい日記が発信されているか、リアクションの量や割合、マイミク(承認した友だち)の数、そして新しい人ともちゃんとつながっているか。割と落ちやすい指標なので、なるべく落ちないように意識していました。
──やがて「mixi疲れ」「mixi中毒」という言葉も生まれました。
笠原氏:熱中して使いすぎる時期があって、ちょっと一段落して、割と平準的に使う、という流れだと思っていました。それぐらいのめり込んでくれる人がいたということでもあります。「mixiで結婚しました」と言ってくださる方もいましたし、ガラケーでmixiを操作している人を街でよく見かけました。日常に根付いているんだなという実感は大きなやりがいでしたね。
コミュニケーションから「消費」へ――SNSの変質
──その後、SNSは短文のTwitter、写真のInstagram、メッセージのLINEと細分化していきます。mixiにとっては、難しい局面だったのではないでしょうか。
笠原氏:よりとがった、軽量で、使い方が明確なサービスが、それぞれユーザーのニーズをしっかり切り取っていた。我々は総合的にやっていたので、意外と難しいなと途中で感じていました。総合型では、やがてFacebookという強力な競合とも対峙することになりました。
──さらに、レコメンドアルゴリズムが台頭してきます。
笠原氏:SNS自体が変質していったと思います。元々は、人が人を招待してつながり、その人たちがコミュニケーションする場だった。それが、AIのアルゴリズムによって、滞在時間やエンゲージメントを最大化するようフィードを調整することが、かなり過度に起きている。より刺激が強く、熱中するコンテンツが次から次へと流れてくる場に変わっていきました。コミュニケーションの場から、コンテンツを消費する場への変化です。
ユーザーが一番使うサービスは、ある種、その時代の正解でもある。否定できるものではないと思いつつ、では自分たちはどういうサービスを目指すのか。逆張りも含めて考えていく必要があると思っています。
家族限定招待制が生む安心感――「みてね」
──その「逆張り」の一つの答えが、子育て家族向けの「みてね」ですね。グローバルで3000万人を突破しています。
笠原氏:自分が招待した家族とだけ使うので、安心感や信頼感がとても高い空間です。一般的なSNSだと誰が見るか分からず、子どもの写真をどんどん上げ続けるのはためらわれる。でも「みてね」は招待した人だけなので、安心して上げやすい。UIもアルバムになっているので、連写した写真でも気軽に上げていい。あくまで成長アルバムの一枚として上げればいい、というスタンスです。
──集まる人の熱量も高いそうですね。
笠原氏:招待されたおじいちゃん、おばあちゃんは、視聴率100パーセントのファンとも言われます。必ず見てくれる。親の側も、熱いファンの前でアイドルの写真を撮ってあげるマネージャーのような気分になる。だから、もっとたくさん共有したくなるんです。熱量の高いコンテンツと、他にはない熱量の高いグラフ。そのかみ合わせが、世界に広がった理由だと思っています。
──世界展開の中で、地域差もありますか。
笠原氏:欧米は、血縁を超えても関係性の深い人をどんどん招待する傾向が強く、つながり数が多い。日本はもう少し慎重に選ぶ。一方で、動画を撮る文化はアジアのほうが根強いですね。AIの活用も進んでいて、数か月の成長記録を自動でつなぐ「1秒動画」や、人物認識による出し分けなど、新しい体験づくりが続いています。写真プリントやフォトブック、子どもの見守りGPSなど、デジタルからフィジカルへの展開も特徴です。
逆張りとしての「mixi2」
──2024年末には、新たなSNS「mixi2」を立ち上げられました。
笠原氏:レコメンドによるコンテンツ消費ではなく、人と人のつながりを感じられる、コミュニケーションしやすいサービスです。タイムラインはレコメンド中心ではなく、フォローした人や入ったコミュニティのコンテンツが時系列で流れる。それを中核に据えました。
──なぜ今、あえて時系列なのでしょうか。
笠原氏:もう少し人と人のつながりを実感できる、オープンというよりも、やや狭い空間で、安心感を持ってコミュニケーションができてもいいのではないか。ポジショニングとして、コンテンツを消費する潮流の逆を行く、シンプルなサービスがあってもいい、と考えました。TwitterがXへと変わる転換期で、変化のあるところにこそチャンスがあると見たんです。
──mixi2は18歳以上が対象です。世界では、若年層のSNS利用を制限する動きもあります。
笠原氏:全部のSNSを禁止するべきかというと、現実的には禁止しきれないとも思いますし、徐々に慣れていくべきだとも感じています。禁止して水面下の分からないところで使われるよりは、ゾーニングというか、この年代はここまでの機能しか使えない、こういう危険性があるから注意しようということが正当に伝わる状態で使ってもらうほうがいい、と思っています。
──目指しているのは、どんな空間ですか。
笠原氏:安心感・信頼感のある、ほっこりほっとする空間です。ストレスを感じにくく、気軽に投稿でき、リアクションもポジティブな言葉が基本です。レコメンドだと、攻撃的な投稿のほうが広がりやすい面がある。文脈なく切り取られることで、ミスコミュニケーションも生まれる。そういうものが少ないのは、大きな違いだと思います。一方で「話題」というハッシュタグ的な機能も導入し、安心感を保ちながら、緩やかに人と人がつながる仕掛けも織り込み始めています。
AIの波と、次世代の起業家へ
──AIの台頭を、どう捉えていらっしゃいますか。
笠原氏:コンテンツが爆発的に増加し、消費する時間はさらに増える。レコメンドのアルゴリズムも磨かれていく。良くも悪くも、です。同時に、うそや詐欺といった悪意ある情報が出回るリスクもあります。悪意を持った人にも有用なツールで、しかも簡単になってきている。なかなか大変だな、と思っています。
──人と人のコミュニケーションという領域は、どうなるとお考えですか。
笠原氏:消費するコンテンツの領域には、だいぶAIが入ってくると思います。ただ、友達の近況を知る、といったコミュニケーションの基本的なところはなくならない。AIを活用して、より円滑なやりとりをしていく方向もあるでしょうが、人と人がつながってコミュニケーションをするという概念自体は、これからもずっと続いていくと思っています。
──SNSネイティブ世代のこれからのサービスを創り出す担い手、起業を目指す人へ、メッセージをお願いします。
笠原氏:やはり、世界的なサービスをつくっていけたらいい。インターネットの世界は昔からアメリカが何歩も先を行き、最近はAIで中国も強い。日本勢が活躍できる余地が狭まっている印象もありますが、なんとか打破して、世界的に使われるサービスを提供していきたい。プレーヤーが増えれば、成功する確率も上がっていく。若い人たちと一緒に目指していけたらうれしいです。
──最後に、笠原さんにとって、インターネットとは。
笠原氏:30年間、ユーザーとしても堪能させてもらいましたが、仕事の面でも、大きな波であり、夢をかなえてくれる場でした。始まった当時、みんなが「大きな波が来るよ」と言っていた。自分もそう思って飛び込んで、実際にこんなに大きな波になった。失敗も、しんどい思いもしましたが、いろんなサービスに挑戦できた。2010年代のスマートフォン、そして2020年代のAI。もしかしたら、AIはインターネット以上に大きな波になるかもしれない。これから起きる変化が、すごく楽しみです。







