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NTTデータ、人に“やさしい”Webで「eデモクラシー」実現

~情報アクセシビリティセミナー開催

 NTTデータは、「誰にでも使いやすいシステムを提供する『情報アクセシビリティ』のJIS化と今後の市場動向」と題する報道機関向けセミナーを開催した。6月20日に公示された、Webコンテンツのアクセシビリティを確保するための要件を規定したJIS規格「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ(JIS X 8341-3、WebコンテンツJIS)」を受けて実施されたもので、講師は、策定に加わったNTTデータ公共システム事業部の島田孝宜氏ら。WebコンテンツJISの解説や公示の影響などが解説された。


ユニバーサルデザインの実現は、アクセシビリティとユーザビリティの向上がカギ

NTTデータ公共システム事業部の島田孝宜氏
 本題に入る前に、島田氏から「ユニバーサルデザイン」と「バリアフリー」についての説明があった。同氏によれば、バリアフリーとは、特別な人のための特別なデザインで、既存インフラからバリア(障害)を取り除くこと。例えば、車いす用のスロープや入口、バスの専用昇降機などが該当する。いずれも一般ユーザーの利用は想定されていない設備だという。一方、ユニバーサルデザインは、誰でも利用できる使いやすいデザインを指す。最初からバリアを作らないことを想定し、老若男女の区別なく製品作りをしていく概念だ。「ユニバーサルデザインとは、“使える”ことの尺度『アクセシビリティ』と、“使いやすさ”の尺度『ユーザビリティ』が両立するように、あらかじめ設計・開発することだ」と述べた。

 アクセシビリティとは具体的に言えば、ブラウザに表示される文字が変更可能であることや、Webサイトが音声読み上げソフトに対応していることなど。わかりやすい文章や的確なナビゲーションなどはユーザビリティの範疇に入る。アクセシビリティを向上させるアプローチとしては、ユーザーが対応する方法と、コンテンツの提供者が対応する方法があり、「例えば文字の小さなポスターを読む場合は、ユーザーがメガネを使う方法とポスター制作者が文字を大きく書き直す方法がある」という。いずれにせよメガネメーカーとして、もしくはコンテンツの提供者としてユーザーのアクセシビリティを考慮する必要があるとした。


バリアフリーとユニバーサルデザインの違い ユニバーサルデザインは、アクセシビリティとユーザビリティの向上で実現する

「JIS X 8341」は人に“やさしい”の語呂合わせ

 WebコンテンツJISを包含する上位規格「JIS X 8341」の目的は、「高齢者や障害者のアクセシビリティの確保・向上」だ。この障害者には一時的な障害者も含まれており、「骨折した場合や、新宿アルタ前のような騒音で電話が聞こえないような環境による“障害者”も該当する」。なお、「JIX X 8341は“やさしい”の語呂合わせ」だという。

 JIS X 8341の構成は、共通指針である第1部「JIS X 8341-1」、情報処理装置について規定した第2部「JIS X 8341-2」、そして第3部のWebコンテンツJISから成り立つ。JIS X 8341-2はメーカーやソフトベンダーの開発者向け規格で、利用者の視点から必要な機能を抽出している。


「JIS X 8341」の目的は「高齢者や障害者のアクセシビリティの確保・向上」 各規格の位置づけ

WebコンテンツJISは“配慮するための指針”という性格が強い

 WebコンテンツJISでは、HTMLなどで記述されたコンテンツの企画から設計、開発、運用にわたり配慮すべき事項について規定。ブラウザを用いてアクセスするサービスやコンテンツであれば、キオスク端末やCD-ROMによるコンテンツまでも含まれる。島田氏は「ブラウザを用いてアクセスするコンテンツすべてを対象としているため、JIS X 8341-2よりも影響するプレイヤーが多い。企業だけでなく個人や組織も対象となる」と解説。「まずは、幅広いユーザーがアクセスする行政や地方自治体などの公共分野。続いて、銀行、交通、電話、マスコミなどの社会的役割の多い企業が率先して適用してほしい」とした。

 WebコンテンツJISの個別要件としては、「規格及び使用への準拠」「構造と表示スタイル」「操作及び入力」「色及び形」「文字」「音」「言語」など9つのポイントで合計39個の確保基準を規定。W3Cなどの標準化団体が作成した基準を参考に日本語環境独自の問題点を追加したという。例えば、「識別しやすい配色などへの配慮」という確保基準では、明度や彩度に差を付けること、文字を縁取ること、判別しやすさを考慮することなどを“望ましい例”として掲載。「ネジなどのJIS規格では厳密に対応しなければならないが、WebコンテンツJISでは“配慮するための指針”という性格が強い」としている。

 島田氏は、WebコンテンツJISを「製作から検証までのガイドライン。初めて開発プロセスの全工程を語った規格」と評価。その一方で、国際化への対応としてW3CのWCAG(Web Contents Accessibility Guideline)との整合性を考慮するとともに調和を図る必要性や、新技術への対応、規格に準拠を判断するための基準やチェックリストが存在しないことなどの課題も指摘した。


