TTC(社団法人情報通信技術委員会)・DSL専門委員会スペクトル管理サブワーキンググループは、8月19日と20日の両日に第15回会合を開催した。初の2日間開催となった同会合では、11月30日を目標にスペクトル管理基準を定める「JJ100.01」の改版を目指すとしていることもあり、各社から大量の寄書が出され激しい議論が交わされた。
● 論点の整理が進むも、依然として合意が得られない部分も多い
今回会合ではこれまで持ち越しとなっていた論点についてかなりの部分で合意が得られたが、一方で争いのある部分も明確化する結果となった。
まず、いわゆる長距離向け方式の取り扱いに関して、線路長で何kmまでを管理対象とするかについては「従来通り線路長5kmまでは単一の計算ルールで管理を行なう」との意見が多くの事業者から出され、これについては多少異論もあったものの基本的に合意。ただし、線路長5km以上の部分の取り扱いについては「完全にフリーゾーンとする」とする意見と、「5kmまでとは異なる何らかの管理ルールを設けるべき」という意見が対立し、その部分の取り扱いについては引き続き検討することとなった。
異なる方式間の干渉を計算する際のモデルについては、ブリッジタップの導入に関して「線路損失に与える影響がバラバラであり、公平な評価が困難」(NTT東日本)、「特定周波数で損失が大きく変化するためモデル化が困難」(住友電工)という意見が大勢を占めた。また、現在は0.4mm・ポリ絶縁ケーブルによるモデルを採用している線路モデルについて、現実のフィールドに近い複数の異なる線種のケーブルを組み合わせた、いわゆる「マルチゲージモデル」を導入することについても、「管理基準の運用負荷が大きくなりすぎるので導入すべきではない」(イー・アクセス)、「マルチゲージで発生する反射減衰量を計算してみたが影響はごくわずかであり、あえて採用する意味はない」(アッカ・ネットワークス)といった意見が相次ぎ、どちらも採用は見送られた。
ただし、計算モデルについては他にも、「現在は同一カッド1回線+隣接カッド4回線の計5回線を妨害源としているが、これは同一カッド1回線+隣接カッド1回線の計2回線で十分ではないか」(アッカ・ネットワークス)、「多重漏話減衰量の計算について、全ての妨害源について99%最悪値を使うよう統一すべき」(JANIS)、「現在8bitローディングを採用しているのを15bitローディングに変更すべき」(ソフトバンクBB)など多数の提案が出ている。特にビットローディングの変更については、「15bitローディングで保護判定基準値を計算しなおすと、上り拡張(EU)方式について、1.5km未満の近距離での使用が制限される可能性がある」(NTT東日本)と難色を示す意見もあり、さらなる検討が次回以降進められる予定だ。
● JANIS提案の新方式に対し大きな反発が
また今回の会合では、JANISが今回新たに提案してきた「LR2C-VDSL」方式に対し、以前から同会合で問題になっている、あらかじめ上りと下りで使える周波数帯域を定めておこうという「バンドプラン」の議論や、7月2日の同会合で行なわれたEU方式等に関する暫定合意との関係で、他の参加者から大きな反発が見られた。
今回JANISが提案した「LR2C-VDSL」方式は、ITU-T G.993.1 AnnexCで定められた「Bandplan C」を用い、上り帯域として従来ADSLで利用されてきた25~138kHzに加えて2.5~3.75MHzを利用するというもの。この「Bandplan C」は元々G.993.1において「This annex is intended for use in Sweden only.」と記述されているのに加え、本SWGの前身であるTTC・第4部門委員会第6専門委員会において、過去に「日本としてVDSLではG.993.1のBandplan Aを利用する」ことに全会一致で同意していること、さらに7月2日の暫定合意において「1.1MHz以上の部分についてはBandplan Aを利用することが暗黙の了解となっており、このような方式の導入については合意していない」(住友電工)ことなどが問題視された。
中には「Bandplan Aがサポートされているという前提が崩れるのであれば、(Conexantの)SUQ方式についての暫定合意も撤回して欲しい」(NTT持株)という意見が出る一方で、イー・アクセスやパラダインは「バンドプランの設定そのものに反対で、少なくとも3.75MHzまでの範囲は干渉計算のみによる管理を行なうべき」と主張するなど一時議論は紛糾したが、結局は「基本的にはBandplan Aをベースとするが、それ以外のバンドプランの利用についても次回検討を行なう」ことで決着が付き、「LR2C-VDSL」の取り扱いについてもその決着が付くまでは保留されることとなった。
● 暫定合意をそのまま恒久化する要望も
さらにJJ100.01改版後、7月2日の暫定合意の対象となっているEU方式についてどのような取り扱いを行なうかについても、改版によりEU方式の利用制限(距離制限等)が暫定合意よりも厳しくなる可能性が出てきたことから、事業者によって意見が分かれた。
アッカ・ネットワークスやJANISは「現行の第2版に掲載されている方式については、基準が厳しくなるようであれば何らかの経過措置は必要だろうが、EU方式など暫定合意の対象方式については、改版完了後はその基準に従うのが筋」と主張したのに対し、NTT東日本やイー・アクセス、ソフトバンクBB、TOKAIらは、「EU方式に関しては、改版完了後も暫定合意の距離制限に従い増設等を認めて欲しい」と訴えた。
これには「暫定合意が改版後もそのまま有効になるのなら、なぜ『暫定』とついているのか意味がわからない」(議長を務める吉井伸一郎・北海道大学助教授)と疑問の声も上がったが、この問題についても改版内容の大筋が固まった段階で改めて議論するとして結論は先送りされた。
関連情報
■URL
TTC DSL専門委員会スペクトル管理SWGに関する情報
http://www.ttc.or.jp/j/info/dsl/dsl.html
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( 松林庵洋風 )
2004/08/20 21:09
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