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イー・アクセスがモバイルVoIPの番号付与を要望~総務省のIP電話研究会



 総務省は14日、「IP電話のネットワーク/サービス供給に関する研究会」第5回を開催した。第5回では第4回で研究会の委員が中心となって議論したIP電話の課題について、各通信事業者がそれぞれの立場での考えを表明した。


「IP電話市場には固定電話市場の影響が避けられない」との意見が

 ケイ・オプティコムは、IPをベースとしたインターネット接続サービス、電話、放送の違いを説明。インターネットは新規にサービスを提供する場合も大規模ISPと接続すればよく、放送サービスもコンテンツホルダーと接続すれば事業者単独でサービスを提供できるが、電話の場合はすべての事業者との相互接続が必要であり、この相互接続にさまざまな課題があるとした。

 相互接続の課題としてケイ・オプティコムが挙げたのが、相互接続の費用負担方法、NTT固定電話のアクセスチャージ値上げ、異なるIP電話網との接続プロトコル標準化など。アクセスチャージ値上げに関しては「将来的に固定電話のトラフィックが激減した場合、固定電話向けの通信料金も高騰が予想される。固定電話網に依存した現在の電話事業形態では、アクセスチャージの値上げは相当なインパクトを及ぼす」とした。

 また、0AB~J番号のIP電話を提供するのに実質上FTTHが不可欠なことから、0AB~J番号のIP電話市場はFTTH市場にも直結すると指摘。「NTT東西が固定電話事業の営業力やブランド、要因などを活用してIP電話事業を展開することで、結果的にFTTH事業でも市場支配力を持つ可能性が高い」と語った。

 日本テレコムは、IP電話市場において「公正」の概念が変わっていくのではないかとの理論を展開。従来の電話市場は独占状態から始まっており、ボトルネック設備の利用や独占的に提供されていたサービスの顧客基盤利用に関しての公正が考えられてきたとした上で、「IP電話市場は競争によって確立した市場であり、IP電話のビジネスモデルである垂直統合型モデルと水平分業モデルの間で新たな公正が求められている」と指摘。「新たな公正のみ分析するのではなく、従来の公正も含めて考えるべき」と語った。

 IP電話市場における固定電話市場の影響力については「独占から始まった固定電話と競争によって確立したIP電話だが、まったくの別サービスでない限り、固定電話からIP電話への影響力は存在する」との考えを披露。「電話の隣接市場または部分市場における市場支配力の分析には、営業情報や顧客情報といったソフト面の分析も必要だろう」と語った。


0AB~J番号のIP電話は投資規模も大きく競争が起こり難い構造に

 ソフトバンクBBは、IP電話市場の階層化と競争状況に関して意見を提出。「IP電話サービスの市場参入は、通信回線といった下位層になればなるほど顧客囲い込みに有利だが、一方で投資額の規模も大きく、投資回収期間も長くなる」とした上で、「コンテンツやアプリケーションのような上位層で参入した場合も、他の事業との組み合わせで多様な囲い込みが実現できる。特に050のIP電話は低い投資規模での参入が可能であり、音声コンテンツの小売が市場を拡大させている」と指摘。「IP化によって上位層への参入が活発化していると考えられる」と語った。

 また、第4回の研究会で、固定電話のトラフィックが2002年以降減少している理由として「IP電話による代替が進んでいることが1つの要因」との資料が提出された点について、同社のIP電話サービス「BBフォン」の事例を引用して説明。「BBフォンは2002年4月から提供しているが、2002年度のトラフィックは2003年度の約1億時間よりも低い。固定電話の前年比減少トラフィックが2002年度で約9億時間、2003年度で約6.8億時間であり、BBフォンのトラフィックが伸びた2003年度に固定電話トラフィックの減少が少なくなっていることからも、IP電話の代替が固定電話のトラフィック減少要因とは言えないのではないか」との意見を投げかけた。