「識別しやすい配色などへの配慮」という確保基準では、明度や彩度に差を付けること、文字を縁取ること、判別しやすさを考慮することなどを“望ましい例”として掲載 「製作から検証までのガイドライン。初めて開発プロセスの全工程を語った規格」と島田氏

官公庁や自治体の対応はこれから本格化

官公庁では手続きの97%がオンライン化を果たしているという
 続いて、官公庁や自治体の対応状況についても言及。官公庁では手続きの97%がオンライン化を果たしているという。「当初は信頼性の獲得を目指しており、使いやすさへの優先度は比較的低かった。しかし、今回JIS規格が策定されたのをきっかけに、質を向上させる施策として有効だと認識されているようだ」と述べた。また、自治体に関しては、「比較的対応が容易な音声読み上げソフトへの対応も47都道府県中19県の実施に止まっている」とし、「8割を超える自治体がアクセシビリティの対応を不十分だと認識している」という。一般の企業に関しては、「富士通やIBMなどの大手IT企業を中心に取り組みが積極化している」と述べた。

 なお、アクセシビリティ向上に関する取り組みそのものについて、「現在語られている対応はWebサイトがメインになっており、Webシステムへの取り組みも今後は必要だ」という。また、現状では、WebサイトとWebシステムが混同されていることも問題と指摘。「Webサイトの特徴は、HTMLファイルをブラウザで表示するもので『情報提供』が目的。Webシステムの特徴はプログラムで処理したものをブラウザで表示するもので『情報処理』が目的だ」と解説した。

 また、Webシステムなど情報システムのアクセシビリティ向上は、「プログラムの修正が必要になる場合もあり、Webサイトよりも難しい」という。「JIS規格制定により、情報システム開発や利用に関わるプレイヤーに共通の指針ができたのは良いことだが、開発側のルールがJIS規格に未対応であるなどの問題点もまだある」とコメント。さらに、「HTMLをアクセシブルに記述できない」などJIS規格だけでは解決できない問題点や、準拠をチェックするための基準が整備されていないため調達における問題点もあるという。


「Webサイト」と「Webシステム」の違い JIS規格だけでは解決できない問題もある

政府の調達には今後JIS規格に準拠していることが求められる可能性があるという。ただし、現時点では準拠を判定する基準がないことが問題だ 「準拠をチェック・評価する体制を」(島田氏)

アクセシビリティ向上で「eデモクラシー」実現

NTTデータ技術開発本部システム科学研究所の高木聡一郎氏
 NTTデータでは、Webサイトのアクセシビリティを向上することによって、市民が自治体の政策立案に関与できるような「eデモクラシー」の実現に協力しているという。NTTデータ技術開発本部システム科学研究所の高木聡一郎氏は、神奈川県大和市の掲示板「どこでもコミュニティ」を例にあげ、「市民がBBSで発言した内容は、発言と同時に市役所の職員全員にメールで配信される。場合によっては職員から回答することもある」とコメントした。

 会場からは「掲示板を設置する自治体は少なくないが、“荒れる”場合もあり管理は難しいのでは」という質問もあった。これに対して高木氏は、「確かに“荒れる”掲示板もある。しかし、それはまずITありきで導入した場合だ。成功事例では、掲示板のコミュニティを作るのと同時に、リアルで“フェイストゥフェイス”のコミュニティを作り、両方を一体的に運営している。参加者にコミュニティを守る意識を植え付けるのが大事なのではないか」との見解を示した。


掲示板の電子的なコミュニティとフェイストゥフェイスのコミュニティを一体的に運営する 神奈川県大和市の成功事例

日本国内のJIS規格と、米国のリハビリテーション法では由来が異なる

 島田氏は、JIS規格のモデルとなった米国のリハビリテーション法第508条に触れ、「米国ではまず、人権法があって技術に反映された。例えば障害者のためのエレベータがあっても、それがちゃんと利用されているかを検証する体制があり、罰則規定も設けられている」という。一方、国内では、「技術から入ったため、実際の利用状況などを検証する体制はできていない。また、罰則規定も制定されていない」状況だ。今後は、「JIS規格への準拠や対応するためのコンサルティングなどに関するビジネスが台頭する」と分析した。

 最後に「坂本竜馬はみんなが怖がっている黒船を欲しいといった。特に高齢者や障害者はコンピュータを怖いと思われるかもしれないが、“黒船”を優しいものにしていかなければならない」と述べてセミナーは終了した。


会場ではNTTデータが開発したWebシステムのデモ映像も放映された。同システムは、音声でやり取りするというものだった

例えば、「コントラストをはっきり」と言うと…… 極端な例だが、白黒で表示される

関連情報

URL
  NTTデータ
  http://www.nttdata.co.jp/

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( 鷹木 創 )
2004/07/02 18:52

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