 フュージョン・コミュニケーションズは、050番号のIP電話と0AB~J番号のIP電話の市場の違いについてコメント。050番号はNTT東西の地域IP網を例に挙げ「東西別に1カ所または都道府県47カ所に接続すれば全国サービスが可能で、設備投資も低い。ビジネスモデルも一体型や回線分離型など多様で、参入事業者は28社に上る」と説明した。一方で0AB~J番号は「帯域保証が必要であり、NTT東西のGC局までの光アクセス回線構築や借用などが必要なために設備投資が膨大。体力のある事業者のみが参入可能であり、競争が起こり難い構造になっている」と指摘した。

 SIPサーバー間の接続も課題の1つであり、「現在は異なるSIPサーバーを接続するためにSBC(Session Border Controller)を設置しているが、相互接続の最終確認はIP電話端末で行なう必要があり、50を超える端末の組み合わせによって確認作業が事業者の大きな負担になっている」。この対策としてフュージョンは同社の端末検証センターや、相互接続確立に向けた取り組み「VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース」を紹介した。


世界的な流れを踏まえてモバイルVoIPにも番号付与を

 第5回会合では、第4回まで参加していたIP電話事業者のほかにイー・アクセス、アイピーモバイルも参加。それぞれの観点からIP電話に関する意見を述べた。

 イー・アクセスは、「直接IP電話は提供していないが、ADSLでIP電話のインフラと端末を提供するという観点から意見を述べたい」と同社の立場を説明。また、「ブロードバンド市場で厳しい競争を生き残ってきた観点から、0AB~J番号のIP電話市場におけるサービス競争の必要性についてもお話ししたい」とした。

 固定電話から0AB~J番号のIP電話への移行課題としてイー・アクセスでは「ネットワークの経済性」「相互接続」を指摘。ネットワークの経済性については「IP電話トラフィックを既存のIPネットワークと分離することで不経済なネットワークが生まれている」との意見を示した。これについては総務省から「事業者によってはIP電話と既存のIPネットワークを共有している例もあり、どちらを選択するかは事業者によって異なる」との補足があった。

 相互接続に関しては、PSTN網による現行の接続方式から本格的な相互接続に至った際のナンバーポータビリティ、アクセスチャージや中継料など事業者間精算のルール明確化、SIPやSIP端末の標準化といった課題を提示。また、IP電話市場のサービス競争を促す施策として「シェア50%を超えた支配的事業者はIP電話の再販義務を課す」というアイディアも示された。

 今後の課題としてイー・アクセスでは、「移動性を持つVoIPへの番号付与を検討すべき」とコメント。「SkypeやVonageといったインターネット電話が世界的に普及しており、諸外国との整合性や海外へのユーザー流出回避のためにも番号の付与が必要だ」と訴えたほか、モバイルVoIPの相互接続を早期実現するための情報公開や標準化も進める必要があるとした。

 アイピーモバイルは、モバイルIP電話の観点から意見を披露。「有線で起きたIP化や定額化といった流れが無線でも起きることは不可逆的であり、携帯IP電話の実現によって音声も定額になるだろう」との考えを示した。

 そうした流れの中でアイピーモバイルは「サービスの品質はユーザーの選択に任せ、品質やサービスの内容に幅を持たせるべき」と指摘。IPはADSLやFTTHと同様、モバイルでもベストエフォートであり、多様な無線アクセス回線や接続形態が必要」と語った。

 市場支配力に関してさまざまな意見が寄せられたNTT東日本は「研究会の本来の議論から外れる可能性もあるが」と前置いた上で、同社のIP電話事業について説明。「NTT法では業務範囲規制があり、活用業務の認可をいただいて初めてサービスを提供できる。活用業務の審査の際には、基本的に他の事業者も同じ条件でサービスが提供できるとの観点から認可をいただいている」。また、集合住宅や戸建て向けのIP電話に関しては「電話帳のような顧客情報は使ってはいけないという条件が付されており、そういった条件のもと、後発組ではあるが正々堂々と商品力で勝負していきたい」との考えを示した。


研究会委員からは「電話番号」へのこだわりに疑問の声も

 事業者からの説明を踏まえ、研究会の委員からも意見が述べられた。みずほコーポレート銀行 産業調査部の加藤情報通信チーム次長は「ブロードバンドと既存電話の市場支配力が大きく影響するのではとの意見が多く見られたが、最終的にはユーザーが選択するもの。支配力を持った事業者と同じ土俵で戦うか、革新的で新しいサービスを提供して勝負するかが重要であって、必ずしも固定電話の市場支配力が競争に大きな影響を与えるとひとくくりにする必要はないのでは」と語った。

 奈良先端科学技術大学院大学の砂原教授は、「全体を見ていて思ったのが、いつまで電話番号にこだわるのかということ。今の若い世代では、電話番号を使って電話をかけている人はいない。番号についてこだわる本質はどこにあるのか」と指摘。また、固定電話市場の影響についても「IP電話のシェアが高まれば、逆にPSTN網がIP電話に接続をお願いすることになるだろう。PSTNにはユニバーサルサービスという足かせがあるが、それが外された頃にはPSTNがIP電話に接続するようでなければ競争は発生しないだろう」との意見を示した。

 IP電話の標準化については、フュージョンが紹介、自らも発起人として参加する「VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース」を引用し、「標準化の場を提供しているのに、なかなか企業が参加しない。いろいろお声がけした結果集まっていただいているが、業界で考えなければいけない時期にそのための場を提供しているのにも関わらず、参加していただけないという企業意識が問題」とコメント。「1人でできなければ業界で集まって実験すればいいし、インターネットはそういうものだろう」とした上で、「相互接続の問題は自分たちで解決できるところまで来ているし、Wi-Fiはそれで成功した例だろう」と述べた。


「独占」を振り回すのではなく、具体的内容を明らかに

 さらに砂原教授は、「加入者から資金を調達し、国の補助を受けて作り上げた電話回線に対して、光ファイバはゼロからのスタート。垂直統合でシェアを取ろうという部分があったとしても、それ以外はフェアな競争ではないか」との意見を披露。これに対しては日本テレコムが「既存の管路を利用せずに済めばそれでもいいが、実際には電柱などの管路を利用しなければならない状況がある。実態として現在の光シェアが表わすとおり、固定電話など既存設備の市場支配力が存在する」と反論した。

 この意見に対して東京大学社会科学研究所の松村助教授は「開放のルールはだいぶ整備されていると認識している。すべてを市場支配力のせいにするのではなく、そうであるなら具体的に電柱の使い勝手が悪いということを意見していかなければならない」とコメント。「単に独占という言葉を振り回すのではなく、その独占が何を指しているのかを明らかにすることが必要だろう」との意見を述べた。

 続けて松村助教授は、将来のアクセスチャージ値上げの懸念について「確かにそういった懸念もあるが、逆に過去の負の遺産を引き継いでいて不利な部分もあるだろう。そういった負の部分が現行の接続料にも関連しており、この問題は2つに分けて分析することはできなくなるだろう」との意見を示した。

 甲南大学の土佐教授は「競争評価の観点で、変数となるさまざまな要因があるため非常に評価が難しい」と前置いた上で、「目前の市場だけでなく、中長期の市場や隣接市場、融合市場も視野に入れ、想定し得るプレーヤーや市場特性などのシナリオを共通の議論から検討していくことが、事業者にも行政にも大事ということがよくわかった」とコメント。一方で競争評価については、「諸外国では裁判所やベンチマークテスト、他の国との評価など積極的なレビューを行なっている。我が国でもより外部に開かれた政策の立案や執行、競争評価を意識的に行なっていかなければならない」との課題を示した。


関連情報

URL
  総務省 報道資料
  http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041007_4.html

関連記事
総務省のIP電話研究会「市場の動向に適した規制で競争を促進」(2005/03/15)


( 甲斐祐樹 )
2005/04/14 16:58

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